刑法授業補充ブログ
2017-10-21T20:14:50+09:00
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各年度開講科目の補充
Excite Blog
徳永哲也『プラクティカル 生命・環境倫理――「生命圏の倫理学」の展開(世界思想社)』
http://strafrecht.exblog.jp/28088980/
2017-10-21T19:41:00+09:00
2017-10-21T19:41:48+09:00
2017-10-21T19:41:48+09:00
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環境刑法
三浦隆宏「書評 徳永哲也『プラクティカル 生命・環境倫理――「生命圏の倫理学」の展開(世界思想社)』、『倫理学研究』第47号、関西倫理学会編、晃洋書房、169-172頁、2017年
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川俣事件関連文献
http://strafrecht.exblog.jp/27717044/
2017-09-25T16:05:00+09:00
2017-10-21T20:14:50+09:00
2017-09-25T16:05:13+09:00
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環境刑法
森長英三郎『足尾鉱毒事件』日本評論社 1982.3 (日評選書)
三浦 顕一郎『田中正造と足尾鉱毒問題―土から生まれたリベラル・デモクラシー』(有志舎、2017年)
論文:
①「川俣事件」三浦 顕一郎 , Kenichiro MIURA 白鴎大学論集 = Hakuoh Daigaku ronshu : the Hakuoh University journal 26(1), 211-249, 2011-09-01
②「なぜ「直訴」だったのか--正造の政治システム認識と天皇観 (特集 川俣事件・天皇直訴百年)」小西 徳應
救現 (8), 91-109, 2002
③「川俣事件の内側を看る--1900年体制とたたかう正造 (特集 川俣事件・天皇直訴百年)」布川 了
救現 (8), 73-90, 2002
④「源流=問題の湧き出るところ「田中正造と足尾鉱毒問題」の学習 足尾鉱毒・川俣事件百年の2000年、館林で--歴史の真相が広まった「押し出しの再現」 (環境と平和) -- (特集1 研究プロジェクト・〈環境保全と地域再生〉の教育)」松本 美津枝
民主教育研究所年報 (2), 70-93, 2001
⑤「「川俣事件」から一〇〇年」田村 紀雄
公評 37(1), 140-147, 2000-01
⑥「世紀末の1年-10-1900年3月--公害-2-川俣事件」松山 巌
朝日ジャ-ナル 28(10), p64-66, 1986-03-14
⑦森長英三郎「足尾鉱毒事件-31-欠伸事件」
法学セミナ- (309), p130-133, 1980-11
足尾鉱毒事件-30-宮城控訴院
法学セミナ- (308), p110-113, 1980-10
足尾鉱毒事件-29-大審院の逆転判決
法学セミナ- (307), p98-101, 1980-09
足尾鉱毒事件-28-大衆運動と控訴判決
法学セミナ- (306), p98-101, 1980-08
足尾鉱毒事件-27-直訴
法学セミナ- (305), p46-49, 1980-07
足尾鉱毒事件-26-控訴審
法学セミナ- (304), p88-91, 1980-06
足尾鉱毒事件-25-弁論と第一審判決
法学セミナ- (303), p86-89, 1980-05
足尾鉱毒事件-24-第一審公判
法学セミナ- (302), p98-101, 1980-04
足尾鉱毒事件-23-公判準備
法学セミナ- (301), p28-31, 1980-03
足尾鉱毒事件-22-亡国の演説と続々逮捕
法学セミナ- (300), p36-39, 1980-02
足尾鉱毒事件-21-続・川俣での激突
法学セミナ- (299), p36-39, 1980-01
足尾鉱毒事件-20-川俣での激突
法学セミナ- (298), p70-73, 1979-12
足尾鉱毒事件-19-最後の押出し出発
法学セミナ- (297), p140-143, 1979-11
足尾鉱毒事件-18-雲竜寺の鐘が鳴る
法学セミナ- (296), p120-123, 1979-10
足尾鉱毒事件-17-押出しへの準備行動
法学セミナ- (295), p154-157, 1979-09
足尾鉱毒事件-16-鉱毒議会
法学セミナ- (294), p118-121, 1979-08
足尾鉱毒事件-15-川俣事件への胎動
法学セミナ- (293), p118-121, 1979-07
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予備試験短答・論文問題(2017・平29)
http://strafrecht.exblog.jp/26823590/
2017-07-18T23:30:00+09:00
2017-09-26T14:54:20+09:00
2017-07-18T23:30:23+09:00
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司法試験予備試験
〔第1問〕(配点:3) 因果関係に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選
びなさい。(解答欄は,[No1],[No2]順不同) 1.甲が,Vの胸部,腹部及び腰部を殴打したり足蹴りしたりする暴行を加えたところ,それに耐えかねたVは,その場から逃走した際,逃げることに必死の余り,過って路上に転倒し,縁 石に頭部を打ち付けたことによって,くも膜下出血により死亡した。この場合,甲の暴行とV の死亡との間には,因果関係がある。
2.甲が,Vを突き倒し,その胸部を踏み付ける暴行を加え,Vに血胸の傷害を負わせたところ, Vは,Vの胸腔内に貯留した血液を消滅させるため医師が投与した薬剤の影響により,かねて Vが罹患していた結核性の病巣が変化して炎症を起こし,同炎症に基づく心機能不全により死 亡した。この場合,甲の暴行とVの死亡との間には,因果関係がない。
3.甲は,自動車を運転中,過って同車をVに衝突させてVを同車の屋根に跳ね上げ,その意識 を喪失させたが,Vに気付かないまま同車の運転を続けるうち,同車の助手席に同乗していた 乙がVに気付き,走行中の同車の屋根からVを引きずり降ろして路上に転落させた。Vは,頭 部打撲傷に基づくくも膜下出血により死亡したところ,同傷害は,自動車と衝突した際に生じ たものか,路上に転落した際に生じたものかは不明であった。この場合,甲の衝突行為とVの 死亡との間には,因果関係がある。
4.甲は,狩猟仲間のVを熊と誤認して猟銃弾を1発発射し,Vの大腿部に命中させて大量出血 を伴う重傷を負わせた直後,自らの誤射に気付き,苦悶するVを殺害して逃走しようと決意し, 更に至近距離からVを目掛けて猟銃弾を1発発射し,Vの胸部に命中させてVを失血により即 死させた。Vの大腿部の銃創は放置すると十数分で死亡する程度のものである一方,胸部の銃 創はそれ単独で放置すると半日から1日で死亡する程度のものであった。この場合,甲の2発 目の発射行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
5.甲は,Vの頭部を多数回殴打する暴行を加えた結果,Vに脳出血を発生させて意識喪失状態 に陥らせた上,Vを放置して立ち去った。その後,Vは,甲とは無関係な乙から角材で頭頂部 を殴打される暴行を加えられ,死亡するに至った。Vの死因は甲の暴行により形成された脳出 血であり,乙の暴行は,既に発生していた脳出血を拡大させ,幾分か死期を早める影響を与え るものであった。この場合,甲の暴行とVの死亡との間には,因果関係がある。
〔第2問〕(配点:2) 略取,誘拐及び人身売買の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した
場合,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No3])
ア.営利の目的で未成年者を買い受けた場合,未成年者買受け罪のみが成立する。
イ.身の代金目的誘拐罪は,近親者その他誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的を主観的要素とする目的犯である。
ウ.身の代金目的で成年者を略取し,公訴が提起される前に同成年者を安全な場所に解放すれば,身の代金目的略取罪の刑が必要的に減軽される。
エ.未成年者誘拐罪は親告罪である。
オ.親権者は,未成年者誘拐罪の主体とはならない。
1.ア ウ
2.ア オ
3.イ ウ
4.イ エ
5.エ オ
〔第3問〕(配点:2)
次の【記述】中の1から4までの( )内から適切な語句を選んだ場合,その組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No4])
【記 述】被害者の同意が問題となる場合としては,一般に以下のような分類がなされている。第1は, 被害者の意思に反することが構成要件要素になっている場合であり,この類型においては,被害 者の同意は構成要件該当性を阻却する。窃盗罪は,この類型に1(a.入る・b.入らない)。 第2は,被害者の同意の有無が犯罪の成立に影響を及ぼさない場合である。13歳未満の者に対 するわいせつ行為は,この類型に2(c.入る・d.入らない)。第3は,被害者の同意がある 場合とない場合が分けて規定され,被害者の同意があると軽い方の罪が成立する場合である。業 務上堕胎罪は,この類型に3(e.入る・f.入らない)。第4は,被害者の同意が行為の違法 性を阻却する場合である。住居侵入罪の「侵入」を住居権者・管理権者の意思に反する立入りと 解した場合,同罪は,この類型に4(g.入る・h.入らない)。
1.1a 2c 3e 4h
2.1a 2c 3f 4h
3.1a 2d 3f 4g
4.1b 2c 3e 4h
5.1b 2d 3f 4g
〔第4問〕(配点:2) わいせつ物頒布等の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,甲に
( )内の罪が成立しないものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No 5])
ア.インターネットを介した書籍販売業を営む甲は,日本語で書かれたわいせつな文書である 小説を,その購入を申し込んできた日本国内在住の多数の外国人に販売したところ,いずれ の外国人も日本語の読解能力に乏しく,同小説の内容を理解できなかった。(わいせつ物頒布 罪)
イ.甲は,インターネットを介して多数の希望者を募った上,その希望者らに無料で交付する 目的で,わいせつな映像を記録したDVDを所持した。(わいせつ物有償頒布目的所持罪)
ウ.甲は,わいせつな映像を記録したDVDの販売業者に対してそのDVDの購入を申し込み,これを購入した。(わいせつ物頒布罪の教唆犯)
エ.DVDのレンタル業を営む甲は,わいせつな映像を記録したDVDを,多数の顧客へ有償で貸し出した。(わいせつ物頒布罪)
オ.甲がインターネットを介したわいせつな映像の販売業を営み始めたところ,その購入を申し込んできた顧客は1名だけであったが,甲は,その者に対して,電子メールに同映像のデ ータを添付して送信した。(わいせつ物頒布罪)
1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ
4.イ エ 5.ウ オ
