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2016年 04月 28日

刑法演習2(4)

承継的共同正犯について傷害には否定されるとしても、強盗や詐欺などにも適用される余地はないかを検討した。これに関して山口教授の新しい論文を受講者の法科大学院生と一緒に読んで検討した。そこでは暴行については無理だが、脅迫や欺罔については先行行為者の不作為の脅迫や欺罔が継続していると考える余地があり後行者は先行者と共謀があった場合には強盗や詐欺の共同正犯とする余地があるとする見解が主張されているが、その当否について受講者に聞いてみたところ、そのような見解によれば、脅迫により意思を抑圧したのちに中止した場合にその脅迫を解消する義務があるとするとそれをやめる義務にしたがってやめたことになるので任意の中止とは言えなくなるのではないかと問題点の指摘があった。また相手方を暴行により気絶させてしまえば、後行者はその後の行為に関与しても窃盗にしかならないので、暴行の場合と脅迫の場合で結論が異なるのは不均衡だとの異議があった。ついで今年の重判に先日やった最決の原審判決がのっており、そこで引用されていた研修の評釈でより詳しい事実関係が分かったのでそれも紹介した。
【事案の概要】
1 本判決が原判決(名古屋地裁平成26年9月19日,公刊物未登載)の説示するところに若干の補足をしつつ認定した本件の事実関係は.以下のとおりである。
(1)被告人A及び同Bは.本件ビル4階にあるバーXの従業員であり.本件当時同店内で接客等の仕事をしていた。被告人CはかねてXに客として来店したことがあり,本件当日は.被告人Bの誘いを受けXで客として飲食していた。
(2) Vは.本件当日午前4時30分頃,女性2名とともにXを訪れていた客であったが,飲食代金の支払いの際クレジットカードでの決済が思うようにできず.同日午前6時50分頃までの間に. 3回に分けて一部の支払手続をしたが.残額の決済ができなかった。
(3) Vは,そのうちいらだった様子になり,残額の支払いについて話がつかないまま,店の外に出た。被告人A及び同Bは.Vの後を追って店外に出,本件ビル4階エレベーターホールでVに追い付き,同日午前6時50分頃から午前7時10分頃までの間に,被告人AがVの背部を蹴って,3階に至る途中にある階段踊り場付近に転落させ,さらに4階エレベーターホールに連れ戻した上,被告人Bが同ホールにあったスタンド式灰皿にVの頭部を打ち付け,被告人Aが. Vの顔面を拳や灰皿の蓋で殴り、顔面あるいは頭部をつかんで床に打ち付けるなどし.被告人BもVを蹴り、馬乗りになって殴るなどする暴行を加えた(第1暴行)。
(4)午前7時4分頃,被告人Cは.4階エレベーターホールに現れ,Xの従業員Hが被告人A及び同Bを制止しようとしている様子を見ていたが" Hと被告人AがVのそばを離れた直後床に倒れているVの背部付近を1回踏み付け.さらに被告人Bに制止されていったん店内に戻った後も.再度4階エレベーターホールに現れ.被告人A及び同BがVに膝蹴りをし背中を蹴るなどする様子を眺めた後,午前7時15分頃倒れている状態のVの背中を1回蹴る暴行を加えた(原判決は,被告人Cによるこれらの暴行を「中間の暴行」 と呼称する)。(鷦鷯11頁注2によれば本判決は「それ自体は, Vの急性硬膜下血腫の発生等の原因となり得るものではなかったようにうかがえる」としている。)
(5)被告人Aは. Vから運転免許証を取り上げI X店内にVを連れ戻し. Vに飲食代金を支払う旨の示談書に氏名を自書させ. Vの運転免許証のコピーを取った。その後被告人A及び同Bは.それぞれXで仕事を続け.被告人Cも同店内でそのまま飲食を続けた。
(6) Vは.しばらく店内の出入口付近の床に座り込んでいたが.午前7時49分頃突然走って店外に出たため, Hがこれを追い掛けて3階に至る階段の途中で追い付き.取り押さえた。被告人Cは午前7時50分頃電話をするために4階エレベーターホールに行った際Hが逃走しようとするVを追い掛けているのを知り. HがVを取り押さえている現場に行った。被告人Cは.その後の午前7時54分頃までにかけて, Vの頭部顔面を多数回にわたって蹴り付けるなどの暴行を加えた(第2暴行)。
(7)午前7時54分頃通報を受けた警察官が臨場したところ, Vは大きないびきをかき,まぶたや瞳孔に動きがなく,呼びかけても応答がない状態で倒れていた。Vは,午前8時44分頃病院に救急搬送され,開頭手術を施行されたが,翌日午前3時54分頃急性硬膜下血腫に基づく急性脳腫脹のため死亡した。
