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刑法授業補充ブログ

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2016年 05月 01日

刑法1(刑法総論)第5回講義:不作為犯

今週は土曜日に振り替え授業があったので週2回授業があった。さすがに週に計4回の1時限の授業はしんどかった。前回の因果関係の続きで、トランク監禁事件と類似の次のような事例を例題にして、危険の現実化の有無を検討した。
【例題】甲は、Vを不法に逮捕した上、自動車後部のトランク内にVを監禁した状態で同車を発進させ、信号待ちのため路上で停車中、居眠り運転をしていた乙が自車を甲の運転する車両に追突させたため、Vは追突による全身打撲により死亡した。
山口説の基準を適用すると、間接型(山口厚・刑法総論(3版)61頁参照)にあたり、誘発などの関係もないから危険の現実化が認められないのではないかという意見があった。また乙に自動車運転過失致死罪を認めると死亡結果の二重評価になってしまうのかという問題を指摘し、熊撃ち事件(最決昭和53・3・22刑集32巻2号381頁〔総54〕)をとりあげ、この結論を結果の二重評価禁止を考慮したものではないかとする見解(山口・刑法39頁)を検討した(私見を含めそのような評価には否定的な意見が多かった。この点に関する講義後の質問もあった)。その関連で遅すぎた構成要件の実現(大判大正12・4・30刑集2巻378頁〔総53〕)とその逆の早すぎた構成要件の実現(クロロホルム事件=最決平成16・3・22〔総267〕)にも言及した。次いで不作為犯の問題に入り、基本概念を説明した後、次のような具体例を挙げ、作為/不作為の区別や作為義務の発生根拠を説明した。
【事例】(いずれの事例でも被害者Vは溺死したが、行為者にはVを救助する作為可能性があったものとする。)
① Aは他人の子供Vを池に突き落として溺死させた。
② Bは他人の子供Vが池に落ちたのを見たが助けなかった。
③ Cは他人の子供Vを過失で突き飛ばして池に落としてしまったが助けなかった。
④ Dは他人の(/④‘自分の)子供Vからの攻撃を受け殺されそうになったので、やむを得ず池に突き落とし、(Vが攻撃意思・能力を失い、救助を懇願したにも関わらず)助けなかった。
⑤ Eは他人の子供Vが池に落ちたのを助けようとしたFを説得してやめさせた。
⑥ Gは他人の子供Vが池に落ちたのを助けようとしたHを羽交い絞めにして阻止した。
⑦ Iは自分の子供Vが池に落ちたのを見たが助けなかった。
⑧ 通報を受けて現場に到着した救助隊員Jは溺れている子供Vを救助しなかった。
そして判例の説明に移り、シャクティパット事件の説明をしたところで、時間となったので、その他の判例と不作為の因果関係の問題は次回に回すことにした。
前年度の講義
なお功利主義的立場からのピーター・シンガーの説についても議論した。