〔第5問〕(配点:2) 次の【事例】に関する後記アからエまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,誤っている
ものを全て選んだ場合の組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No6])
【事 例】土木作業員甲及び乙は,現場監督者丙の監督の下で,X川に架かる鉄橋の橋脚を特殊なA鋼材 を用いて補強する工事に従事していたが,作業に手間取り,工期が迫ってきたことから,甲及び 乙の2人で相談した上で,より短期間で作業を終えることができる強度の弱いB鋼材を用いた補 強工事を共同して行った。その結果,工期内に工事を終えることはできたものの,その後発生し た豪雨の際,A鋼材ではなくB鋼材を用いたことによる強度不足のために前記橋脚が崩落し,た またま前記鉄橋上を走行していたV1運転のトラックがX川に転落し,V1が死亡した。なお, 甲及び乙は同等の立場にあり,甲及び乙のいずれについても,B鋼材を工事に用いた場合に強度 不足のために前記橋脚が崩落することを予見していなかったものの,その予見可能性があったも のとする。
【記 述】 ア.甲及び乙には,強度の弱いB鋼材で補強工事を行うことの意思連絡はあるが,不注意の共同
はあり得ないから,甲及び乙に業務上過失致死罪の共同正犯が成立する余地はない。 イ.丙は,甲及び乙が強度の弱いB鋼材で補強工事を行っていることを認識していたが,工期が 迫っていたことから,これを黙認したという場合,直接行為者である甲及び乙に過失が認められたとしても,更に丙に過失が認められる余地がある。 ウ.仮に,甲及び乙において,V1が死亡するに至る実際の因果経過を具体的に予見することが不可能であった場合,甲及び乙には業務上過失致死罪は成立しない。 エ.仮に,V1運転のトラックの荷台に,V1に無断でV2が乗り込んでおり,同トラックがX
川に転落したことによって,V1及びV2の両名が死亡した場合,甲及び乙にはV2に対する業務上過失致死罪は成立しない。
1.ア イ ウ 2.ア ウ エ 3.ア エ 4.イ ウ 5.ウ エ
〔第6問〕(配点:2) 次の各【見解】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。(解
答欄は,[No7])
【見 解】
A説:遺棄罪は,生命・身体に対する危険犯である。
B説:遺棄罪は,生命に対する危険犯である。
【記 述】
1.「自説のように解さないと処罰範囲が広くなり過ぎる」ことは,B説の根拠となり得る。
2.「刑法第219条(遺棄等致死傷罪)が致傷罪という加重処罰規定を置いている」ことは,A説の根拠となり得る。
3.「刑法第218条(保護責任者遺棄罪)が生存に必要な保護をしなかったことを遺棄とともに処罰の対象としている」ことは,B説の根拠となり得る。
4.「遺棄罪の懲役刑の上限が傷害罪の懲役刑の上限よりも軽い」ことは,B説の根拠となり得
る。
5.「刑法典は,殺人,傷害,過失傷害,堕胎の各罪の章の後に遺棄の罪の章を置いている」ことは,A説の根拠となり得る。
〔第7問〕(配点:2) 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。(解答欄
は,[No8])
1.甲が乙に対し,深夜の公園で待ち伏せしてAから金品を喝取するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,深夜の公園でAを待ち伏せしたが,偶然通り掛かったBをAと誤認してB から金品を喝取した。乙は,人違いに気付き,引き続きAを待ち伏せして,通り掛かったAか ら金品を喝取しようとしてAを脅迫したが,Aに逃げられてしまい金品を喝取することができ なかった。甲にはAに対する恐喝未遂罪の教唆犯のみが成立する。
2.甲が乙に対し,Aをナイフで脅してAから金品を強取するように教唆したところ,乙は,そ の旨決意し,Aをナイフで脅したが,その最中に殺意を抱き,Aの腹部をナイフで刺してAに 傷害を負わせ,Aから金品を強取したものの,Aを殺害するには至らなかった。甲には強盗罪 の教唆犯が成立するにとどまる。
3.甲が乙に対し,留守宅であるA方に侵入して金品を窃取するように教唆したところ,乙は, その旨決意したが,B方をA方と誤認してB方に侵入し,その場にいたBから金品を強取した。 甲にはB方への住居侵入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯が成立する。
4.甲が乙に対し,現住建造物であるA家屋に放火するように教唆したところ,乙は,その旨決 意し,A家屋に延焼させる目的で,A家屋に隣接した現住建造物であるB家屋に放火したが, B家屋のみを焼損し,A家屋には燃え移らなかった。甲にはA家屋に対する現住建造物等放火 未遂罪の教唆犯のみが成立する。
5.甲は,土建業者AがB市発注予定の土木工事を請け負うためB市役所土木係員乙に現金を供 与しようと考えていることを知り,乙に対し,Aに工事予定価格を教える見返りとしてAから 現金を受け取り,Aに工事予定価格を教えるように教唆したところ,乙は,その旨決意し,A との間で,Aに工事予定価格を教える旨約束して,Aから現金100万円を受け取ったが,そ の後,工事予定価格を教えなかった。甲には加重収賄罪の教唆犯が成立する。
〔第8問〕(配点:2) 放火の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものは
どれか。(解答欄は,[No9])
1.甲は,住宅街の駐車場に駐車中の乙所有の自動車を燃やそうと考え,自己の自動車に灯油を積みライターを持って同自動車を運転して同駐車場に向かったところ,その途中,交通事故を 起こし,乙所有の自動車に放火することができなかった。この場合,甲には,建造物等以外放 火罪の予備罪が成立する。
2.甲は,乙が居住する乙所有の家屋を燃やそうと考え,同家屋に放火し全焼させたところ,同 家屋内で就寝中の乙が焼死した。甲が乙を殺そうと考えて同家屋に放火した場合でも,甲には, 法定刑に死刑を含む現住建造物等放火罪のみが成立する。
3.甲は,山奥で乙を殺害した後,乙の失踪を装うため,乙が一人で居住していた丙所有の家屋 を燃やそうと考え,同家屋に放火し全焼させた。同家屋に人がいなかった場合でも,甲には, 現住建造物等放火罪が成立する。
4.甲は,不要となった甲所有の自動車を燃やそうと考え,同自動車に放火し全焼させ,公共の 危険を生じさせた。甲に公共の危険が生じることについての認識がなかった場合でも,甲には, 建造物等以外放火罪が成立する。
5.甲は,乙が居住する乙所有の家屋を燃やそうと考え,同家屋の壁際に駐車されていた乙所有 の自動車に放火して焼損し,同家屋への延焼の危険を生じさせたが,その火は通行人により消 し止められ,同家屋に燃え移らなかった。この場合,甲には,建造物等以外放火罪のみが成立する。
〔第9問〕(配点:4) 次のアからオまでの各事例における甲の罪責について,判例の立場に従って検討し,( )内の
犯罪が既遂になる場合には1を,未遂にとどまる場合には2を,既遂にも未遂にもならない場合に は3を選びなさい。(解答欄は,アからオの順に[No10]から[No14])
ア.甲は,会社事務所内において現金を窃取して,戸外に出たところを警備員乙に発見されて取 り押さえられそうになったため,逮捕を免れようと考え,乙に対し,刃体の長さ20センチメ ートルの出刃包丁をその腹部に突き付け,「ぶっ殺すぞ。」と怒鳴り付けたが,偶然その場を通 り掛かった警察官に取り押さえられ,逮捕を免れることができなかった。(事後強盗罪)[No10]
イ.甲は,行使の目的で,カラープリンターを用いて,複写用紙に真正な千円札の表面及び裏面 を複写して千円札を偽造しようとしたが,カラープリンターの操作を誤ったため,完成したも のは,一般人がこれを一見した場合に真正な千円札と誤認する程度の外観を備えたものではな かった。(通貨偽造罪)[No11]
ウ.甲は,通行中の乙に因縁を付けて乙から現金を脅し取ろうと考え,乙に対し,「俺をにらん できただろ。金を払えば許してやる。金を出せ。」などと大声で怒鳴り付けて反抗を抑圧する に至らない程度の脅迫を加え,同脅迫により畏怖した乙は,甲に現金を直接手渡さなかったも のの,甲が乙のズボンのポケットから乙が所有する現金在中の財布を抜き取って持ち去るのを 黙認した。(恐喝罪)[No12]
エ.甲は,知り合いの女性乙を自己が運転する自動車に乗せて同車内において強いて姦淫しよう と考え,乙に対し,「自宅まで送ってあげる。」とうそを言ったところ,乙は,これを信じて同 車に乗り込んだが,甲の態度を不審に思い即座に同車から降りた。(強姦罪)[No13]
オ.甲は,会社事務所にある現金を窃取する目的で,門塀に囲まれ,警備員が配置されて出入り が制限されている同事務所の敷地内に塀を乗り越えて立ち入ったが,同事務所の建物に立ち入 る前に警備員に発見され敷地外に逃走した。(建造物侵入罪)[No14]
〔第10問〕(配点:2) 名誉毀損罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいもの
はどれか。(解答欄は,[No15]) 1.摘示される「事実」は,非公知のものでなければならないから,公知の事実を摘示した場合には,名誉毀損罪は成立しない。 2.事実の摘示が「公然」といえるためには,摘示内容を不特定かつ多数人が認識し得る状態にあったことが必要であるから,不特定ではあるが,少数人しか認識し得ない状態にとどまる場
合には,名誉毀損罪は成立しない。 3.名誉の主体である「人」は,自然人に限られるから,法人の名誉を毀損した場合には,名誉毀損罪は成立しない。 4.死者の名誉を毀損したとしても,虚偽の事実を摘示した場合でなければ処罰されないから,摘示した事実が真実である場合には,名誉毀損罪として処罰されない。 5.人の名誉を侵害するに足りる事実を公然と摘示したとしても,現実に人の名誉が侵害されていない場合には,名誉毀損罪は成立しない。
〔第11問〕(配点:2) 学生A,B及びCは,次の【事例】における甲の罪責について,後記【会話】のとおり検討して
いる。【会話】中の1から5までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは, 後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No16])
【事 例】甲は,乙がVに対して暴行を加えていたところに通り掛かり,乙との間で共謀を遂げた上,乙 と一緒にVに対して暴行を加えた。Vは,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行を加えられた際 に1個の傷害を負ったが,Vの傷害が,甲の共謀加担前の乙の暴行により生じたのか,甲の共謀 加担後の甲又は乙の暴行により生じたのかは,証拠上不明であった。
【会 話】 学生A.私は,共犯は自己の行為と因果関係を有する結果についてのみ責任を負うという見解に立ち,後行者は,共謀加担前の先行者の暴行により生じた傷害結果には因果性を及ぼし得 ないと考えます。事例の場合,甲には1(a.暴行罪・b.傷害罪)の共同正犯が成立す ると考えます。事例とは異なり,Vの傷害が甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じ たことが証拠上明らかな場合,甲には傷害罪の共同正犯が2(c.成立する・d.成立し ない)と考えます。
学生B.A君の見解に対しては,甲に対する傷害罪の成立範囲が3(e.狭く・f.広く)なり 過ぎるとの批判が可能ですね。
学生C.私は,事例の場合には,同時傷害の特例としての刑法第207条が適用され,甲は,V の傷害結果について責任を負うと考えます。その理由の一つとして,仮に甲が乙と意思の 連絡なく,Vに暴行を加えた場合に比べ,事例における甲が4(g.不利・h.有利)に 扱われることになるのは不均衡であると考えられることが挙げられます。