【決定要旨】「2(1) 第1審判決は,仮に第1暴行で既に被害者の急性硬膜下血腫の傷害が発生していたとしても,第2暴行は,同傷害を更に悪化させたと推認できるから,いずれにしても,被害者の死亡との間に因果関係が認められることとなり,「死亡させた結果について,責任を負うべき者がいなくなる不都合を回避するための特例である同時傷害致死罪の規定(刑法207条)を適用する前提が欠けることになる」と説示して,本件で,同条を適用することはできないとした。
(2) しかし,同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないというべきである。
そして,共犯関係にない二人以上による暴行によって傷害が生じ更に同傷害から死亡の結果が発生したという傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる前記の事実関係が証明された場合には,各行為者は,同条により,自己の関与した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害について責任を負い,更に同傷害を原因として発生した死亡の結果についても責任を負うというべきである(最高裁昭和26年(れ)第797号同年9月20日第一小法廷判決・刑集5巻10号1937頁参照)。このような事実関係が証明された場合においては,本件のようにいずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,別異に解すべき理由はなく,同条の適用は妨げられないというべきである。
以上と同旨の判断を示した上,第1暴行と第2暴行の機会の同一性に関して,その意義等についての適切な理解の下で更なる審理評議を尽くすことを求めて第1審判決を破棄し,事件を第1審に差し戻した原判決は相当である。 」



【公訴事実】罪名及び罰条:「傷害致死刑法第205条第207条被告人A及び同Bにつき,更に第60条」
被告人A及び同Bは,共謀の上.本件当日午前6時50分頃から同日午前7時10分頃までの間本件ビルにおいて, Vに対し、同人の背後からその背部付近を蹴って階段の上から落下させて転倒させ,多数回にわたってその頭部顔面や胸腹部等を殴り,蹴り付けるなどの暴行を加え,被告人Cは,同日午前7時5分頃から午前7時15分頃までの間,同所において, Vに対し,床に倒れている同人の腹部を踏み付けるなどの暴行を加えた上,同日午前7時50分頃,同所において,同人に対し,その頭部顔面を多数回にわたって蹴り付けるなどの暴行を加え,よって,前記一連の暴行により,同人に急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,翌日午前3時54分頃,同人を前記急性硬膜下血腫による急性脳腫脹により死亡させたが,被告人3名のいずれの暴行に基づく傷害によりVを死亡させたか知ることができないものである。
【第1審判決】名古屋地判栽平成26年9月19日判決は,Vの遺体の解剖医や脳外科医の証言から,「第1暴行と第2暴行は,それぞれ単独で,又は両暴行が相まって,本件の死因である急性硬膜下血腫を発生させた可能性がある」と認定しつつ,防犯カメラの映像やHの証言から,「第2暴行は,第1暴行よりも質的に激しいものと認められるから,第2暴行が, Vの 死亡に全く影響を与えなかったとは考え難い。」(鷦鷯11頁注3はこの事実認定を疑問視する)とし,「そうすると,第1暴行が終了した段階では,急性硬膜下血腫の傷害が発生しておらず,もっぱら第2暴行によって同傷害を発生させた可能性はもとより存するが,仮に、第1暴行で既に同傷害が発生していたとしても、第2暴行は、同傷害を更に悪化させたと推認できるから、第2暴行はいずれにしても、Vの死亡との間に因果関係が認められることになり、死亡させた結果について、責任を負うべきものがいなくなる不都合を回避するための特例である同時傷害致死罪の規定(207条)を適用する前提が欠けることになる。」として,罪となるべき事実において,被告人A及び同Bは, Vに第1暴行を加え,「頭部顔面に加療期間不明の出血を伴う傷害」を負わせた傷害罪の共犯とし,被告人Cには,第1暴行を受けているVに中間の暴行を加えた上,第2暴行を加えVに「急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,又は,第1暴行により生じていた急性硬膜下血腫等の傷害を更に悪化させ」,「上記急性硬膜下血腫による急性脳腫脹により死亡させた」傷害致死罪が成立するとした。