第1章 刑法の意義
第2章 刑罰理論
第3章 刑法理論の基礎
1 刑法の解釈と罪刑法定主義
2 人間・人格・市民ー責任能力(意思自由論)
3 通説的体系論批判
第4章 消極的義務違反における帰属(組織化管轄)
1 行為論:行為の意味
2 保障人的地位
いわゆる不作為犯論の問題点(判例を中心とした概観として山口・刑法(3版)44-52頁)
実行行為の(現象類型的)態様:作為/不作為
*1.作為と不作為の区別基準
(私見)作為/不作為の区別は現象類型的なものにとどまり、限界事例においてはその区別さえ困難である。→組織化管轄/制度的管轄の区別のほうが重要
【事例】(いずれの事例でも被害者Vは溺死したが、行為者にはVを救助する作為可能性があったものとする。)
① Aは他人の子供Vを池に突き落として溺死させた。 【組織化管轄】(作為の実行行為)
② Bは他人の子供Vが池に落ちたのを見たが助けなかった。【管轄なし】
③ Cは他人の子供Vを過失で突き飛ばして池に落としてしまったが助けなかった。【組織化管轄】
④ Dは他人の(/④‘自分の)子供Vからの攻撃を受け殺されそうになったので、やむを得ず池に突き落とし、(Vが攻撃意思・能力を失い、救助を懇願したにも関わらず)助けなかった。【被害者の自己管轄】(④’は【制度的管轄】)
⑤ Eは他人の子供Vが池に落ちたのを助けようとしたFを説得してやめさせた。【管轄なし】管轄がないということを教示したに過ぎない
⑥ Gは他人の子供Vが池に落ちたのを助けようとしたHを羽交い絞めにして阻止した。【組織化管轄】救助的因果経過の遮断→Jakobs, AT
⑦ Iは自分の子供Vが池に落ちたのを見たが助けなかった。【制度的管轄】
⑧ 通報を受けて現場に到着した救助隊員Jは溺れている子供Vを救助しなかった。【制度的管轄】
2.不作為犯
 (ア)不作為犯の意義と種類
 ・真正不作為犯
 ・不真正不作為犯
*(私見)この区別自体不要
 (イ)不真正不作為犯の成立要件
・判例=形式的三分説
 ・法律
 ・法律行為(契約・事務管理)
 ・条理(先行行為など)
→(私見)実質化が必要
・学説
 ・一元説
  ・先行行為説(日高)
  ・事実上の引き受け説(堀内)
  ・排他的支配説(西田)
  ・法律説(高山) 
→(私見)一元的に管轄を説明することはできない
 ・機能的二分説(山中)
  ・法益保護型義務類型
  ・危険源管理監督型義務類型
→(私見)現象類型的区別にすぎないのではないか?
*組織化管轄/制度的管轄という二分説が正当
 (ウ)作為義務の根拠→保障人的地位
・ 具体的事例
*殺人
① シャクティパット事件(最決平成17・7・4刑集59巻6号403頁〔総79〕)【組織化管轄】
【事案】甲は,手の平で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが,その能力を信奉していたAから,脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ,意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した 上,実際に連れてこられたBの様子を見て,そのままでは死亡する危険があることを認識しながら,上記独自の治療を施すにとどまり,点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果,Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
*放火
② 火鉢事件
最判昭和33・9・9刑集12巻13号2882頁【組織化管轄】
「既発の火力を利用する意思」?
*詐欺罪(山口・312-3頁参照)
③ 誤振込事例【管轄なし】制度的管轄?
(結論)形式的3分説の実質化
・法律←法律化された制度的保護義務(制度的管轄)
・法律行為←自らの法的活動領域の拡大に基づく義務(組織化管轄)
・条理←先行行為による自らの活動領域の拡大に基づく義務(組織化管轄)
*「条理」というのは抽象的すぎるので先行行為に限定すべき
**すべての先行行為が義務づけるか?→(例)正当防衛行為
 (エ)不作為の因果関係
具体的事例。
・判例:「十中八九」基準?
・危険増加説
3 客観的帰属論
4 管轄の段階:正当化
(1)被害者の自己管轄
(2)正当防衛
(3)防御的緊急避難
(4)攻撃的緊急避難
5 主観的帰属:行為の主観面
(1)行為の主観面の必要性
(2)故意
(3)無関心
(4)過失
6 帰属阻却事由
(1)禁止の錯誤
(2)いわゆる免責的緊急避難
(3)過剰防衛・過剰避難
第5章 積極的義務違反における帰属(制度的管轄)
1.家族・市民社会・国家
2.家族制度に基づく保障人的地位
(1)親子関係
(2)夫婦
(3)その他の親族関係
(4)緊密な生活共同体?
3.国家制度に基づく保障人的地位


by strafrecht_bt | 2016-05-01 09:54 | 刑法Ⅰ(総論)


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