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2015年 07月 02日

【第12講】未遂犯の処罰根拠・実行の着手・中止犯

コアカリキュラム
第5章 未遂犯
第1節 総説

【条文】刑法典・未遂罪(第8章)
第43条(未遂減免)「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」
第44条(未遂罪)「未遂を罰する場合は、各本条で定める。」 ー>罪刑法定主義
【参考文献】佐伯仁志「未遂犯論」前掲書337-369頁
井田良「フランク」法学教室144号(1992年)74頁以下
1. 処罰の早期化
(1)早期化の根拠(またはその制限根拠)
 ア.法益保護論からの説明
 イ.規範妥当保護論からの説明
*法益保護論の論者は、早期化に反対するものが多いが、理論的にはむしろ早く介入した方が、効果的に抑止できるのではないだろうか。これに対して犯罪の意味に着目する規範妥当保護論からは、処罰のためには犯罪としての外部的な意味表出が必要であり、原則的に予備段階の行為はすべきではない。予備規定があるものについても、特に中立的行為による予備の可罰性については限定する必要があるのではなかろうか。→予備の共同正犯
【時間外学習項目】
(2)早期化の類型
 ア.独立の早期化犯罪類型(特に抽象的危険犯)
 イ.結果犯の早期化類型
 (ア)予備と陰謀
【条文】国家的法益に対する罪:78条(内乱予備/陰謀)、88条(外患誘致・援助予備/陰謀)93条(私戦予備/陰謀*未遂/既遂なし!)/社会的法益に対する罪:113条(放火予備)、153条(通貨偽造予備)、個人的法益に対する罪:201条(殺人予備)、228条の3(身代金誘拐予備)、237条(強盗予備)
(事例)Aはトリカブトを使用した殺人事件の記事を読んで、夫Bの殺害に使用するためにトリカブトの栽培を始めた。
 (イ)未遂
【条文】刑法典上の未遂処罰規定:77条3項(内乱未遂)、87条(外患誘致・援助未遂)、102条(逃走の罪の未遂)、112条(放火未遂)、128条(往来妨害未遂)、132条(住居侵入未遂)、141条(あへん煙に関する罪の未遂)、151条(通貨偽造未遂)、157条3項、158条2項、161条2項、161条の2・2項、163条2項、163条の5、168条、168条の2・3項、179条、203条(殺人・自殺関与未遂)、215条2項(不同意堕胎未遂)、223条3項、228条、234条の2・2項、243条(窃盗・強盗未遂)、250条(詐欺・背任・恐喝未遂)

2.未遂犯の処罰根拠
5-1-1○未遂犯はなぜ処罰されるかに関する主要な見解を理解し、その概要を説明することができる。
(1) 主観的未遂論
(2) 客観的未遂論
 ア.行為無価値論
 イ.結果無価値論
 (ア)故意を判断要素とする見解(平野310頁)
 (イ)純粋客観説(中山・総論430頁)
*純粋客観説からはむしろ未遂処罰をすべて否定すべきではないだろうか?→不能犯
3.不能犯 (コア第3節)
(1)不能犯の意義
【条文】規定なし(参考:改正刑法草案25条「行為が、その性質上、結果を発生させることのおよそ不能なものであったときは、未遂犯としてはこれを罰しない。」)
*「不能犯」と「幻覚犯」
(事例)夫のあるAは、日本でもまだ姦通罪(1947年に削除された刑法183条「第183条(1)有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ/(2)前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス但本夫姦通ヲ縱容シタルトキハ告訴ノ效ナシ)が処罰されていると思っていたが、Bと姦通した。
・事実の錯誤<ー>不能犯
・法律の錯誤<ー>幻覚犯
*不能犯の類型
①主体の不能
②客体の不能
③方法の不能
(2)不能犯に関する学説
5-3-1○不能犯に関する主要な見解を理解し、その概要を説明することができる。
 ア.主観的未遂論
 (ア)純粋主観説
 (イ)抽象的危険説
 イ.客観的危険説
 (ア)具体的危険説
 (イ)客観的危険説
〔批判〕(純粋)客観的危険説によれば、すべての未遂は不能犯ではないだろうか。また主観的に犯罪を犯しているつもりであっても、当該犯罪としての意味を持ちえないものについては処罰すべきではないのではなかろうか。例えば1万メートル上空の飛行機をピストルで撃ち落とそうとする者を未遂で処罰する必要はないと思われる。
*修正された客観的危険説(山口・総論)
(3)不能犯に関する判例:絶対的不能/相対的不能区別説