【控訴審判決】本判決においては、①同時傷害の特例は傷害致死罪にも適用されるか、②傷害致死罪において死亡結果に対して罪貴を負うことが明らかな者が存在する場合でも、死因である傷害の原因となる暴行が不明な場合に、同特例は適用できるか、さらに③本特例の適用要件とされる暴行の機会の同一性があるかどうか、が問題となった。
本判決は、①につき、傷害致死罪に対して同時傷害の特例を適用した最判昭26・9・20刑集5巻10号1937頁を参照してこれを認めつつ、②について、「死亡の結果の発生をひとまずおいて考えれば、同時傷害の特例に間する刑法207条が適用され、被告人3名全員が、両暴行のいずれか(あるいはその双方)と因果関係がある急性硬膜下血腫の発生について、共犯として処断されることになることに疑いはない」と述べた上、「被告人3名が急性硬膜下血腫の傷害の発生について共犯としての刑責を負うという前提で考える以上、この場合、被告人3名が共犯としての刑責を負うべき急性硬膜下血腫を原因として生じたDの死亡についてもまた、被告人3名は共犯としての刑責を負うことになる」ので、 CばかりでなくAとBにも傷害致死罪(AとBの共同正犯)が成立すると述べた(「被告人A及び同Bが共謀の上で行った第1暴行と,被告人Cが行った第2暴行とは(中略),そのいずれもがVの急性硬膜下血腫の傷害を発生させることが可能なものであり,かつ,実際に発生した急性硬膜下血腫の傷害が上記両暴行のいずれによるか不明であるということになるから,もし,両暴行に機会の同一性が認められるのであれば,取りあえず、死亡の結果の発生をひとまずおいて考えれば.同時傷害の特例に関する刑法207条が適用され.被告人3名全員が。両暴行のいずれか(あるいはその双方)と因果関係がある急性硬膜下血腫の発生について,共犯として処断されることになることに疑いはない。」)。さらに③については「第1暴行と第2暴行との間に時間的場所的な近接性があることは,両暴行が同一の機会に行われたとうかがわせるに足りる重要な事情であると考えられ」,「原判決がいうほど 「予期」を問題にすることが相当か否かが,そもそも疑問であるうえ,予期についての原判決の認定にも疑問がある。Zも, XらとVとの間にトラブルが存在することを相応に認識していたとうかがえる のであり, Zが第2暴行に及んだ事情には.XおよびYが第1暴行に及んだ事情と共通するところがあったとうかがうことも可能である」として原審判決を破棄し差し戻した。
【解説】松宮孝明(法セミ731号115頁)と豊田兼彦(重判平成27年刑法5・153-4頁)の見解の比較
1 本判決の意義
「刑法207条にある同時傷害の特例は「二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合においてそれぞれの暴行による傷害の軽を知ることができず又はその傷害を生させた者を知ることができないときは共同して実行した者でなくても共犯の例による」と規定する。これは人の暴行と被害者の傷害とのの因果関が不明なときに人が自己の暴行と被害者の特定の傷害とのに因果側がないことを証明できればその傷害に関しては罪をわないという形で「挙証責任の転換」をXったものである。しかしそれ は罪責の証明に疑いのる場合に被告人を処罰するもので「疑わしいときは被告人の利益に」に反するものでもある。ゆえに判例でもその適用は傷害罪と傷害死罪に定されこれら以外の例えば死傷罪などの結果的加犯には適用されない(東京地判36・3・30判時264号35頁)。学説には傷害死罪にまで適用することを疑とするものもあったが最判26・9・20はこれを認めた。」(松宮)
豊田は、①「本判決は,傷害致死の事案においても,同時傷害 の特例(刑207条)は,死因となった「傷害」と各人の暴行との間の因果関係を問題とするものであり,これが不明な場合には,本特例の適用により, この傷害について共同正犯が成立し,その結果,各人に傷害致死罪の共同正犯が成立することになる, とした」点、②「傷害致死罪への本特例の適用については,原判決のように.死亡との間の因果関係を直接問題にする考え方もあり得るところ.これを 明確に否定した点」、③「本特例の適用要件とされる暴行の機会の同一性についても判断しており,この要件をめぐる議論の素材としても参考になる」点に本判決の意義があるとする。
