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2015年 06月 15日

【第10講】正当防衛と緊急避難(2)、責任阻却事由

コアカリキュラム
第3章 違法性阻却事由
第4節 正当防衛
【条文】刑法36条「(正当防衛)第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」
1.正当防衛の違法性阻却根拠
3-4-1○正当防衛が違法性阻却事由となる根拠について理解し、その概要を説明することができる。
・個人主義的見解「自己保全」
・超個人主義的見解「法秩序の確証」
・二元説(山中など)
2.正当防衛の要件
(1)侵害の急迫性
3-4-2◎侵害の急迫性の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
*侵害の予期と積極的加害意思
3-4-6◎行為者が侵害を予期していた場合における正当防衛の成否について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
*予防的防衛
(2)侵害の不正性
3-4-3◎侵害の不正性の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
*対物防衛
(3)防衛の意思
3-4-4◎防衛の意思の要否及び内容について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
*偶然防衛
*防衛の意思と積極的加害意思
(4)防衛の必要性および相当性
3-4-5◎「やむを得ずにした行為」の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
3.正当防衛の制限
*自招防衛
3-4-7◎行為者自らが不正の侵害を招致した場合における正当防衛の成否について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
4.過剰防衛と関連問題ー>責任
(1)任意的減免根拠
3-4-8◎過剰防衛が刑の任意的減免事由とされる根拠を理解し、その成否について具体的事例に即して説明することができる。
・違法減少説
・責任減少説
・二元説
(2)過剰防衛の類型
・量的過剰防衛
・質的過剰防衛
(3)誤想過剰防衛
3-4-9◎誤想防衛、誤想過剰防衛の諸類型及びその法的処理について理解し、具体的事例に即して説明することができる
*違法阻却事由の錯誤
第5節 緊急避難
【条文】刑法37条 「(緊急避難)第三十七条  自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。」
1.緊急避難の意義と法的性格
3-5-1○緊急避難の法的性格をめぐる基本的な考え方について理解し、その概要を説明することができる。
・違法阻却説(通説)
・責任阻却説
・二元説(有力説)
2. 緊急避難の要件
(1)現在の危難
3-5-2◎「現在の危難」の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
(2)補充性
3-5-3◎「やむを得ずにした行為」の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
(3)害の均衡
3-5-4◎害の均衡の要件を理解し、具体的事例に即して説明することができる。
3.緊急避難の制限
(1)業務上の特別義務者(37条2項)
*特別義務者には常に否定されるのか?
(2)自招危難
3-5-5◎行為者自らが現在の危難を招致した場合における緊急避難の成否について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
短答問題
【追加項目】
*防御的緊急避難と攻撃的緊急避難
参考条文:民法720条「(正当防衛及び緊急避難)第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。/2  前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。」
工作物・動物の所有者の無過失責任(民法717条:Wiki;民法718条参照)

第4章 責任阻却事由
第1節 総 説
4-1-1 責任とは何か(概要説明)
4-1-2 責任阻却事由にどのようなものがあるか(概要説明)
【条文】
・阻却事由 刑法39条1項、41条
・必要的減免事由 43条但書
・任意的減免事由 36条2項、37条1項但書
・必要的減軽事由 39条2項
*責任能力規定は阻却事由か?
短答問題*2014年追加
4-1-3 適法行為の期待可能性(概要説明)
【条文】
・(責任阻却説、二元説における害の均衡の場合[生命対生命など] )37条
・105条
・257条
*244条→通説:処罰阻却事由
*超法規的期待不可能性?
第2節 責任能力
*責任無能力は責任阻却事由か?
4-2-1 責任能力が必要とされる理由(概要説明)
4-2-2 心神喪失、心神耗弱の意義及び判断方法(概要説明)
【条文】刑法39条
短答問題
4-2-3 行為者自らが精神障害を招き、実行行為を開始する時点で責任能力が失われ、又は、著しく低下していた場合における刑法39条の適用の可否について理解し、具体的事例に即して説明することができる。→「原因において自由な行為」
参考論文



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Wiki(日本語版)より
イギリス船籍のヨットミニョネット号(Mignonette)は、イギリスからオーストラリアに向けて航行していたが、1884年7月5日に喜望峰から1600マイル(約1800キロメートル)離れた公海上で船長、船員2人、給仕の少年の合計4人の乗組員が難破し、救命艇で脱出した。しかし、救命艇には水や食料がほとんど積まれておらず、カブの缶詰2個と漂流5日目に捕まえたウミガメ以外には雨水しかなく、それも漂流18日目には完全に底をついた。19日目、船長は、くじ引きで仲間のためにその身を捧げるものを決めようとしたが、船員の1人が反対した為、くじ引きは実行されなかった。20日目に船員の中で家族もなく年少者であった給仕のリチャード・パーカー(17歳)が海水を飲んで衰弱したため、船長に殺害され、その死体を残った3人の食料にしたというものである。
24日目に船員3名はドイツの船に救助され生還したが、母国に送還されると殺人罪で拘束された。しかし、彼らは人の肉を食べるために殺人を犯したのは事実であるが、そうしなければ彼ら全員が死亡していたのは確実であり、仮に若者が死亡するのを待っていたら、その血は凝固してすすることはできなかったはずであると主張した。