学生B.乙には,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行の際にVに生じた傷害結果についての傷 害罪が成立するのであり,傷害結果について責任を負う者が誰もいなくなるわけではない ということは,C君の5(i.見解に対する批判・j.見解の根拠)となり得ますね。
1.1a 2c 3e 4h 5i 2.1b 2d 3f 4g 5j 3.1a 2c 3f 4g 5j 4.1b 2c 3e 4h 5i 5.1a 2c 3e 4g 5j
〔第12問〕(配点:2) 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場
合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No17])
ア.犯人の親族が当該犯人の利益のために犯人蔵匿罪を犯したときは,当該親族に対する刑は減軽しなければならない。
イ.犯人隠避罪の「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」には,犯人として既に逮捕・勾留されている者は含まれない。
ウ.証拠隠滅罪の「他人の刑事事件」は,犯人蔵匿罪と異なり,罰金以上の刑に当たる罪に限られない。 エ.証人等威迫罪の「威迫」は,相手と面会して直接なされる場合に限られ,文書を送付して相手にその内容を了知させる方法によりなされる場合を含まない。
オ.犯人が自己の刑事事件の裁判に必要な知識を有する証人を威迫した場合,証人等威迫罪が成立する。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ
4.イ オ 5.ウ オ
〔第13問〕(配点:3) 次の【事例】に関する後記1から5までの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しいもの
を2個選びなさい。(解答欄は,[No18],[No19]順不同)
【事 例】甲は,覚せい剤の密売人である乙から,偽造した1万円札と引換えに覚せい剤をだまし取ろう と考え,1万円札の偽造に使用する目的で,作業部屋を自己名義で賃借した上,印刷機及び印刷 用紙を購入して同部屋に運び込み,それらを使用して1万円札100枚を偽造した。(1)その後,甲は,ホテルの部屋で乙と会い,乙に対し,100万円相当の覚せい剤(以下「本件 覚せい剤」という。)の代金として,偽造した1万円札100枚を渡した。乙は,甲から渡され た1万円札が偽札であることに気付かずに,甲に対し,本件覚せい剤を渡し,甲は,これを持っ て同部屋を出た。(2)
甲は,本件覚せい剤をホテルの駐車場に駐車中の自己の自動車内に置いたところ,甲が乙に渡 した1万円札が偽札であることに気付いて追い掛けてきた乙から,本件覚せい剤を返還するよう に求められた。甲は,本件覚せい剤の返還を免れるため,殺意をもって乙の首を両手で絞めて乙 を殺害した。(3)その数日後,甲は,本件覚せい剤を所持しているのを警察官に現認され,覚せい剤取締法違反 の現行犯人として逮捕され,A警察署に連行された。警察官丙は,A警察署の取調室において, 甲の弁解録取手続を行い,甲の供述内容を弁解録取書に記載した上,同弁解録取書を甲に手渡し て内容の確認を求めたところ,甲は,署名押印する前に同弁解録取書を両手で破った。(4)甲は,同取調室から逃げ出し,A警察署の敷地外に出た。(5)
【記 述】
1.1について,甲が作業部屋を自己名義で賃借した行為は,通貨偽造罪の予備行為に該当する ことから,その段階で甲には通貨偽造等準備罪が成立する。
2.2について,甲には詐欺罪が成立し,偽造通貨行使罪は詐欺罪に吸収される。 3.3について,覚せい剤は,法定の除外事由なく所持することが禁じられた物であるが,甲は, 本件覚せい剤の返還を免れるために乙を殺害していることから,甲には強盗殺人罪が成立する。
4.4について,丙が作成した弁解録取書には,甲の署名押印がないが,甲の供述内容が記載さ れていることから,甲には公用文書等毀棄罪が成立する。
5.5について,甲は,逮捕中に逃走し,A警察署の敷地外に出ていることから,甲には単純逃 走罪が成立する。
[刑 法]
以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲(40歳,男性)は,公務員ではない医師であり,A私立大学附属病院(以下「A病院」と いう。)の内科部長を務めていたところ,V(35歳,女性)と交際していた。Vの心臓には特 異な疾患があり,そのことについて,甲とVは知っていたが,通常の診察では判明し得ないもの であった。
2 甲は,Vの浪費癖に嫌気がさし,某年8月上旬頃から,Vに別れ話を持ち掛けていたが,Vか ら頑なに拒否されたため,Vを殺害するしかないと考えた。甲は,Vがワイン好きで,気に入っ たワインであれば,2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲 み切ることを知っていたことから,劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考え た。
甲は,同月22日,Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を 購入し,同月23日,甲の自宅において,同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,同瓶を梱包し た上,自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。劇薬X の致死量(以下「致死量」とは,それ以上の量を体内に摂取すると,人の生命に危険を及ぼす量 をいう。)は10ミリリットルであるが,甲は,劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いして いたところ,Vを確実に殺害するため,8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。そ のため,甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが, 心臓に特異な疾患があるVが,その全量を数時間以内で摂取した場合,死亡する危険があった。 なお,劇薬Xは,体内に摂取してから半日後に効果が現れ,ワインに混入してもワインの味や臭 いに変化を生じさせないものであった。
同月25日,宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,V宅が留守であったため,V宅の 郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,Vは,同連絡票に気付かず,同瓶を受 け取ることはなかった。
3 同月26日午後1時,Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。公務員ではない医師であり, A病院の内科に勤務する乙(30歳,男性)は,Vを診察し,熱中症と診断した。乙からVの治 療方針について相談を受けた甲は,Vが生きていることを知り,Vに劇薬Yを注射してVを殺害 しようと考えた。甲は,劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,Vの心臓には特異な疾患 があるため,Vに致死量の半分に相当する3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,Vが死亡する 危険があることを知っていたが,Vを確実に殺害するため,6ミリリットルの劇薬YをVに注射 しようと考えた。そして,甲は,乙のA病院への就職を世話したことがあり,乙が甲に恩義を感 じていることを知っていたことから,乙であれば,甲の指示に忠実に従うと思い,乙に対し,劇 薬Yを熱中症の治療に効果のあるB薬と偽って渡し,Vに注射させようと考えた。
甲は,同日午後1時30分,乙に対し,「VにB薬を6ミリリットル注射してください。私は これから出掛けるので,後は任せます。」と指示し,6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡 した。乙は,甲に「分かりました。」と答えた。乙は,甲が出掛けた後,甲から渡された容器を 見て,同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,甲の指示に従い,同容器の中身を確認せ ずにVに注射することにした。
乙は,同日午後1時40分,A病院において,甲から渡された容器内の劇薬YをVの左腕に注 射したが,Vが痛がったため,3ミリリットルを注射したところで注射をやめた。乙がVに注射 した劇薬Yの量は,それだけでは致死量に達していなかったが,Vは,心臓に特異な疾患があっ たため,劇薬Yの影響により心臓発作を起こし,同日午後1時45分,急性心不全により死亡し
-2-
た。乙は,Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,内科部長である甲の指示に従って熱中症 の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,甲から渡された容器に薬剤名の記載がないこ とに気付いたにもかかわらず,その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,V の死の結果について刑事上の過失があった。
4 乙は,A病院において,Vの死亡を確認し,その後の検査の結果,Vに劇薬Yを注射したこと が原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,Vの死亡 について,Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。 乙は,A病院への就職の際,甲の世話になっていたことから,Vに注射した自分はともかく,甲 には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,専ら甲のために,Vの親族らがVの死亡届に添付 してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた。
乙は,同月27日午後1時,A病院において,死亡診断書用紙に,Vが熱中症に基づく多臓器 不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,同 日,同死亡診断書をVの母親Dに渡した。Dは,同月28日,同死亡診断書記載の死因が虚偽で あることを知らずに,同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した。
第1 甲の罪責1 医師(非公務員 A病院勤務勤務)→V女(35歳・特殊心臓疾患)に対する罪責:殺人予備(201、199)+殺人既遂(199、間接正犯)
2 8月23日:ワインの中に8mlの劇薬X(致死量は10ml):宅配したが不在(不在票も受け取らず)結局配達されず:Vには危険:不能犯か?:具体的危険説:特に認識していた事情:客観的危険説でも死亡していた可能性:判例(相対的不能/絶対的不能説?)でも不能犯ではない。
実行の着手(43本文):離隔犯:発送時説か到達時説(判例)か?:実行の着手なし(殺人予備)
3 26日:V熱中症でA病院へ 乙が診断後甲に治療方針相談:甲劇薬Y致死量6ml(実際には3mlを注射した時点で死亡)を乙(故意なし、過失あり)にVに注射させ死亡させる(間接正犯):殺人罪の間接正犯
4 罪数関係:併合罪?