2 本特例の適用方法
(1)判例によれば,本特例は,傷害致死の事案にも適用される(最判昭和26・9・20刑集5巻10号1937頁)。「この点は,本件でも当然の前提とされている。」豊田は「本判決と原判決とで見解が分かれたのは,本特例の適用に際し,暴行と死因となった傷害との間の因果関係を問題とすべきか,それとも暴行と死亡との間の因果関係を直接問題とすべきかについてである。」とし「本特例は,暴行と傷害との間の因果関係が不明であることを要件としているのであるから,素直な解釈としては,本判決のように,傷害致死の事案においても,まずは暴行と死因となった傷害との間の因果関係を問題とし,それが不明であれば,本特例の適用を考えることになろう。そして,本特例の適用により,死因となった傷害について共同正犯が成立することになる以上,各人に傷害致死罪が成立すると解するのが自然であろう。」として高裁判決の適用方法を支持している。そして「従来の裁判例も.このような解釈を前提にしてきたと考えられる。」とし、その例として①名古屋地判平成25・7・12LEX/DB25501584、②福井地判平成24・7・19LEX/DB25482369をあげている。さらに③「神戸地判平成21・2・9[裁判所Web(平20(わ)460号)] は.「罪となるべき事実」において.死亡結果との間の因果関係を直接問題にしているように読めるが,実際の認定においては,死因となった傷害との間の因果関係を問題にしている」とする。
さらに「他方、人の暴行にから加担した者については被害者の負った傷害が加担の暴行によるものか加担のそれによるものか不明な場合に加担の暴行と加担の共同での暴行との間に同時傷害特例の関係を認めるべきか否かについて下級審に争いがある(否定例として大阪高判62・7・10高刑403号720頁、肯定例として大阪地判平9・8・20判タ995号286頁)。」が指摘されているが、松宮は、この場合の「否定説は最初から最後まで関与していた者は生じた傷害全体について罪責を負うので責任を負うべき者がいなくなる不都合はないことを理由とする(なお最決平成24・11・6刑集66巻11号1281頁は加担に傷害を相当程度重篤化させたと認められるなら、加担者には加担の傷害についてしか罪責を負わないとしている)。/原判決は、D死亡について同論理でAとの同特例の適用を否定した。これに対し本判は死因となった傷害体については同特例が適用されることを理由に死亡結果についても両名に罪責を負わせた。これは結果について罪責を負う者がいないことが同特例を適用する根拠であることを認める趣旨と解される。もっともそれなら本件では Aとは傷害の限度で同特例の適用を受けるべきであろう。傷害については本来、両名の因果関係は認められないのを同特例で認めただけであり死亡結果についてはCが罪責を負うからである。」として結論的に第1審判決の限定解釈を支持している(豊田のいう認定方式の相違も特に問題としていないようである)。
これに対して豊田は「原判決は,暴行と死亡との間の因果関係を直接問題とし,第2暴行は,死因となった急性硬膜下血腫の傷害を生じさせ,または、既に生じていた同傷害を更に悪化させたと推認できることから,第2暴行と死亡との間に因果関係が認められるとして,本特例の適用を否定した。その出発点は, 傷害致死罪の事案における本特例の理解にある。すなわち,本特例は.死亡結果について誰も責任を負わなくなるという不都合を回避するための「同時傷害致死罪の規定(刑法207条)」で(も)あるから, 暴行と死亡との間に因果関係が認められ,このようなな不都合が生じない場合には,本特例は適用されな い,という理解である(原判決が「同時傷害致死罪の規定(刑法207条)」と述べていることに注目すると, ここでは,死亡を生理的機能障害の極致としての「傷害」の一種とみて〔松宮孝明『刑法各論講義』〔第4版・2016年] 44頁参照〕,これを刑法207条の「傷害」に当てはめる ことにより,同条からストレートに〔傷害罪の共同正犯を経由することなく〕各人に傷害致死罪の成立を認める立場が採られていると解することができる)。もっとも,この見解は,本判決から,「本件で,急性硬膜下血腫の傷害の発生について,結局は誰も責任を問 われないことになる」という問題が生じると批判されている。