刑法授業補充ブログ

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2016年 04月 26日

刑法1(刑法総論)第4回講義:因果関係

今回は因果関係を中心に説明したが,前回の法人処罰問題に関連して講義の最初に新聞記事を配布して、「業務上過失致死罪の法人処罰に関する法律(素案)」の制定の是非について議論してみた。その実効性について疑問であるとする意見があった。そのあとで結果の意義について説明し、結果的加重犯の問題点について判例の立場(過失不要説)を議論したが、(既修者の授業でで聞くとほとんどが判例に賛成するのに対して)責任主義に反するので少なくとも過失が必要ではないかという意見が多かった。その後因果関係の判例の流れについて説明し「危険の現実化」基準とその問題点について説明した。講義後、「誘発」の意義や、被害者が医師の指示にしたがわなったという事例で因果関係を認めた判例の妥当性について質問があった。後者の事例については医師も「順調に経過すれば」退院できるという見込みをしめしていることなどを考慮して被告人に有利に認定すれば、被害者の不適切な行為による危殆化があったとみる余地があると思うと答えた。
→前年度の講義



2016/4/13 21:42神戸新聞NEXT
加害企業に罰金刑を 尼崎脱線事故遺族ら法制化へ団体
 重大事故を起こした企業の刑事責任を問う「組織罰」の法制化を模索してきた尼崎JR脱線事故の遺族らが13日、大阪市内で会見し、業務上過失致死罪に両罰規定を設ける特別法の制定を目指すと発表した。今月23日に「組織罰を実現する会」を立ち上げ、署名活動や関係省庁、国会議員などへの働きかけを進める。
 2013年9月、JR西日本の歴代3社長の刑事責任が問われた神戸地裁判決で、無罪(上告中)が出たことなどを受け、14年3月に「組織罰を考える勉強会」が発足。山梨県の笹子トンネル事故の遺族らとも連携し、専門家らの意見を聴いて法制化の中身を決めた。
 制定を目指すのは、「業務上過失致死罪の法人処罰に関する法律」。条文の素案では、国なども含めた法人の業務で発生した死亡事故に罰金刑を科すとし、企業の規模に応じて額を引き上げられる規定も盛り込んだ。
 事務局を担う津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)によると、高度経済成長期に公害が社会問題化し、企業を罰する特別法「公害処罰法」が成立した経緯を参考にしたという。
 脱線事故で長女を失った勉強会代表の大森重美さん(67)=神戸市北区=は、会見で「大きな組織が引き起こした事故の場合、責任が多くの部署に分散して現行の司法では裁けない」と組織罰の必要性を強調。これまでの勉強会では「刑法に両罰規定はなじまない」「原因究明の妨げになる」などの指摘も出ており、「一般の人の理解を得られるよう丁寧に取り組みを広げていきたい」と話した。
(小川 晶、金 慶順)
【両罰規定】 業務に関して法律に違反した個人だけでなく、その個人が所属する企業などの法人にも罰則を科す規定。業務上過失致死傷罪など刑法の罪は処罰対象が個人に限られており、両罰規定は存在しない。
 ■「業務上過失致死罪の法人処罰に関する法律(素案)」
 第1条 法人の業務において発生した事故に関して、代表者又は代理人、使用人その他の従業者が刑法211条(業務上過失致死傷等)の罪を犯し、人を死亡させたときは、法人を500万円以下の罰金刑に処する。
 第2条 前条の罰金は、国及び地方公共団体を除き、当該会社の前事業年度における純資産額に相当する金額以下とすることができる。

2016/4/23 11:00神戸新聞NEXT
組織罰は是か非か 尼崎JR脱線事故 識者に聞く
 尼崎JR脱線事故の遺族らが23日、「組織罰を実現する会」を立ち上げる。目指す方向性は、処罰対象を個人に限定する刑法の根幹を見直し、業務上過失致死罪を企業などの法人にも適用できるようにする特別法の制定だ。その意義や実現への道のりについて、2人の刑法学者に聞いた。(小川 晶)

■大塚裕史・神戸大名誉教授「刑法の対象基本は個人」
おおつか・ひろし 1950年生まれ。早稲田大法学部卒業後、神戸大大学院法学研究科教授などを経て2015年から明治大法科大学院教授。専門は刑事過失論。明石歩道橋事故をテーマにした論文などを著している。

