刑法授業補充ブログ

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2016年 04月 14日

刑法演習2(2)

本日は、まず同時傷害の特則の続きで前回紹介した新判例(平成28・3・24)との関連で傷害致死罪(205条)への207条への適用可能性について議論した。受講生は判例(最判昭和26年9月20日)の結論は、205条の基本犯は204条だから205条への適用は問題ないと答えたので、それなら殺人罪(199条)も必ずまず傷害結果が生じてそれから死亡に至るので、殺人罪には傷害罪が含まれているので、199条にも207条の適用が可能になってしまうのではないかと反論したら、殺人についても傷害によらない殺人というのがありうるのではないかと答えたので、それはどのような場合かと聞いたところ、脳死説をとったうえで脳を器質的に変化させずにその機能だけを不可逆的に停止させる装置を装着して殺害するという例を挙げてきた。しかし脳の作用を停止させるには、(デカルトの二元論のような想定をして松果体から魂を吸い出すといった現在の科学と両立しない考え方を採らない限り)なんらかの脳の生理的な作用に障害を生じさせることによるしかないのであり、脳死説によっても傷害によらない殺人はふかのうではないだろうか。次に207条のような挙証責任転換規定の合憲性の問題について議論した上で、福島原発事故問題の関係再び問題となっている公害罪罪法の汚染水などの排出問題に触れ、同法の因果関係推定基準の合憲性などにも触れた(光藤・刑事訴訟法II〔2013年〕124頁参照)。その後、前述の新判例の結論を確認したうえで、共犯関係からの離脱と207条の適用に関する『刑法事例演習教材』の35問を検討したところで時間となったので、次回の最初にこれまでやったことの復習の小テストを行うことを予告して授業を終えた。



この規定の意義についての学説上争いの論点は、その法的性格と何についてそれらの効果が生じるかについてである。以下の学説がある。①法律上の擬制説、②法律上の推定説、③挙証責任転換説、④挙証責任転換+意思疎通の法律上の擬制、⑤挙証責任転換+共犯の法律上の擬制(通説)の5つである。「共犯の例による」からみても⑤の見解が妥当であろうが、なお合憲性の問題が残る。合憲性基準としてはアメリカ法では①便宜性基準(便宜衡量論:Morrison v. California, 291 U.S. 82 (1934))、②包摂基準(「大は小を兼ねる」論拠:Ferry v. Ramsey, 277 U.S. 88 (1928))、③合理性基準(合理的関連性rational connection テスト: Mobile, J. & K.C.R. Co. v. Turnipseed, 219 U.S. 35(1910) )が唱えられてきた(光藤・121頁)が、特にこの②の観点から見ても合憲性に疑問が残るケースが出てくる。例えば①大きい傷と小さい傷がある場合にどちらの傷が自分の暴行によるかを、または②傷がひとつであるときにその傷は自分の暴行によるものではないことを、被告人が証明しなかったときは①では二つの傷について、②では生じたひとつの傷について被告人は有罪とされるが、この②については包摂基準があてはまらず、二人の内一人は「無実の罪」を負わされることになるので違憲とすべきであろう(平野・概説170頁・光藤・123頁も参照)。
参考文献:津村政孝「アメリカ刑事手続における推定と挙証責任の転換」(1)-(3・完) 学習院大学法学部研究年報 28号(1993年)103-126頁 、学習院大学法学会雑誌 33巻1号(1997年) 55-72頁、同36巻1号(2000年)45-64頁
飯野海彦「刑事訴訟における証明責任転換の考察」立教法学44号(1996年)156頁以下、特に200頁以下;増田豊「刑事手続における法律上の推定と表現証明-特に責任推定の問題性をめぐって-」同『刑事手続における事実認定の推論構造と真実発見』所収→書評
Tot v. United States, 319 U.S. 463, 63 S.Ct. 1241, 87 L.Ed. 1519 (1943):刑事事件に合理的関連性テストを採用(飯野200‐1頁)
United States v. Gainey, 380 U.S. 63, 85 S.Ct. 754, 13 L.Ed.2d 658 (1965):密造酒醸造所「経営」罪、現場にいることより推定→合憲
United States v. Romano, 382 U.S. 136, 86 S.Ct. 279, 15 L.Ed.2d 210 (1965):密造酒醸造所「占有」罪、現場にいることより推定→違憲(両判決について飯野201‐2頁参照)
連邦証拠規則301条のNote(https://www.law.cornell.edu/rules/fre/rule_301)参照
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by strafrecht_bt | 2016-04-14 14:48 | 刑法演習


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