別途「同時傷害罪(刑法207条)」を適用できればよいが,原判決の因果関係の認定方法を一貫させるならば,第1暴行により既に急性硬膜下血腫の傷害が生じていたとしても,第2暴行がこれを更に悪化させる傷害を発生させたと認め得る以上,その適用は困難であるように思われる(鷦鷯・ 後掲10頁参照)。」 ここで豊田は、次のような鷦鷯の見解に賛成して限定解釈の可能性を否定しているものと思われる。すなわち鷦鷯は、傷害致死罪への同時傷害の特例の適用を認めつつも,その立法趣旨(立法趣旨と責任主義の原則の調和)に鑑みて限定的に適用しようとする裁判例(秋田地裁大曲支部昭和47年3月30日判決(判時670号105頁))に対しては,「因果関係論,結果的加重犯についての責任論および刑法207条の適用問題を混交した独自の見解に立つもの」であり,また,仮に傷害致死への適用を否定する見解にも一理あるとしても,適用されるかされないかの問題であって,本裁判例のように「本条の立法趣旨と責任主義の調和」を考えて特別の制限を付するような問題ではないとの批判があり(注6),正しい指摘と思われる。」「それでは,暴行に起因する傷害の結果の発生及び同傷害に起因する死の結果の発生という因果関係をたどる傷害致死罪について,同時傷害の特例はどのように適用されるか。本判決は,この点を端的に示したものと言える。すなわち,第1暴行と第2暴行のいずれかによって(あるいは,その双方によって)Vの急性硬膜下血腫の傷害が発生したことは認められるが,そのいずれによって同傷害が発生したかは不明であり,他方で,同傷害とVの死亡との間に因果関係があることは明らかであるという本件においては,①まずは各被告人の暴行と, Vの死亡の原因となった急性硬膜下血腫の傷害との間の因果関係を検討する必要があるのであって,同時傷害の特例を適用する要件を満たすと判断されるときは,同規定により被告人全員が傷害罪の共犯として取り扱われ,②その結果,同傷害を原因として生じた死亡の結果についても,被告人 全員がその刑責を負うとするのである(注7)。このことは,本判決が指摘するように,「暴行と傷害との因果関係が不明であることを要件とする刑法207条の規定内容」からすれば明らかとも言える。この点,原判決は,傷害致死罪における暴行と傷害の結果との間の因果関係のみならず,傷害と死亡との因果関係をも考慮に入れることにより,傷害致死罪への同特例の適用を限定しようとするものとも考えられる。しかしながら,原判決のように,仮に先行する暴行により既に傷害が発生していたとしても,後行する暴行と実際に生じた終局的な結果(すなわちvの死亡)との間に,既に生じていた傷害を「更に悪化させた」という意味での因果関係が認められる以上,後行する暴行を加えた者がその結果について責任を負うことになるから,同時傷害の特例を適用する前提を欠くとの立場をとるならば,第1暴行により既に急性硬膜下血腫の傷害が生じていたとしても,第2暴行がこれを更に 悪化させる傷害を発生させたと認め得る以上(注8),本件において仮にVが死亡しなかった場合にも,急性硬膜下血腫の傷害の発生について同時傷害の特例は適用されず,被告人A及び同Bは急性硬膜下血腫の傷害について共犯として取り扱われない(被告人cには「急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,又は,第1暴行により生じていた急性硬膜下血腫等の傷害を更に悪化させる傷害を負わせた」という択一的な認定の下で傷害罪が成立する)としなければ整合しないように思われる。それでは,結局は,急性硬膜下血腫の傷害を発生させた点について誰も責任を問われない結果になりかねず,そのような不合理を回避するために,実際に発生した傷害の原因となり得る暴行を加えた者を全て共犯として扱うこととした同時傷害の特例の趣旨に反することは明らかなように思われる。その意味でも,本判決の判示は正当であろう。」豊田はこの部分を参照し、原判決の論理によれば同時傷害の特例の適用はできなくなるとしているが、松宮は傷害罪に限定して同特則の適用を認めている。
3 暴行の機会の同一性(豊田)
