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2016年 04月 19日

刑法1(刑法総論)第3回講義:犯罪の主体・実行行為(特に間接正犯)

今日も体調はいまいちだったが、何とか前回の罪刑法定主義の復習をふまえて間接正犯の説明までを終えるできた。まず、刑法基本原則では前回説明した①罪刑法定主義以外に②責任主義と法益保護主義(山口)があげられているが、③については、現在では倫理(道徳)の保護を正面から刑法の原則に掲げるものはないが、刑法の目的は規範妥当の保護であるという主張もあり、法益保護だけで現行法をすべて説明できるかという問題があり、それを基本原則として採用するかどうかについては留保した。それに対して②は基本原則であり、運命責任(エディプス王の事例など)、結果責任、無過失責任は刑法では排除されることを説明し、法人の刑事責任についても無過失責任説はこの原則に反するものであるが、判例の過失推定説にも問題があることを指摘した。次に刑法における犯罪の概念について通説の「①構成要件に該当し②違法で、③責任のある(有責な)行為」という定義を具体的な事例を挙げて説明し、その際間接正犯のところでも出てくるので刑事未成年制度(刑法41条)について説明した。構成要件概念については、後の講義の順序との関係で、故意・過失の位置づけについて議論し、山口説のように故意・過失を専ら責任に位置付け、199条と210条に共通の構成要件を想定する見解の是非について意見を求めたところ、構成要件段階で故意犯と過失犯を分けるべきだとする意見がほとんどであった。その後、犯罪の主体と客体としての「者」「人」の意義についてそれに法人が含まれるかどうかについて英米(「フォード・ピント事件」)や最近の大陸法(フランス・ドイツ)における状況を含め説明し、日本の両罰規定について公害罪法4条の規定を例として説明した。水俣病や原発事故などの例を挙げ、法人を直接処罰したほうが良いのではないかという問題提起をしたが、あまり積極的な意見は見られなかった。その後実行行為の説明に移り、(以前は共犯のところで説明していた)今回は間接正犯の説明をコアカリキュラムや山口・刑法の記述の順序にしたがいここで説明したところで時間となった。講義後、判例では道具理論がとられているが、その基準を「意思を抑圧するなどして介在者を完全に支配している場合」に間接正犯を認めると書いてもよいかという質問があったので、確かに意思の抑圧事例では「支配」してといえるが、その他の事例、例えばコントロールドデリバリーの事例などで事情を知っている介在者などは完全に支配されているのでは言えないのではないかと思われるので、そのような場合にも間接正犯を認めるのであれば、「支配」という表現は使わないほうが良いのではないかと答えた。
前年度の講義



第3節 犯罪論の体系 (山口21以下)
コアカリキュラムには到達目標として「構成要件該当性・違法性・責任という犯罪論の体系、それに従って犯罪の成否を判断することの意義について理解し、その概要を説明することができる。」と書かれているが、このような体系は本当に妥当なものであろうか?
「犯罪であるというためには、問題となる行為に、①構成要件該当性、②違法性、③責任が肯定されることが必要となる」(山口22)
・構成要件(山口23以下)
・違法性
・責任
*行為の意義
**代替的犯罪体系:統一的不法概念:管轄と帰属(Pawlik)
私見:三分体系は学習・教育上の便宜的・慣習的なものに過ぎず、それを絶対化することはかえって不当な結論に導くことがある(例:正当防衛の対象・共犯の従属性など)。違法性と責任の区別は相対的
【文献】松宮(日本)松宮(中国)増田豊「刑法規範の論理構造と犯罪論の体系」:「1決定規範には、これと同一の行為を対象とする評価規範が対応することになり、この限りで、不法は、決定規 範に対する違反であると同時に評価規範に対する違反でもある(むろん正当化事由が介入しない限りで)。従っ て、決定規範に対する違反としての義務違反性(当為違反性)と評価規範に対する違反としての違法性へ価値違反性)は一致することになる。
2決定規範は、法命題の論理構造、命題形式に関する理輪であって、法命題の効力に関する理論ではない。従って、決定規範論と法命題の効力に関する意思説としての命令説との間には、少なくとも理践的観点からはいかなる関係性も認められない。従ってまた、法命題の効力に関する意思脱としての命令説に対する批判は、法命題の醗理櫛造に関する決定規範論には全く妥当しないものである。
3われわれの決定規範鰯は、すべての法命題をもって(義務づける)命令すなわち決定規範と解する一元的決定規範瞼の意味における命令税ではなく、決定規範以外の法命題(例えば、分配命題、許容命題)の存在を認める限りで、二元的決定規範論であるといえる。従って、一元的決定規規範としての命令説に対する批判は、われわれの決定規範論には全く妥当しないものである。
4決定規規範の立場からも、今や、決定規範の二重の制御機能、すなわち義務づける機能と動機づける椴能の分折を通して不法と責任の区別が可能となった。この限りで、古い決定規範麓ないし命令説に対する批判(不法と責任の区別の不可能性)は、われわれの決定規範誼には妥当しないものである。」
*エングレンダーの規範のスタンダードモデル/規範の制裁モデルの区別
小島秀雄訳「アルミン・エングレンダー『規範と制裁一規範の制裁モデルに対する批判的考察』」大東法学25巻2号(2016年)217-240頁:制裁規範を一次規範とすることへの批判