判決(英語)Wiki
マイケル・サンデル/ハーバード白熱教室@東大での議論参照
S(=サンデル教授):まず彼らを擁護する人の意見から聞こう。彼らを弁護する理由は何だろうか?
A:全員が死ぬよりは、一人を殺すことで(3人が)生きのびる方が社会的にも有益だと考えますし、食べられた人間は誰も身内がいない人間であって悲しむ人間もいません。しかし、食べなければならなかった人間には、支える家族が居り彼らが死ねば、悲しみも増大するのでこれはゆるされる(行為だ)と思います。
S:いいだろう、A。君は数が重要だと考えるのだね? 3人対1人の命。そうして救出された3人には家族があり、彼らの幸せも考えなければならないという更なる事実がある。だから君は給仕の少年を殺害することは、社会の最大多数のための最大幸福を促進するという理由から彼らを擁護するのだね? それでいいかい。
A:ハイ、その通りです。
S:OK。ところでA、君は自分を功利主義者だと思うかい。
A:ハイ、そうです。(会場笑い)
S:次に3人のしたことは道徳的に許されないと考える人からAの功利主義的な見方に反対する意見を聞きたい。どうして反対なのか説明できるかな。
B:道徳的には許されません。誰にも基本的権利があります。どんな状況でも侵害されてはなりません。さらに少年の同意を得ずに殺すやり方は間違っています。
S:Bは道徳的に言って、数字は全く重要ではない。彼らのしたことは定言的、つまり無条件で間違っているという。Aの言うようにそれで多くの命が助かったとしてもだ。その3人には家族があった。一方給仕の少年には、選択肢がなかったという事実も問題になる。彼には事前に相談がなかった。彼に殺してもいいか、と尋ねることもなかったし、彼はそれに同意もしていなかった。自律性、つまり人間には自分の命について選択する自律の基本的権利があると思うかい?
B:ハイ、そう思います。この社会では、誰もが自分の体をコントロールする権利を持っていて侵害できません。
S:誰もが自分の体をコントロールするという権利、基本的な権利を持っているんだね。この意見についてAはどう思う。
A:どの道その少年は、死ぬはずだったのだから、多分暗黙的な了承もあったのではないかなと考えています。それに3人の基本的人権を守るために(1人)の人権を害したのであれば、それは私は許されることだと思います。
S:では二つの意見が出たが、他に彼らを非難する側に加わりたい人は? それは間違っているとい考える人は・・・。さあ君はAにどんなふうに答える?
C:死んだ方には将来があり、将来家族ができたかもしれません。そのように成った場合、その家族に対してどのように考えるかということに関して、Aさんの言っていることは全く間違っていると思います。
S:数についてはどうかな、数は道徳的には重要ではないかね?
C:数は問題ではないと思います。人の人生、命に数ということをたしたら、おかしな事が起きると思います。
A;しかし、さっきの事例によりますとその少年は衰弱しきっていて、死ぬことが決まったかのような言い方だったのでそれだったらその人間は暗黙的に食べられることをおそらく許可したと思います。だからその人間を・・・犠牲にすることによって、3人の命やその家族を守ることは、これは国家的に観ても有意義な行為だと私は思います。
C:全くもっておかしな話だと思います。であればこの中で体の弱っている人がいればその人を殺していいのかということになります。そういうことはまずないと思います。人の命というものの重さは等しいものであって、重さに軽い・重いを付けることはできないと思います。
S;どう思うかね。
D:そのままでは少年は死ぬことは確実です。救助が来れば事情が変わってきますが・・・。自己犠牲であるなら話は別で正当化されると思います
S:ではパーカーが「僕はどうも具合がよくない。どうぞ召し上がれ」と言っていたら問題はなかった、と言うことかい?
D:思うに同意なしに殺すよりよかったと思います。
S:許されるのだろうか?
D:ハイ、少年の同意があれば許されると思います。
S:そうすると前に出た意見、「人間は自分の体について決める権利を持つ」という意見に一致するということになる。自分が望むなら自殺する権利を持つということだと思う?
D:ハイ、彼が言ったように、自分の体をコントロールする権利があるという意見です。
S:君はそれに賛成する?
D:そういう論理に従うのなら賛成です。
S:パーカーが同意しても、なおそれは間違っていると思う人は? 
E:僕は間違っていると思います。というのは自分は自分一人で生きて来たんでなく、両親の支えや友人の支えで、やっぱり自分は助けられて生きてきたと思うので、その人たちの分も背負って生きていると思うので、自分で死んでいいと思った時に、そのまま命を絶つとか死んでいいよとか自分で許可を与えることは、間違っているのだはないかな、というふうに考えます。
S:Eは、人間には自分の命を捨てる権利さえない、と言っている。では・・・パーカーを殺すことはどう思う? 道徳的に許されるかそれとも間違っているか、Eどう思う?
E:僕は道徳的に認められないと思います。
S:道徳的にそれは許容できない。功利主義的な考えに対して面白い二つの反論が出てきた。 その一つは、我々には基本的権利、自律権があるので自分自身の体も命もどうするか決める権利がある。だからパ−カーを殺害する考えは間違っている、という意見だ。そしてE、君が示しているような二つ目の考えがある。それは生命に関する権利は、とても根本的なものなので自分でも捨てることはできないとする考えで、哲学者はそれを「不可譲の権利」と呼んだ。ある種の権利は非常に根源的で、自分の命をどうするか、個人が自由に選択することはできないという考えだ。さて今まで議論してきたのは正義の最初の考え、「幸福の最大化」という考えの実例だ。Aの考えはこうだ。1人の命よりも3人の命とその家族を加えた幸せの方が大きい。そしてこの功利主義的な論法に対して自律的という基本的、絶対的権利に訴える反論があった。基本的権利や人間の尊厳を尊重することが何を意味するか、二つの異なる主張があった。人間の尊厳を尊重する考えでは一人一人が自分の体と命をどうするか、選択することができる。基本的権利の別の考え方によれば、生命の権利はとても重要でとても根本的なものなので、不可譲であり自分でも放棄することはできない、と言う。その二つ目の考えでは、私の命は私自身の所有物ではない。なぜなら他の人々が私を頼っているかもしれないからだ。そして人生を生きるとは、自分の命を絶って単に自由に放棄することはできないという他の人に対する責任を含むかもしれない。ここまでの議論で功利主義の道徳的推論とカントの権利あるいは義務に基づく道徳的推論の典型的な対比を行ってきた。我々はその違いを明らかにしてきたが、同じ人間の尊厳に訴える”正義 ”の中にもとても興味深い意見の相違を見た。さて海で遭難した人々、極端な状況のとても遠い話から「所得の分配・貧富の差」という」と言う現代の話に移ろう。・・・

