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2017年 03月 27日

科目別事前ガイダンス:刑法演習(2)

【問題】以下の事例に基づき、甲の罪責について、具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
(問題文略ーテキスト参照)
【解答例】第1 ベンチに置かれたAの財布を持ち去った行為
 【結論】甲には、以下のように、占有離脱物横領罪と窃盗未遂罪が成立する(罪数関係は後述)。
 1.客観的構成要件該当性:窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)との区別-占有の有無
(1)甲は、客観的にはA所有の「財物」である財布を領得しているが、Aになお占有が残っていたがどうかにより窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)の区別が問題となる。
(2)占有の有無の判断基準  
 ア 窃盗罪に「占有」とは財物に対する事実上の支配をいい、物の支配態様は多様であることから、占有の事実と占有の意思に照らして、社会通念に従って決するほかないが、具体的には、①財物自体の特性、②場所的状況、③時間的場所的間隔等から考えることになり、占有の意思は補充的に考慮する。特に、③については、置き忘れに気付いた時点や、取りに戻った時点ではなく、領得行為時が基準となる
 イ 本件では、②財布という遺失しやすい小物であること、②スーパーマーケット内のベンチという誰でも立ち入れる場所であること、③領得行為時との時間的間隔が2分程度しかなく、極めて近接した時点で領得行為がなされているが、場所的にみると、この時点ではすでにAは6階のベンチから地下1階まで移動しており、置き忘れに気づきさえすれば直ちに取り戻すことが可能な状態にあったとは言えないことから見て、Aの占有は否定される。
(2)占有の移転
置き忘れがあった場合でも、なお当該場所の管理権や場所的状況に照らして占有が他者に認められることがあり、Bの管理者やDに占有の移転があったどうかが問題となる。
ア スーパーマーケットBの現場管理者の占有
この場合、B店内は、誰でも立入れる場所であり、遺失物に対する特別の管理措置が取られていたということをうかがわせる事情もないので、Bへの占有移転は否定される。
イ D子の占有
 Dは、現場で見ていただけで、一度も財布の占有を確保しておらず、排他的支配を及ぼしたとは言えない以上、Dへの占有移転も否定される。
(3)従って、甲の行為は、客観的には窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪の構成要件に該当する。
2.主観的構成要件該当性:抽象的事実の錯誤
(1)窃盗の故意
 甲は本件財布がCのものと誤信しているが、そうであればCの占有が及んでいる物を取得する認識があるため、窃盗罪の故意が認められる
(2)抽象的事実の錯誤
 ア 主観的には窃盗罪の認識で、客観的に占有離脱物横領罪の結果を生ぜしめた場合、客観面に符合する故意を認めることができるのかが問題になる。実質的な符合は、両罪の①行為態様及び②保護法益の類似性を考慮して判断される。
 イ 両罪は、①行為態様では、他者に財物を不法に取得する点で共通し、②保護法益では、占有と所有権で異なるとも思えるが、窃盗罪が占有を保護しているのは、究極的には本権を保護するためであるから、共通性を肯定でき、軽い占有離脱物横領の範囲で実質的な重なり合いを認めることができる。
(3)主観面に対応する犯罪(窃盗未遂罪)の成否-実行の着手
 ア 法益侵害の危険性の有無で判断するが、その判断は行為時に一般人が認識しえた事情+行為者が認識していた客観的事情を基礎に、一般人の観点から行う(具体的危険説)。
 イ 本件のような場合には、D子のようにずっと観察していた場合はともかく、その場に居合わせた一般人からは、Cに占有があるかのごとく見えるので、具体的危険性が肯定され、窃盗未遂罪も成立する。
第2 A名義のクレジットカードを呈示して、売上伝票にAと署名し商品を購入した行為(他人名義のクレジッドカードの不正使用)
【結論】甲には、以下のように、詐欺罪(246条1項)並びに私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条)が成立する(罪数関係は後述)。
1.詐欺罪の成否
 甲は、あたかもAであるかのように偽って(欺罔行為)、クレジットカード取引において名義人以外の者との取引を禁じられている加盟店を錯誤に陥れ、当該錯誤に基づいて財物を交付している点で、個別財産の損失があるほか、規約に反した取引を行えば立替払いを受けられないリスクがあり、この点で、真正名義人と取引を行うという被害者の達成できなかった目的は経済的に評価して実質的損害を肯定することができる。したがって、加盟店に対する、商品を客体とした、1項詐欺罪が成立する。
2.売上伝票への記載・交付
甲は、「行使の目的で」、他人であるAの署名を使用して「権利、義務若しくは事実証明に関する文書」である売上伝票を偽造(作成名義を冒用)し、それを交付し「行使」しているのので、私文書偽造罪及び同行使罪が成立する。
第3 罪数関係
【結論】甲には、以下のように、①窃盗未遂罪、②私文書偽造罪、③同行使罪及び④詐欺罪が成立し、②③④は牽連犯(54条1項後段)となり、それらと①は併合罪(45条)となる。
1 上記第1の行為については、①占有離脱物横領罪と②窃盗未遂罪が成立するが、①はより重い②に吸収される(包括一罪)。
2 上記第2の行為については、①私文書偽造罪と②同行使罪が牽連犯となり、これらが③詐欺罪と牽連犯となる。


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by strafrecht_bt | 2017-03-27 19:15 | 刑法演習


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