第2章 犯罪の積極的成立要件
第1節 主体
1 自然人(山口24以下)
・「万人」犯(Jedermannsdelikte)
・身分犯(≒Sonderdelikete)
*疑似身分犯(山口25)
2 法人(山口26以下):業務主(自然人・法人)処罰規定の適用要件
*法人の刑事責任
【条文】両罰規定の例/鳥獣保護法88条「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第八十三条から第八十六条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。」
【判例】法人の犯罪能力(判例刑法16)、過失推定説(判例刑法19)
短答問題
*フォード・ピント事件
「犯罪者が合理的な判断の結果,犯罪を実行するという合理的選択理論の主張の具体例として,アメリカ合衆国で発生した「フォード・ピント事件」をあげることができる。この事件は,1978年8月10日インディアナ北部の国道33号線で,3人の女性が乗るフォード社の小型乗用車ピントが後部からトラックに軽く追突されたところ,炎上したため車内の3人が焼死したというものであった。その後の調査で,フォード社は事故発生の以前からピント車が後部からの軽い追突でオイルがもれて炎上する危険性があることを認識していたことが明らかとなった。しかしフォード社は,炎上事故による被害者への損害賠償額を試算し(180人の死者と180人の負傷者が発生した場合で495万ドル),その損害賠償額を欠陥箇所である燃料タンクの設計変更と修理に要する費用(1台あたり11ドル×販売した車の台数約1,250万台=1億36700万ドル)と比較していたのである(欠陥車の修理を実施することによる損益1億3,700万ドル>実施しないことによる損益495万ドル)。つまりフォード社は,コストとベネフィットをはかりにかけ,死傷者の出る可能性を知りながらも利益追及のためピント車の設計変更や修理を実施しない道を選択していたのである。フォード社は,インディアナ州において故殺罪で起訴されたが,証拠不十分のため陪審によって不起訴とされた。しかしフォード・ピント事件は.企業犯罪への社会の関心を高める契機になった。」(瀬川晃『犯罪学』(2000年)122頁)

*ヤコブスの法人の刑事責任批判論→ジョン・ロックの人格同一性論
第2章 犯罪の積極的成立要件
第2節 実行行為
1. 実行行為の意義
*実行行為の意義
・構成要件に該当する行為
・行為規範に違反する行為(ー>行為無価値)
・結果発生の危険性のある行為(ー>結果無価値)
2. 実行行為の(現象類型的)態様
(1)直接的/間接的
ア. 直接的実行行為(直接正犯)
イ. 間接的実行行為(間接正犯)
間接正犯の意義について理解し、強制され、又は欺かれた被害者の行為を利用する事例や第三者の行為を利用する事例等について具体的に当てはめ、判断することができる。(ー>共犯)
*間接正犯に関してヤコブス『刑法的帰属の体系』74-77頁(a.行為の意味b.客観的帰属可能性c.混合形態)
【判例】殺人の実行行為(総26)
短答問題
【事例1】甲は,常日頃暴行を加えて自己の意のままに従わせていた実子の乙(13歳)に対し,Vが管理するさい銭箱から現金を盗んでくるように命じ,乙は,是非善悪の識別能力及び識別に従って行動を制御する能力を有していたが,甲の命令に従わなければまた暴力を振るわれると畏怖し,意思を抑圧された状態で,前記さい銭箱から現金を盗んだ。甲の罪責を論じなさい
―>共犯論との関係:教唆(共謀共同正犯)との区別
【事例2】甲は、自分の夫乙に多額の生命保険を掛けていたが、乙が失業し再就職の見込みもたたないので自殺させようとおもい、「もう生きているのが嫌になったので、一家心中をしましょう。あなたが先に死んでくれれば、『お父さんのところへ一緒に行こう』と息子を説得して後を追うわ」といって、乙に首つり自殺をさせたが、自分たちは死ななかった。

(2)単独/複数
ア.単独正犯
イ.共同正犯
ー>共犯
(3)作為/不作為
*作為と不作為の現象類型的区別は決定的か?
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by strafrecht_bt | 2016-04-19 12:19 | 刑法Ⅰ(総論)


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