(問1)刑法的に考えるとA-Eのうち誰の議論が最も妥当か?
*ハーバード大授業での議論(マイケル・サンデル『ハーバード白熱教室(上)』レクチャ−2「サバイバルのための殺人」)と比較して議論に違いがあるか?
(問2)本件では被害者の同意はなかったが、同意があったとしたら,刑法的に正当化されるか?(刑法202条参照)
(問3)刑法37条の「害の衡量」において生命の数の衡量を認めてよいか?財産犯(器物損壊等)の場合はどうか?
063.gifリチャード・パーカーという名前の偶然の一致
参考文献:「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」ポオ小説全集2所収
関連事例:ライフオブパイより
日本の貨物船が太平洋上で沈没し、A(パイ)、B(パイの母親)、C(台湾人の水夫)、D(コック)の4人だけが生き残り、救命ポートで漂流していた。Cは足を骨折していたが,その足は感染症で腫れ上がり、そのままでは命が危ない状態になった。DはCの足を切り落とした。しかしCは死んでしまった。BはCの肉を食べた。翌日、BはDに対して「食べるために死なせたのね」と非難した。怒ったDはB殴り、Aはただ見ているしかなかった。その後もDはCの肉を食い続けた。一週間後、Aはは捕まえた亀を誤って逃がしてしまい、Dから殴られた。BはAをイカダに逃がしたが、自分ははイカダの方には来ず、Aはボートに戻ったがすでに遅く、Dはナイフで殺害したBの体を海に投げ捨て、Bはサメに食いちぎられた。翌日、AはDと闘い、奪い取ったナイフでDを殺し、その肉を食べた。

参考文献:ヤン・マーテル『パイの物語』(上)(下)

その他の参考文献:パヴリック「カント・ヘーゲルの正当防衛論」(1)(2)(3)
*この論文に関する設問:カントは「個人主義的」正当防衛論、ヘーゲルは「超個人主義的」正当防衛論を主張してきたという通説の理解は正しいか?
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by strafrecht_bt | 2015-06-15 14:35 | 刑法Ⅰ(総論)


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