絶対的不能/相対的不能区別説
① 硫黄事件(大判大正6・9・10[282])→不能犯
② 空気注射事件(最判昭和37・3・23[285])→未遂犯
③ 死体殺人事件(広島高判昭和36・7・10[290])→未遂犯
[批判]客観的危険説の方が実務的にも優れているが、「事実の抽象化の程度が大きく、結果の発生が絶対にないとはいえない、という程度のきわめて低い危険で未遂犯の成立を認める」点が問題→「ある程度高度の危険を要求すべき」(佐伯・353頁)
*過失の予見可能性の基準と矛盾してはいないか?→過失犯
5-3-2◎未遂犯と不能犯との区別を具体的事例に即して説明することができる。
4.未遂犯の成立要件
5-1-2○未遂犯の成立要件について理解し、その概要を説明することができる。
(1)実行の着手
(2)結果の不発生
第2節 実行の着手
【条文】第43条本「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。」
1.学説
5-2-1○実行の着手に関する主要な見解を理解し、その概要を説明することができる。
(1)主観説(「犯意の飛躍的表動」宮本・大綱179頁など)
(2)客観説
 ア.形式的客観説(平野313頁)
 イ.実質的客観説
2. 主要犯罪類型における実行の着手
5-2-1◎主要な犯罪類型(たとえば、殺人罪、強姦罪、窃盗罪、放火罪など)における実行の着手時期を具体的事例に即して説明することができる。→刑法各論
(1)殺人罪(199・203条)
(2)強姦罪(177・179条)
(3)窃盗罪(235・243条)
(4)放火罪(108-109①・112条)
(5)その他の類型
3. 間接正犯・離隔犯における実行の着手
5-2-3◎間接正犯・離隔犯における実行の着手時期を具体的事例に即して説明することができる。←実行行為
*原因において自由な行為の実行の着手
*不作為犯の実行の着手
(事例)①母親Aは、自分の子供Bが池で溺れているのをみて、当初はこのまま死んでくれればよいと思って救助しなかったが、子供が水を飲んで沈みそうになる直前に「苦しいよ、お母さん助けて!」というのを聞いて翻意し子供を救助した。/①で母親ではなく通りかかった第三者のCが同じ時点で救助した。
ー>救助の可能性が残っている間は着手に至らないとする説(中山・総論415頁)は妥当か?
短答問題
第3節 中止犯(コア第4節)
【条文】第43条但「ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」
1.中止犯の性格
5-4-1○中止犯における刑の必要的減免の根拠に関する主要な見解を理解し、その概要を説明することができる。
(1) 刑事政策説
(2) 法律説
 ア. 違法減少説
 イ.責任減少説
 ウ.二元説
*行為の意味変更
(事例)Aは赤ん坊Bをあやしているように見せかけ投げ上げたうえで、キャッチするのに失敗したようにみせてわざと落として殺害しようとしたが、いったん上に投げ上げたが翻意してキャッチした。
2. 中止犯の成立要件
5-4-2○中止犯の成立要件について理解し、その概要を説明することができる。
(1)中止行為
5-4-3◎「犯罪を中止した」の意義について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
ア.着手未遂(未終了未遂)ー>不作為
イ.実行未遂(終了未遂)ー>作為
*着手未遂/実行未遂の区別
*実行行為の中止/失敗の区別
(事例)①ルパン三世は世界最大のダイヤ「女神の涙」を博物館から盗む計画を立てた。その計画を察知した博物館では10万円相当の精巧な偽ダイヤを作成し、展示していた。ルパンは深夜、博物館の侵入に成功し、展示ケースを開けてダイヤを取ろうとしたが偽物であることに気づき、何も取らずに逃走した。
②ゴルゴ13は、Xの頭を一発で打ち抜き射殺する計画で発砲したが弾はXの頭をわずかに外れた。弾はまだ残っていたが、2発も撃って殺すのはプライドが許さなかったので狙撃を中止した。
->これらの行為において行為の意味変更があったといえるか?
私見:目的不達成の場合(フランクの公式参照)は、行為が失敗した(fehlschlagen)場合であって、中止とはいえないのでは?->任意性よりも中止行為で限定する方がベターではないか
*中止行為の真摯性
判例:①東京地判昭和37・3・17〔295〕/②大阪高判昭和44・10・17〔296〕
(2)結果の不発生
*中止行為と結果阻止との間の因果関係
(3)任意性→罪刑法定主義(明確性原則)との関係
5-4-4◎「自己の意思により」の意義について理解し、具体的事例に即して説明することができる。
短答問題
ア.学説ー任意性の基準
(ア)客観説:一般人基準?
(イ)主観説
*「やろうと思えばできた」という基準:客観的可能性か目的達成か?
→「フランクの公式」(井田・前掲75頁):目的達成を基準としていた
①行為者が「たとえ目的に到着できるとしてもこれを欲しない」場合→任意の中止
②「たとえ欲したとしてもできない場合」→障害未遂
私見:これは任意性の問題よりも中止行為の問題ではないか
(ウ)限定主観説:(広義の)悔悟
イ.判例
*一般に限定主観説といわれているが、客観的基準を採っているようにみえるものもあり、不明確:「実体法上の要件の問題と立証の問題が混在」(佐伯366頁)
(ア)肯定例:広義の後悔のある事例
(イ)否定例
 ①大判昭和12・9・21[298]犯行の発覚を恐れた消火:客観説?
 ②最決昭和32・9・10[299]驚愕・恐怖による中止:客観説?




刑法事例演習教材95頁以下:20「クリスマスイブの事件」
同・171頁以下:35「妄想と勘違い」
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by strafrecht_bt | 2015-07-02 09:00 | 刑法Ⅰ(総論)


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