この点については豊田評釈のみが言及している。「本特例が適用されるためには,同一場所で同時に暴行が加えられることを要しない」(大判昭和11・ 6・25刑集15巻823頁)が「各暴行が同一の機会になされたことを要するとされる(札幌高判昭和45.7・14 高刑集23巻3号479頁等)。」「この要件は,本特例の適用範囲を限定する外在的な制約とされるのが一般的である(これに対し、この要件を本特例の固有の違法性から内在的に説明しようとするものとして,樋口・後掲10頁以下)。」そして「問題は,暴行の機会の同一性がどのような場合に認められるかである。」として、「この点についての判例の立場は必ずしも明らかでない」が,下級審では,「各暴行の 時間的場所的近接性だけでなく,暴行の経過,暴行 に及んだ経緯・動機,暴行を加えた者の認識等も考慮して判断される傾向にある」(東京高判平成20.9. 8判タ1303号309頁等)。
「この傾向は,第1暴行と第2 暴行との間の時間的場所的近接性があるというだけ で機会の同一性を認めたわけではない本判決からもうかがえる。この点は,原判決も同様である。両判決で結論が分かれたのは.時間的場所的近接性の認定以外の事実認定の違い,具体的には,各人が暴行に出た動機・原因の共通性の有無・程度(特に, Z における料金トラブルの認識,受け止め方),第2暴行 に対するX・Yの認識の有無・程度についての認定の違いによるところが大きい。」
「本件では,第1暴行 と第2暴行が時間的場所的に近接していただけでなく,第1暴行とZの中間暴行とが時間的にも場所的にも一部重なり合っていた。この点は重要であり, よほどの事情がない限り,機会の同一性を否定するのは難しいように思われる。」としてこの点についても豊田は高裁判決を支持している。
[参考文献]
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松宮 孝明( 最新判例演習室 刑法)「同時傷害の特例の適用範囲」[名古屋高裁平成27.4.16判決]
法学セミナー 60(12), 115, 731号(2015年)115頁。
鷦鷯昌二(新判例解説(第401回))「同時傷害の特例である刑法207条の適用を否定した原判決には法令適用の誤りがあるなどとして原審に差し戻した事例」[名古屋高裁平成27.4.16判決] 研修 (807), 3-12, 2015-09
前田雅英(最新 刑事判例研究(第20回))「同時傷害の特例の認定」[東京高裁平成25.8.1判決] 捜査研究 64(11), 55-64, 2015-11
樋口 亮介 「同時傷害の特例(刑法207条)」研修 (809), 3-24, 2015-11
杉本一敏「同時傷害と共同正犯」 (特集 最近の裁判例に見る共同正犯の諸問題) 刑事法ジャーナル 29, 49-59, 2011
中川深雪(刑事判例研究(418))「複数の被告人が、共謀によることなく時間的・場所的に離れた場所で暴行を加えたが、被害者の傷害結果がいずれの者によるものか不明である場合において、被告人らの特殊な関係、暴行に至る経過等から、各暴行は社会通念上同一の機会に行われた一連の行為と認められるとして、同時傷害(刑法207条)の適用を認めた事例」[東京高裁平成20.9.8判決] 警察学論集 63(8), 168-176, 2010-08
森田邦郎 (研修講座 判例紹介)「被告人3名が被害者に対し,時間的・場所的に離れた2つの現場で暴行を加えたが,被害者の受傷が誰の暴行によって生じたか不明であった事案において,被告人らの特殊な関係,各暴行に至る経緯などから,各暴行は社会通念上同一の機会に行われた一連の行為であると認め,同時傷害(刑法207条)の適用を認めた事例」[東京高裁平成20.9.8判決] 研修 (728), 85-92, 2009-02
原田保「危険運転致死傷罪と傷害罪・傷害致死罪との競合領域における成立罪名および同時傷害特例適用」愛知学院大学論叢 法学研究 48(4), 1-26, 2007-11
大山弘「傷害罪の承継的共同正犯と同時傷害の特例」 (最新判例演習室) 法学セミナ- 44(8), 100, 1999-08
筑間正泰「刑法207条(同時傷害)について」廣島法學 11(2), 15-63, 1988-01
沢登 定教 /沢登 俊雄「<原報>刑事訴訟における「挙証責任」の転換について」岐阜藥科大學紀要 11, 130-138, 1961-11-30
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by strafrecht_bt | 2016-04-28 11:35 | 刑法演習


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