第2 乙の罪責
1 Vに対する業務上過失致死(これは問題中成立するとされている)
2 虚偽診断書作成、同行使(牽連犯)それと1とは併合罪
3 なお犯人隠避・証拠偽造罪?:自己隠避・自己証拠にも当たる場合:否定説:自己隠避・自己偽造の不可罰の理由:期待可能性なし、ならばそれが他人の犯罪と関連している場合でも期待可能性ないのでは?
肯定説→証拠偽造行為と犯人隠避の両方に当たるときは104条が優先する(法条競合:特別関係:山中・各論806頁):さらに2との罪数関係も問題となる(観念的競合?)
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刑法1(13)
http://strafrecht.exblog.jp/26787580/
2017-07-04T09:00:00+09:00
2017-07-03T23:27:45+09:00
2017-07-03T23:26:20+09:00
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刑法Ⅰ(総論)
【復習問題】 2017〔第19問〕(配点:2)学生A,B及びCは,次の【事例】における甲の罪責について,後記【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は, [№34])
【事例】甲は,乙がVに対して暴行を加えていたところに通り掛かり,乙との間で共謀を遂げた上,乙と一緒にVに対して暴行を加えた。Vは,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行を加えられた際に1個の傷害を負ったが,Vの傷害が,甲の共謀加担前の乙の暴行により生じたのか,甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じたのかは,証拠上不明であった。
【会話】学生A.私は,共犯は自己の行為と因果関係を有する結果についてのみ責任を負うという見解に立ち,後行者は,共謀加担前の先行者の暴行により生じた傷害結果には因果性を及ぼし得ないと考えます。事例の場合,甲には①(a.暴行罪・b.傷害罪)の共同正犯が成立すると考えます。事例とは異なり,Vの傷害が甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じ
たことが証拠上明らかな場合,甲には傷害罪の共同正犯が②(c.成立する・d.成立しない)と考えます。
学生B.A君の見解に対しては,甲に対する傷害罪の成立範囲が③(e.狭く・f.広く)なり過ぎるとの批判が可能ですね。
学生C.私は,事例の場合には,同時傷害の特例としての刑法第207条が適用され,甲は,Vの傷害結果について責任を負うと考えます。その理由の一つとして,仮に甲が乙と意思の連絡なく,Vに暴行を加えた場合に比べ,事例における甲が④(g.不利・h.有利)に扱われることになるのは不均衡であると考えられることが挙げられます。
学生B.乙には,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行の際にVに生じた傷害結果についての傷害罪が成立するのであり,傷害結果について責任を負う者が誰もいなくなるわけではないということは,C君の⑤(i.見解に対する批判・j.見解の根拠)となり得ますね。
1.①a ②c ③e ④h ⑤i/2.①b ②d ③f ④g ⑤j/3.①a ②c ③f ④g ⑤j/4.①b ②c ③e ④h ⑤i/5.①a ②c ③e ④g ⑤j
【確認問題】共犯の従属性には、①( )従属性、②( )従属性及び③( )従属性の3つの問題がある。教唆の未遂は①の従属性に、行為共同説/犯罪共同説は③の従属性に関連した問題である。
【短答問題】2017年〔第15問〕(配点:2)次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。(解答欄は,[№26])
1.甲が乙に対し,深夜の公園で待ち伏せしてAから金品を喝取するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,深夜の公園でAを待ち伏せしたが,偶然通り掛かったBをAと誤認してBから金品を喝取した。乙は,人違いに気付き,引き続きAを待ち伏せして,通り掛かったAから金品を喝取しようとしてAを脅迫したが,Aに逃げられてしまい金品を喝取することができなかった。甲にはAに対する恐喝未遂罪の教唆犯のみが成立する。
2.甲が乙に対し,Aをナイフで脅してAから金品を強取するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,Aをナイフで脅したが,その最中に殺意を抱き,Aの腹部をナイフで刺してAに傷害を負わせ,Aから金品を強取したものの,Aを殺害するには至らなかった。甲には強盗罪の教唆犯が成立するにとどまる。
3.甲が乙に対し,留守宅であるA方に侵入して金品を窃取するように教唆したところ,乙は,その旨決意したが,B方をA方と誤認してB方に侵入し,その場にいたBから金品を強取した。
甲にはB方への住居侵入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯が成立する。
4.甲が乙に対し,現住建造物であるA家屋に放火するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,A家屋に延焼させる目的で,A家屋に隣接した現住建造物であるB家屋に放火したが,B家屋のみを焼損し,A家屋には燃え移らなかった。甲にはA家屋に対する現住建造物等放火未遂罪の教唆犯のみが成立する。
5.甲は,土建業者AがB市発注予定の土木工事を請け負うためB市役所土木係員乙に現金を供与しようと考えていることを知り,乙に対し,Aに工事予定価格を教える見返りとしてAから現金を受け取り,Aに工事予定価格を教えるように教唆したところ,乙は,その旨決意し,Aとの間で,Aに工事予定価格を教える旨約束して,Aから現金100万円を受け取ったが,その後,工事予定価格を教えなかった。甲には加重収賄罪の教唆犯が成立する。
【論文問題】甲は,自己の取引先であるA会社の倉庫には何も保管されていないことを知っていたにもかかわらず,乙の度胸を試そうと思い,何も知らない乙に対し,「夜中に,A会社の 倉庫に入って,中を探して金目の物を盗み出してこい。」と唆した。乙は,甲に唆されたとおり,深夜,その倉庫の中に侵入し,倉庫内を探したところ,A会社がたまたま当夜 に限って保管していた同社所有の絵画を見付けたので,これを手に持って倉庫を出て、逃亡した。
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刑法1(12)
http://strafrecht.exblog.jp/26785021/
2017-06-27T09:00:00+09:00
2017-07-02T23:46:19+09:00
2017-07-02T23:46:19+09:00
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刑法Ⅰ(総論)
【復習問題1】平成20年〔第13問〕(配点:3)学生A、Bは、不能犯の成否の判断基準に関する次のⅠ、Ⅱの【見解】のいずれかを採って後記【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑦までの( )内から適切な語句を選んだ場合、後記1から5までのうち誤りを含むものはどれか。(解答欄は、[№21])
【見解】Ⅰ. 行為当時に一般人が認識し得た事情を基礎とし、一般人を基準に結果発生の具体的危険性があるか否かの判断による。
Ⅱ. 行為当時に存在したすべての客観的事情を基礎とし、結果発生の具体的危険性があるか否かの判断による。
【事例】甲は、健康な乙を毒殺するため、薬品棚から取り出した毒薬のラベルが付いた容器に入った粉を毒薬と認識してその水溶液を乙に多量に注射したが、同粉は、ラベルに表示された毒薬ではなくブドウ糖であったため乙は死亡しなかった。
【会話】A. 私は、甲の罪責については、①(a. 毒薬・b. ブドウ糖)の水溶液を注射する行為が危険であるかどうかを判断し、甲には殺人未遂罪が成立②(c. する・d. しない)と考える。
B. しかし、A君の見解だと、特定の食物の摂取によりショック死しかねないアレルギー体質を有する乙を、そのことを知った甲が、当該食物を乙に食べさせて殺害しようとした事案で、一般人が乙の体質を認識し得なかった場合には、③(e. 行為当時に存在した全事情を基礎として・f. 行為当時に一般人が認識し得た事情を基礎として)判断することになるから、未遂犯が成立しないこととなり、常識に反する。
A. そのような場合、私の立場でも、④(g. 行為時に行為者が特に認識していた事情・h. 事後的に明らかになった全事情)を考慮すべきと考えるので、B君の言う事案でも未遂犯の成立を認めることができる。それよりも、B君の立場を理論的に徹底すれば、結果が不発生に終わった事案は、ほとんど常に⑤(i. 不能犯・j. 未遂犯)となってしまうのではないか。
B. いや、私の立場であっても、事後的・科学的見地から、実際に存在した事実のほかにどのような事実があれば結果が発生し得たかを検討し、そのような事実が行為時に存在し得る可能性の程度を危険判断に取り込むべきと考える。したがって、前記【事例】でも、単に、⑥(k.ブドウ糖・l. 毒薬)を健康な乙に注射することの危険性を判断するのではなく、毒薬のラベルの付いた容器内にブドウ糖が入っていた原因・経緯なども考慮すべきだ。例えば、その原因・経緯が極めてまれで異常だったという事情は、不能犯を⑦(m. 肯定・n. 否定)する方向に働くと考える。
1. ①a、②c/2. ③f/3. ④g、⑤i/4. ⑥k/5. ⑦m
【復習問題2】2017〔第1問〕(配点:2)次の【見解】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。(解答欄は,[№1])
【見解】間接正犯については,被利用者の行為時に実行の着手を認めるべきである。
【記述】1.【見解】は,実行行為時と実行の着手時期が一致することを要しないとする考え方と矛盾しない。
2.【見解】に対しては,利用者にとって偶然の事情で実行の着手時期を決することになり不合理であると批判できる。
3.【見解】は,離隔犯において到達時に実行の着手を認める考え方と矛盾しない。
4.【見解】に対しては,責任無能力者を利用する場合には,責任無能力者に規範意識の障害がないというだけで,直ちに結果発生の切迫した危険があるとはいえないと批判できる。
5.【見解】は,自然的に観察して結果発生に向けた直接の原因となる行為を重視する考え方と矛盾しない。
【短答問題】(配点:2)次の【事例】に関する後記1から5までの各記述のうち,甲に窃盗罪の従犯の成立を肯定する論拠となり得ないものはどれか。
【事例】甲は,乙又は乙の友人が窃盗罪を犯そうとしていることを知り,その手助けのため,乙に対し,同罪の遂行に必要な道具を貸したところ,さらに,乙はその道具を友人丙に貸し,丙がこれを用いて同罪を犯した。なお,丙には同罪の正犯が成立し,乙にはその従犯が成立するものとする。
1.従犯には独立した犯罪性が認められる。
2.従犯の幇助には,教唆者を教唆した者については正犯の刑を科すとする刑法第61条第2項のような規定がない。
3.共犯は修正された構成要件に該当する行為であるところ,従犯もその構成要件においては「正犯」となる。
4.幇助は正犯を容易にすることであるという定義からすると,幇助行為が直接的になされたか,間接的になされたかは必ずしも問われない。
5.教唆犯に対する幇助行為は従犯として処罰される。
【論文問題】甲は,乙がVに対して暴行を加えていたところに通り掛かり,乙との間で共謀を遂げた上,乙と一緒にVに対して暴行を加えた。Vは,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行を加えられた際に1個の傷害を負ったが,Vの傷害が,甲の共謀加担前の乙の暴行により生じたのか,甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じたのかは,証拠上不明であった。甲及び乙の罪責につき論じなさい(特別法違反の点は除く。)
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侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法
http://strafrecht.exblog.jp/26738235/
2017-04-26T08:26:00+09:00
2017-07-04T21:21:48+09:00
2017-06-14T08:28:31+09:00
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刑法Ⅰ(総論)
事件名 殺人,器物損壊被告事件