 企業の営業活動の一環として誰かに損害を与えたのであれば、その行為に対して企業が責任を負うべきという考え方はもっともだ。ただ、刑法の刑罰の対象は基本的に個人であり、企業のような法人にはなじみにくい。
 飲酒運転による事故の遺族らが声を上げ、社会の共感を得て新設された危険運転致死傷罪の例もあるが、これはあくまで個人の刑罰を重くするという発想。組織罰の制定とはハードルの高さが違う。
 実効性にも問題がある。業務上過失致死罪で企業の刑事責任を問う場合、前提はあくまでも個人への刑罰で、組織罰はそのプラスアルファになる。個人の過失がなければ企業の過失を立証できないし、その部分を緩やかにすると、具体的な過失がないのに罰せられることになりかねないジレンマに陥る。
 組織罰の先進事例では、英国が2008年に導入した「法人故殺罪」があるが、適用されるのは組織の上級管理者に重大な注意義務違反があった場合に限られる。仮に、法人故殺罪を脱線事故に当てはめたとしても、JR西日本が罪に問われる可能性は極めて低いだろう。
 刑罰には「予防」と「応報」の二つの意義がある。
 組織罰制定の動きでみれば、刑罰ができることで、企業が安全性により気を付けるようになり、再発防止につながる-というのが予防の考え方。ただ、企業が組織防衛に走り、肝心の原因究明に影響が出る懸念がある。組織罰がない現状でも、高額な民事賠償の責任は発生するわけで、そういう意味では既に有効な抑止策があるという見方もできる。
 一方で、被害者側の処罰感情を満たす応報の観点はどうか。脱線事故では、多くの命が奪われたにもかかわらず、運転士は亡くなり、経営陣にも無罪判決が出て、現時点では誰も刑事責任を問われていない。
 このことを「おかしい」と感じ、自分たちが抱くやりきれない思いを二度と味わわせたくないという遺族らの意識は極めてまっとうだ。立法に向けて活動する心情も理解できるし、社会に対して問題提起する意義はある。

■川崎友巳・同志社大教授「企業の犯罪裁く時代に」
 かわさき・ともみ 1969年生まれ。同志社大法学部を卒業後、同大助手などを経て2008年から同大教授。専門は経済刑法。脱線事故の遺族らによる「組織罰を考える勉強会」にも、講師として2回招かれた。

 刑法では、企業には罪を犯す能力がないという考え方が貫かれている。刑法ができた明治時代、企業に処罰されなければならないほどの存在感がなかったためだが、今では組織が巨大化し、社会的な活動主体になっている。
 企業の中の個人としてではなく、企業として意思決定することもあり得るようになり、企業にも犯罪能力があると考えるのが自然になった。実際に処罰する必要性が出てきたからこそ、罰則規定がある法令の半数以上に企業を対象とした両罰規定がある。刑法だけを例外とする考え方は説明がつかない。
 脱線事故は、その問題点を浮き彫りにした。薬害や食品など社会問題になった事件は、特別法などで何らかの刑事罰が科されてきたが、脱線事故は運転士が死亡し、現時点で誰も処罰されていない“エアポケット”のような特異事例だ。これまでの法律家が掲げてきた「処罰されているんだから法律は役目を果たしている」との論理は通用しない。
 ただ、組織罰の制定は容易ではない。法律の仕組みを変える難しさに加え、被害者が多いという脱線事故特有の事情があるからだ。
 危険運転致死傷罪が成立したときは、被害者側の意見がおおむね一致していた。「違法と分かっていて飲酒運転し、人を殺したのに問われる罪が業務上過失致死。『過失』というのはあまりにも不条理だ」と。
 脱線事故では、組織罰よりも原因究明を優先すべきという立場だったり、経営者との対話で企業体質の改善を図ることを重視したり、さまざまな意見がある。被害者が多いからこそ、組織罰を求める声が、全体ではなく、個別の一つの意見と捉えられ、立法の促進力を弱める結果につながる恐れがある。
 だからこそ、どうやって社会の賛同を得るかが大事になってくる。「組織罰が必要だ」という意義を強調する。タイミングを逃さず、いかに機運を高めていくかに知恵を絞る。
 詳細な法律の論理などは、実際に法制化がみえた段階で専門家が考えるべきもので、細部にこだわってマルかバツかの議論をするのは得策ではない。
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因果関係論に関する私見
それに関しては、そもそも「因果関係」とは何かという問題にどうしても立ち入らなければならないが、それ自体哲学上の難問題である。刑法上の因果関係の問題は、最近のドイツの通説によれば、客観的帰属論の枠内で論じられている。ロクシン説については日本でもすでに詳細に紹介されているが、もう一方のこの理論の主張者であるヤコブス説についてはまだ十分に紹介されていないのが現状である。最近の著書『刑法的帰属の体系』ではA「作為と不作為による意味設定」とB「実行者の許されない行為」を1)行為の意味:保障人2)行為の意味:客観面a)それ自体許されない行為b)予測基盤c)不作為d)作為への再転用e)危険の競合f)同意3)正当化4)行為の意味:主観面5)犯罪結果と責任6)未遂に分けて論じ、そのうちのA(S.25 f.),B2)e)(S39 ff.)で因果関係に関する問題を論じている。
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by strafrecht_bt | 2016-04-26 17:22 | 刑法Ⅰ(総論)


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