裁判年月日 平成29年4月26日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集等巻・号・頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成27(う)1120
原審裁判年月日 平成28年2月10日
判示事項 侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法
裁判要旨 行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに私人による対抗行為を許容した刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。
参照法条 刑法36条
【事案】(1) 被告人は,知人であるA(当時40歳)から,平成26年6月2日午後4 時30分頃,不在中の自宅(マンション6階)の玄関扉を消火器で何度もたたか れ,その頃から同月3日午前3時頃までの間,十数回にわたり電話で,「今から行ったるから待っとけ。けじめとったるから。」と怒鳴られたり,仲間と共に攻撃を 加えると言われたりするなど,身に覚えのない因縁を付けられ,立腹していた。
(2) 被告人は,自宅にいたところ,同日午前4時2分頃,Aから,マンション の前に来ているから降りて来るようにと電話で呼び出されて,自宅にあった包丁 (刃体の長さ約13.8cm)にタオルを巻き,それをズボンの腰部右後ろに差し 挟んで,自宅マンション前の路上に赴いた。
(3) 被告人を見付けたAがハンマーを持って被告人の方に駆け寄って来たが, 被告人は,Aに包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることなく,歩いてAに近づき, ハンマーで殴りかかって来たAの攻撃を,腕を出し腰を引くなどして防ぎながら, 包丁を取り出すと,殺意をもって,Aの左側胸部を包丁で1回強く突き刺して殺害 した。
「刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為 を例外的に許容したものである。したがって,行為者が侵害を予期した上で対抗行 為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから, 直ちにこれが失われると解すべきではなく(最高裁昭和45年(あ)第2563号 同46年11月16日第三小法廷判決・刑集25巻8号996頁参照),対抗行為 に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。具体的に は,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の 予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相 当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状 等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状 況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に 対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき(最高裁昭和51年(あ)第671 号同52年7月21日第一小法廷決定・刑集31巻4号747頁参照)など,前記 のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の 急迫性の要件を充たさないものというべきである。」
上記事実関係によれば、「被告人は,Aの呼出しに応じて現場に赴けば,Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら,Aの呼出 しに応じる必要がなく,自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であった にもかかわらず,包丁を準備した上,Aの待つ場所に出向き,Aがハンマーで攻撃 してくるや,包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることもしないままAに近づき,A の左側胸部を強く刺突したものと認められる。このような先行事情を含めた本件行 為全般の状況に照らすと,被告人の本件行為は,刑法36条の趣旨に照らし許容さ れるものとは認められず,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきであ る。したがって,本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第1審判決を是認した原判断は正当である。」
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刑法1(2)罪刑法定主義
http://strafrecht.exblog.jp/26701474/
2017-04-18T09:00:00+09:00
2017-05-31T08:51:41+09:00
2017-05-30T21:34:30+09:00
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刑法Ⅰ(総論)
刑法1:理解度確認テスト(2) 【復習問題】(配点:5) :刑罰に関する次のアからオまでの各記述を検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2 を【解答欄】に記入しなさい。 ア.自由刑には、懲役、禁錮及び労役場留置が含まれる。 イ.財産刑には、罰金、没収及び追徴が含まれる。 ウ.有期の懲役又は禁錮は、1月以上15年以下であり、これを加重する場合においては30年にまで上げることができる。 エ.有期の懲役又は禁錮を減軽する場合においては1月未満に下げることができる。 オ.懲役は、受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰であり、禁錮は、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である。 【解答欄】ア( )イ.( )ウ( )エ( )オ( ) 【短答問題】(配点:2) 罪刑法定主義に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。 ア.犯罪と刑罰は、「法律」によって定められていなければならず、この「法律」には、法律の委任を受けた政令、条例及び慣習法が含まれる。 イ.行為の時に適法であった行為を、その後の法律によって遡って犯罪とすることは、許されない。 ウ.ある刑罰法規につき、条文の文言を、語義の可能な範囲内で通常の意味よりも広げて解釈することは、許されない。 エ.刑の長期と短期を定めて言い渡し、現実の執行期間をその範囲内において執行機関の裁量に委ねることは、許されない。 オ.ある刑罰法規が、犯罪に比べて著しく均衡を失する重い刑罰を規定している場合、当該刑罰法規は違憲である。 1.ア イ 2.ア ウ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ 【解答欄】( ) 【論文問題】「平成29年2月15日、東京都調布市の都営アパート内のV(当時89)居住の部屋で、Vの孫である甲は、Vから金を借りようとしたが断られたため、かっとなってVの頭や顔を数回にわたりはさみで刺し、さらに殴るなどして死亡させた。その後、甲は、Vが預金通帳などをたんすの引き出しに入れていたことを思い出し、たんすの引き出しを開け、現金2万円と預金通帳と印鑑を持ち去った。甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く)。」カッコ内に下の【判決理由】を参考にして正しい語・文・数字を入れなさい。 【判例】最判昭和41・4・8[各191]殺害直後の時計の奪取 【判決理由】「披告人は、当初から財物を領得する意思は有していなかつたが、野外において、人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後、その現場において、被害者が身につけていた時計を奪取したのであつて、このような場合には、被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなうものというべきである。そうすると、被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから、右奪取行為は、占有離脱物横領ではなく、窃盗罪を構成するものと解するのが相当である。」 【解答欄】第1 甲の( )という行為につき、( )罪(刑法[以下略] 条)が成立する。 第2 さらに、甲が( )行為につき、以下のように、( )罪( 条)が成立するが、( )( 条 項)の規定に基づき「その刑を( )」される。 1 ( )罪は、「他人が占有する他人所有の財物の占有を、占有者の意思に反して取得する場合」に成立するが、本件においては甲が奪取の意思を生じ、それを実行した時点においてVはすでに死亡していたのであるから、死者には占有が認められず、そこから財物を領得しても( )罪( 条)が成立するに過ぎないのではなないかが問題となる。 2 しかし、本件のように殺害者自身が被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用してその財物を奪取した場合には( )と考えられるから、( )罪が成立すると解することができる。 3 けれども、本件においてVは甲の( )であるから( )条( )項の「( )」にあたるので、「その刑を( )」される。]]>
刑法1(1)刑法の意義・刑罰論
http://strafrecht.exblog.jp/26701441/
2017-04-11T09:00:00+09:00
2017-05-31T08:41:31+09:00
2017-05-30T21:24:10+09:00
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刑法Ⅰ(総論)
刑法1(1)刑法の意義・刑罰論
【教科書】山口厚『刑法』(第3版・2015年)
【参考文献】(最新のもの)松宮孝明『刑法総論講義』(第5版・2017年);松原芳博『刑法総論』(第2版・2017年)
第199条 (殺人) 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
① 刑法の意義
・実質的意義の刑法:「いかなる行為が犯罪であり、それに対していかなる刑罰が科されるかを規定した法」(山口3頁)
・形式的意義の刑法(刑法典):刑法(明治40年4月24日法律第45号)
・刑法総則(総論):第1篇「総則」
・刑法各則(各論):第2編「罪」
特別法上の刑罰法規:「特別刑法」(広義)とは
*「特別法違反の点を除く。」の意味
* 刑法8条:総則の規定は、特別刑法にも適用される
② 刑罰論
・応報刑論(松原3-5頁:被害応報・秩序応報・責任応報)
*予防刑論(目的刑論)
・一般予防論
・消極的一般予防論(抑止刑論)
・積極的一般予防論(規範的予防論)(松原6-8頁:国民の規範意識・規範への信頼確保・規範妥当性確証)
・特別予防論(再犯防止)(松原8-9頁:消極的特別予防[隔離・排除・特別抑止]・積極的特別予防[改善・教育])
③ 刑法理論との関係
・応報刑論 (後期)旧派 意思自由論
・一般予防論 (前期)旧派 意思自由論(合理的判断能力)
・特別予防論 新派(近代学派) 決定論
*短答出題例:2014〔第1問〕(配点:2)刑罰論に関する次の1から5までの各記述のうち、正しいものはどれか。(解答欄は、[№1])
1.応報刑論は、産業革命に伴う工業化・都市化によって累犯が増加したことを契機として、支持者が増えた。
2.応報刑論に対しては、重大な犯罪を犯した者であっても、再犯可能性がなければ刑罰を科すことができなくなるとの批判がある。
3.応報刑論に対しては、論者が前提としている人間の意思の自由が科学的に証明されていないとの批判がある。
4.応報刑論に対しては、犯罪を防止するために罪刑の均衡を失した重罰化を招くおそれがあるとの批判がある。
5.応報刑論に対しては、刑罰と保安処分の区別がなくなるとの批判がある。
④ 刑罰の種類(刑法9条以下、山口196-9頁)
・生命刑:死刑
・自由刑:懲役・禁錮・拘留
*懲役・禁錮の一本化(改正案)→問題点(松宮・ⅱ頁[はしがき]):「自由刑純化論」(松宮344頁)ではなく「拡大された懲役刑一本化」
・財産刑:罰金・科料:没収
*主刑と付加刑
*代替(換刑)処分:労役場留置/追徴→刑罰でないことに注意(松宮346頁参照)
*執行猶予(25条以下)/一部執行猶予(27条の2以下)/仮釈放(28条)/仮出場(30条)
*一部執行猶予の問題点(松宮352−3頁):「全部実刑と全部執行猶予の中間的制度」か?
出題例:2013〔第9問〕(配点:4) :刑罰に関する次のアからオまでの各記述を検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2 を選びなさい。(解答欄は、アからオの順に[No14]から[No18])
ア.自由刑には、懲役、禁錮及び労役場留置が含まれる。[No14]
イ.財産刑には、罰金、没収及び追徴が含まれる。[No15]
ウ.有期の懲役又は禁錮は、1月以上15年以下であり、これを加重する場合においては30年にまで上げることができる。[No16]
エ.有期の懲役又は禁錮を減軽する場合においては1月未満に下げることができる。[No17]
オ.懲役は、受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰であり、禁錮は、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である。[No18]
【次回】②2017.04.18(火)1時限:罪刑法定主義・犯罪の意義
刑法1・内容確認テスト(1) 【問1】刑罰論に関する次の1から5までの各記述のうち、誤っているものはどれか。 1.特別予防論は、産業革命に伴う工業化・都市化によって累犯が増加したことを契機として、支持者が増えた。 2.特別予防論に対しては、重大な犯罪を犯した者であっても、再犯可能性がなければ刑罰を科すことができなくなるとの批判がある。 3.特別予防論に対しては、高い再犯率から見ても刑罰による教育・改善効果が十分に実証されていないという批判がある。 4.特別予防論に対しては、それは犯罪をまだ犯していない者を威嚇して犯罪を犯さないようにしようとする一種の見せしめ刑であって、処罰される個人を犯罪予防という社会的利益のための単なる手段として利用する点で人間の尊厳に反するという批判がある。 5.特別予防論に対しては、刑罰と保安処分の区別がなくなるとの批判がある。 【解答欄】( ) 【問2】学生AないしCは、刑罰の執行について会話している。各発言中の(①)から(⑦)までに語句群から適切な語句を入れなさい。 【発言】学生A:執行猶予は、情状によって刑の執行を猶予し、一定期間を無事経過したときは、(①【解答欄】 )は効力を失うという制度である。短期の(②【解答欄】 )については、受刑者の改善には短すぎるし、他の被収容者から悪影響を受けるなどの弊害が指摘されているが、執行猶予は、このような弊害を避けるための制度であると思う。 学生B:A君の意見には賛成できない。典型的な短期の(②)である(③【解答欄】 )が、執行猶予の対象になっていない一方で、財産刑である(④【解答欄】 )が執行猶予の対象になっていることを考えると、現行刑法の執行猶予は、短期の(②)の弊害を避けることだけを目的としているとは思えない。むしろ、執行猶予は、施設に収容せず、刑が執行されるという心理的強制を背景として、自力で改善更生させるという(⑤【解答欄】 )の目的があると思う。執行猶予には(⑥【解答欄】 )を付すことができるとされているのも、その目的に沿うものだと思う。 学生C:執行猶予の目的が短期の(②)の弊害の回避だけではないという点で、B君の意見に賛成だ。しかし、(⑤)の目的に沿うという(⑥)も、(⑦【解答欄】 )の執行猶予の場合は、裁量的に付することとされているにとどまっている。その上、現行刑法の執行猶予制度は、自由を拘束するよりも執行猶予に付する方が改善更正を期待できる場合に広く刑の執行を猶予するという制度になっておらず、一定の前科のないことを要件として、また、対象となる(②)の上限を3年としている。これらの点を考えると、執行猶予が(⑤)の目的だけにあると考えるのも妥当ではないと思う。 【語句群】a.公訴の提起 b.刑の言渡し c.自由刑 d.懲役刑 e.拘留 f.労役場留置 g.科料 h.罰金 i.一般予防 j.特別予防 k.保護観察 l.試験観察 m.再度 n.初度 【問3】「平成29年2月15日、東京都調布市の都営アパート内のV(当時89)居住の部屋で、Vの孫である甲は、Vから金を借りようとしたが断られたため、かっとなってVの頭や顔を数回にわたりはさみで刺し、さらに殴るなどして死亡させた。甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く)。」という問題の結論部分を書きなさい。→論文式試験の書き方(1)【問題1】「平成29年2月15日、東京都調布市の都営アパート内のV(当時89歳)居住の部屋で、Vの孫である甲(23歳)は、Vから金を借りようとしたが断られたため、かっとなってVの頭や顔を数回にわたりはさみで刺し、さらに殴るなどして死亡させた。甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く)。」①問題提起型 問題提起(「甲がVの頭や顔をはさみで突き刺すなどして死亡させた行為につき、殺人罪(刑法199条)が成立が成立しないか。」)→要件→当てはめ→結論②結論先行型 結論→理由(要件→当てはめ)【結論】甲がVの頭や顔をはさみで突き刺すなどして死亡させた行為につき、殺人罪(刑法199条)が成立する。【要件】①「人」(=自然人:客体)の生命を②「罪を犯す意思」(38条1項)(故意[=死亡結果の認識・認容]=殺意)をもって侵害した(「殺した」)(=③実行行為[死亡させる危険のある行為]+④[死亡]結果+⑤[③④間の]因果関係)こと*殺意の認定:①被害者の年齢・健康状態、②凶器を使用の有無、③使用した凶器の種類・大きさ(例えば刃物の場合、刃渡り)など、④攻撃した部位(特に、四肢以外の人体の枢要部を狙っているかどうか)、⑤攻撃の回数、⑥傷の深さなどを総合的に考えて、殺意を認定する。①刃渡り20センチのナイフで、心臓付近を5回深く刺していた場合②刃渡り5センチのナイフで、右腕付近を2~3回浅く切りつけていた場合*条文問題と判例問題【問題2】平成29年2月15日、東京都調布市の都営アパート内のV(当時89)居住の部屋で、Vの孫である甲は、Vから金を借りようとしたが断られたため、かっとなってVの頭や顔を数回にわたりはさみで刺し、さらに殴るなどして死亡させた。その後、甲は、Vが預金通帳などをたんすの引き出しに入れていたことを思い出し、たんすの引き出しを開け、現金2万円と預金通帳と印鑑を持ち去った。甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く)。【ヒント】この問題には、単なる条文問題だけではなく、判例(学説)問題が含まれている。授業で示した新聞記事(http://www.asahi.com/articles/ASK3M5S9TK3MUTIL01L.html)は、最初は強盗殺人罪(刑法240条後段)の疑いで逮捕されたが、罪名が殺人罪に変更されたのはなぜか考えてみよう(山口284頁の「死者の占有」の項目を読んで、判例では何罪が成立するか、その罪には刑法244条1項が適用されるかどうかも検討すること)。
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最判平成11・10・26民集53巻7号1313頁
http://strafrecht.exblog.jp/26569208/
2017-04-09T13:32:00+09:00
2017-04-09T13:32:57+09:00
2017-04-09T13:32:57+09:00
strafrecht_bt
刑法演習
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
民集53巻7号1313頁
[判示事項] 名誉毀損の行為者が刑事第一審の判決を資料として事実を適示した場合と右事実を真実と信ずるについての相当の理由
[裁判要旨] 名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
参照法条 民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
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最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁
http://strafrecht.exblog.jp/26566621/
2017-04-08T14:45:00+09:00
2017-04-08T14:45:01+09:00
2017-04-08T14:45:01+09:00
strafrecht_bt
刑法演習
【判示事項】
一 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損において行為者が右事実を真実と信ずるにつき相当の理由がある場合の不法行為の成否
二 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別
三 特定の者について新聞報道等により犯罪の嫌疑の存在が広く知れ渡っていたこととその者が当該犯罪を行ったと公表した者において右のように信ずるについての相当の理由
【裁判要旨】
一 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあって、表明に係る内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない場合に、行為者において右意見等の前提としている事実の重要な部分を真実と信ずるにつき相当の理由があるときは、その故意又は過失は否定される。
二 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事が、意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合にも、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や記事の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは、右記事は、右事項についての事実の摘示を含むものというべきである。
三 特定の者が犯罪を犯したとの嫌疑が新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない。
【参照法条】 民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
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判決文と答案
http://strafrecht.exblog.jp/26556373/
2017-04-04T18:10:00+09:00
2017-04-04T18:26:35+09:00
2017-04-04T18:10:57+09:00
strafrecht_bt
刑法演習
「主文」 被告人を懲役4年6月に処する。未決勾留日数のうち120日をその刑に算入する。 「理由」(罪となるべき事実) 被告人は,Aと共謀の上,第1〔平成29年1月18日付け起訴状記載の公訴事実第1〕 平成27年6月21日頃,愛知県田原市a町bc番地B駐車場において,同所に駐車中のC所有の普通乗用自動車1台(時価約2万円相当)を「窃取」した。 第2〔平成28年11月2日付け起訴状記載の公訴事実〕平成27年12月31日頃,愛知県新城市d字ef番g所在の廃屋において,D(当時71歳)の死体を同所トイレ便槽内に運び入れ,同死体に木片等をかぶせて覆い隠し,もって死体を「遺棄」した。第3〔平成28年12月21日付け起訴状記載の公訴事実〕 別表記載のとおり,平成28年1月5日午後零時2分頃から同年3月8日午前10時31分頃までの間,前後9回にわたり,愛知県豊橋市h町字ij番地kEF店ほか6か所において,各所に設置された現金自動預払機に,不正に入手したG信用金庫H支店発行のD名義のキャッシュカード1枚を挿入して同機を作動させ,株式会社I銀行お客さまサービス部長Jほか5名管理の現金合計17万6000円を引き出して「窃取」した。第4〔平成29年1月18日付け起訴状記載の公訴事実第2〕 平成28年3月10日頃,愛知県豊川市l町mn番地o株式会社K駐車場において,同所に駐車中のL管理の普通貨物自動車1台(時価約60万円相当)を「窃取」した。 第5〔平成28年9月9日付け起訴状記載の公訴事実第1〕
平成28年7月20日午後5時38分頃,愛知県田原市p町qr番地Mにおいて,同所に設置されたさい銭箱等からN会会長O管理の現金約200円を窃取した。第6〔平成28年9月30日付け起訴状記載の公訴事実〕 平成28年7月23日頃,愛知県田原市s町tu番地v株式会社Pクラブハウス従業員通用口前付近において,同所に駐車中の同社取締役社長Q管理の普通貨物自動車1台(時価約20万円相当)を「窃取」した。 第7〔平成28年9月9日付け起訴状記載の公訴事実第2〕平成28年7月30日午後8時59分頃,愛知県田原市p町qr番地Mにおいて,同所に設置されたさい銭箱を手で持ち上げてひっくり返すなどし,同さい銭箱内から前記O管理の現金を「窃取」しようとしたが,現金が入っていなかったため,その目的を遂げなかった。(法令の適用) 1 罰条(1) 判示第1,第4ないし第6の各行為 いずれも刑法235条,60条
(2) 判示第2の行為 刑法190条,60条(3) 判示第3の各行為 いずれも刑法235条,60条(4) 判示第7の行為刑法243条,235条,60条
2 刑種の選択判示第1,第3ないし第7の各行為につき,いずれも懲役刑を選択
3 併合罪
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書 (量刑の理由)1 事案の概要【以下略】
被告人=甲の罪責第1 甲がAと共謀し(以下同じ)、平成27年6月21日頃,B駐車場に駐車中のC所有の普通乗用自動車1台を奪取した行為 1【結論】甲には、以下のように、窃盗罪のAとの共同正犯(刑法[以下略]235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係(略)第2 同年12月31日頃,廃屋において, Dの死体を同所トイレ便槽内に運び入れ,同死体に木片等をかぶせて覆い隠した行為1【結論】甲には、以下のように、死体遺棄罪のAとの共同正犯(刑法[以下略]190条、60条)が成立する。
2 死体遺棄罪の成否(略)3 共犯関係(略)第3 平成28年1月5日から3月8日までの間,前後9回にわたり,EF店ほか6か所において,各所に設置された現金自動預払機に,不正に入手したD名義のキャッシュカード1枚を挿入して同機を作動させ,現金合計17万6000円を引き出した行為1【結論】甲には、以下のように、窃盗罪のAとの共同正犯(235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係(略)第4 同年3月10日頃,K駐車場に駐車中のL管理の普通貨物自動車1台を奪取した行為 1【結論】甲には、以下のように、窃盗罪のAとの共同正犯(235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係(略)第5 同年7月20日さい銭箱等からO管理の現金約200円を奪取した行為
1【結論】甲には、以下のように、窃盗罪のAとの共同正犯(刑法[以下略]235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係(略)第6 同年7月23日頃,Pクラブハウス従業員通用口前付近に駐車中のQ管理の普通貨物自動車1台を奪取した行為1【結論】甲には、以下のように、窃盗罪のAとの共同正犯(235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係 (略)第7 同年7月30日、前記さい銭箱を手で持ち上げてひっくり返すなどし,同さい銭箱内からO管理の現金を奪取しようとしたが,現金が入っていなかったため,その目的を遂げなかった行為1【結論】甲には、以下のように、窃盗未遂罪のAとの共同正犯(243条、235条、60条)が成立する。2 窃盗罪の成否(略)3 共犯関係(略)第8 罪数関係前記第1ないし第7の各罪につき、すべて併合罪(45条1項)となる。(刑種の選択・量刑は答案では示す必要はない。)
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科目別事前ガイダンス:刑法演習(2)
http://strafrecht.exblog.jp/26535524/
2017-03-27T19:15:00+09:00
2017-03-27T19:15:38+09:00
2017-03-27T19:15:38+09:00
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刑法演習
(問題文略ーテキスト参照)
【解答例】第1 ベンチに置かれたAの財布を持ち去った行為
【結論】甲には、以下のように、占有離脱物横領罪と窃盗未遂罪が成立する(罪数関係は後述)。
1.客観的構成要件該当性:窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)との区別-占有の有無
(1)甲は、客観的にはA所有の「財物」である財布を領得しているが、Aになお占有が残っていたがどうかにより窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)の区別が問題となる。
(2)占有の有無の判断基準
ア 窃盗罪に「占有」とは財物に対する事実上の支配をいい、物の支配態様は多様であることから、占有の事実と占有の意思に照らして、社会通念に従って決するほかないが、具体的には、①財物自体の特性、②場所的状況、③時間的場所的間隔等から考えることになり、占有の意思は補充的に考慮する。特に、③については、置き忘れに気付いた時点や、取りに戻った時点ではなく、領得行為時が基準となる
イ 本件では、②財布という遺失しやすい小物であること、②スーパーマーケット内のベンチという誰でも立ち入れる場所であること、③領得行為時との時間的間隔が2分程度しかなく、極めて近接した時点で領得行為がなされているが、場所的にみると、この時点ではすでにAは6階のベンチから地下1階まで移動しており、置き忘れに気づきさえすれば直ちに取り戻すことが可能な状態にあったとは言えないことから見て、Aの占有は否定される。
(2)占有の移転
置き忘れがあった場合でも、なお当該場所の管理権や場所的状況に照らして占有が他者に認められることがあり、Bの管理者やDに占有の移転があったどうかが問題となる。
ア スーパーマーケットBの現場管理者の占有
この場合、B店内は、誰でも立入れる場所であり、遺失物に対する特別の管理措置が取られていたということをうかがわせる事情もないので、Bへの占有移転は否定される。
イ D子の占有
Dは、現場で見ていただけで、一度も財布の占有を確保しておらず、排他的支配を及ぼしたとは言えない以上、Dへの占有移転も否定される。
(3)従って、甲の行為は、客観的には窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪の構成要件に該当する。
2.主観的構成要件該当性:抽象的事実の錯誤
(1)窃盗の故意
甲は本件財布がCのものと誤信しているが、そうであればCの占有が及んでいる物を取得する認識があるため、窃盗罪の故意が認められる
(2)抽象的事実の錯誤
ア 主観的には窃盗罪の認識で、客観的に占有離脱物横領罪の結果を生ぜしめた場合、客観面に符合する故意を認めることができるのかが問題になる。実質的な符合は、両罪の①行為態様及び②保護法益の類似性を考慮して判断される。
イ 両罪は、①行為態様では、他者に財物を不法に取得する点で共通し、②保護法益では、占有と所有権で異なるとも思えるが、窃盗罪が占有を保護しているのは、究極的には本権を保護するためであるから、共通性を肯定でき、軽い占有離脱物横領の範囲で実質的な重なり合いを認めることができる。
(3)主観面に対応する犯罪(窃盗未遂罪)の成否-実行の着手
ア 法益侵害の危険性の有無で判断するが、その判断は行為時に一般人が認識しえた事情+行為者が認識していた客観的事情を基礎に、一般人の観点から行う(具体的危険説)。
イ 本件のような場合には、D子のようにずっと観察していた場合はともかく、その場に居合わせた一般人からは、Cに占有があるかのごとく見えるので、具体的危険性が肯定され、窃盗未遂罪も成立する。
第2 A名義のクレジットカードを呈示して、売上伝票にAと署名し商品を購入した行為(他人名義のクレジッドカードの不正使用)
【結論】甲には、以下のように、詐欺罪(246条1項)並びに私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条)が成立する(罪数関係は後述)。
1.詐欺罪の成否
甲は、あたかもAであるかのように偽って(欺罔行為)、クレジットカード取引において名義人以外の者との取引を禁じられている加盟店を錯誤に陥れ、当該錯誤に基づいて財物を交付している点で、個別財産の損失があるほか、規約に反した取引を行えば立替払いを受けられないリスクがあり、この点で、真正名義人と取引を行うという被害者の達成できなかった目的は経済的に評価して実質的損害を肯定することができる。したがって、加盟店に対する、商品を客体とした、1項詐欺罪が成立する。
2.売上伝票への記載・交付
甲は、「行使の目的で」、他人であるAの署名を使用して「権利、義務若しくは事実証明に関する文書」である売上伝票を偽造(作成名義を冒用)し、それを交付し「行使」しているのので、私文書偽造罪及び同行使罪が成立する。
第3 罪数関係
【結論】甲には、以下のように、①窃盗未遂罪、②私文書偽造罪、③同行使罪及び④詐欺罪が成立し、②③④は牽連犯(54条1項後段)となり、それらと①は併合罪(45条)となる。
1 上記第1の行為については、①占有離脱物横領罪と②窃盗未遂罪が成立するが、①はより重い②に吸収される(包括一罪)。
2 上記第2の行為については、①私文書偽造罪と②同行使罪が牽連犯となり、これらが③詐欺罪と牽連犯となる。
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参考人として警察官に対して犯人との間の口裏合わせに基づいた虚偽の供述をする行為が刑法(平成28年法律第54号による改正前のもの)103条にいう「隠避させた」に当たるとされた事例
http://strafrecht.exblog.jp/26738223/
2017-03-27T08:21:00+09:00
2017-06-14T08:22:44+09:00
2017-06-14T08:22:44+09:00
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刑法Ⅱ(各論)
事件名 犯人隠避,証拠隠滅被告事件
裁判年月日 平成29年3月27日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集等巻・号・頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成26(う)1409
原審裁判年月日 平成27年7月8日
判示事項 参考人として警察官に対して犯人との間の口裏合わせに基づいた虚偽の供述をする行為が刑法(平成28年法律第54号による改正前のもの)103条にいう「隠避させた」に当たるとされた事例
裁判要旨 道路交通法違反,自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら,Aとの間で,事故車両が盗まれたことにする旨口裏合わせをした上,参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をした本件行為は,刑法(平成28年法律第54号による改正前のもの)103条にいう「隠避させた」に当たる。
(補足意見がある。)
参照法条 刑法(平成28年法律第54号による改正前のもの)103条
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科目別事前ガイダンス:刑法演習(1)
http://strafrecht.exblog.jp/26528025/
2017-03-23T21:12:00+09:00
2017-03-24T23:37:48+09:00
2017-03-24T21:55:19+09:00
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刑法演習
(問題文略ーテキスト参照)
【解答例】第1 Aに対する罪責
1 Aの顔面を手拳で軽く1回殴打した行為
【結論】甲は、以下に述べるように、暴行罪(刑法[以下略]208条)の構成要件に該当するが、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されるので処罰されない。
(1)暴行罪の構成要件該当性
上記行為は、Aの身体に向けられた有形力の行使である「暴行」にあたり、暴行罪の構成要件に該当する。
(2)正当防衛の成否:特に「やむを得ずにした行為」の要件
しかし、それはAが甲の車の窓から手を入れてきて、甲の胸ぐらを掴もうとした暴行(「急迫不正の侵害」)に対して、「自己を防衛するため」の行為であり、酔っ払った36歳の男性であるAの執拗な攻撃を避けるためには、顔面を手拳で軽く1回殴打した程度であれば、防衛手段として必要最小限であるといえるので、「やむを得ずにした」ものと評価できよう。
2 ボンネット上のAを振り落とし、加療2週間を要する傷害を負わせた行為
【結論】甲には、以下に述べるように、殺人未遂罪(199条、203条)が成立するが、過剰防衛(36条2項)となり任意的に減免されうる。
(1)殺人罪の構成要件該当性
ア.殺人罪の実行行為性は、生命侵害の現実的危険性がある場合に認められるが、高速度で走行する車から転落すれば相当の衝撃を受け、頭部などの急所を強打すれば死亡する危険性が高いことや、仮に転落の衝撃により死亡しなくとも、車道上に転落すれば他の車に轢かれ、なお死亡する危険性があることに照らせば、肯定できる。
イ.故意(殺意)
甲は当然上記①の事実を認識していたと考えられるにもかかわらず、Aを振り落とすべく、時速70キロの高速度で、急ブレーキや蛇行運転を繰り返す等、Aの生命に特段配慮した走行を行っていたとはいえないことからすれば、死んでも構わないと考えていたものと言え、未必的な故意を認めることができる。
(2)正当防衛・過剰防衛の成否
ア.Aは上記1における行為後もなお甲に対する攻撃意思を持ってボンネットに乗った他者であり、「急迫不正の侵害」はなお継続していると言え、問題文からは甲が積極的加害意思と持っているという事情はうかがわれれず、振り落とし行為はもっぱら「防衛のため」に行われたものと言える。
イ.なお、この侵害は、甲の上記1の行為による自招侵害ではないかが問題となるが、1で述べたようにその行為は正当防衛によるものなので、全体として一連の違法行為となるわけではなく、正当防衛権はそれによって制限されない。
ウ.しかし、この行為は、高速度で振り落とさずとも、代替手段として、低速度での運転が可能であり、車道上にBが転落することがないよう,急ブレーキや蛇行運転を控え,より安全な場所に走行して他人に助けを求めるなど,Bの生命身体等の安全にいささかでも配慮した行動が可能であったと認められることからみて、防衛手段としての最小限度性を欠き「やむを得ずにした行為」の程度を超えたものとして、「過剰防衛」となり、違法性は阻却されず、殺人未遂罪が成立するが、過剰防衛による責任減少が認められ、任意的減免が可能となる。
第2 Bに対する罪責:自己の乗車する車を発進させ、Bを転倒させ、打撲傷を与えた行為
【結論】Bに対しては、以下に述べるように、傷害罪(204条)の構成要件に該当するが、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されるので処罰されない。
1 傷害罪(204条)の成否
(1)暴行罪(208条)の成否
まず上記行為は、Bの身体に直接接触はしていないが、身体的接触が無い場合でも、傷害の危険性のある有形力の行使であり、その認識・認容は認められるので、故意の「暴行」に当たる。
(2)傷害結果の発生
傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯を含むので、上記暴行行為により、Bに生じた打撲傷という「健康状態の不利益な変更」である「傷害」の結果が生じているので、甲がたとえこの結果を認識していなくとも、傷害罪が成立する。
(3)正当防衛の成否
しかし、BはAと共同して甲に対する急迫不正の侵害を行なおうとして甲に向かってきていると考えられるので、上記行為は自己を「防衛するため」に「やむを得ない行為」といえ、正当防衛が成立する。
【参考判例】①京都地判平成15・12・5交換物未登載
殺意の有無:「被告人車両は,Bが,ボンネット上に,その根元のワイパー取付部に手を入れてしがみついた状態で,少なくとも時速約60キロメートルで,約2分50秒の間,約2.5キロメートルの距離を走行したものである。走行していた道路は,舗装された片側二車線の国道で,深夜のため交通量が少なかったとはいえ,全く車の通行がなかったわけではない。被告人は,Bを振り落とそうとして,蛇行運転をしたり,急ブレーキをかけるなどしていたもので,同人が怪我をしないようになどと,運転方法に気を配るなどの配慮をしたことはない。
このような走行速度,走行時間,運転態様,Bの体勢等に照らせば,同人が,当時36歳の男性で,比較的体力があると考えられることや,現場の交通量の少なさ等を考慮しても,被告人の一連の運転行為は,これにより,Bが,ボンネット上から転落して相当の衝撃を受けることはもとより,被告人車両または後続車両や対向車両により轢過されるという事態に至り得ることも容易に予想されるところであって,Bの死亡という結果を招く危険性の極めて高い行為であったと認められる。被告人自身も,当時は無我夢中であったけれども,今から考えれば,危険な行為だと思うと述べており,これらの事実を認識しながら,敢えてBを振り落とそうとして,急ブレーキをかけたり蛇行運転をするなどしながら,約2.5キロメートルも走行したものであるから,同人を死亡させることについて,少なくとも未必の故意を有していたことは優に認められる。」
相当性の判断:「被告人は,これから逃れるため,Bをボンネット上に乗せたまま本件運転行為を開始し,同人の身の安全を全く省みることなく,むしろ,振り落とすべく,高速で蛇行運転し,急ブレーキをかけるなどしていたものであるところ,このような運転態様が,Bの生命の安全に対する危険を多分に含むものであることは既に述べたとおりであって,かかる被告人の運転行為が,Bから受ける可能性のあった侵害の程度と著しく均衡を失し,度を超したものであることは明らかである。また,被告人としては,より低速で走行し,車道上にBが転落することがないよう,急ブレーキや蛇行運転を控え,より安全な場所に走行して他人に助けを求めるなど,Bの生命身体等の安全にいささかでも配慮した行動が可能であったと認められることなどにも照らせば,被告人の本件運転行為は、自己の身体の安全を守るための防衛行為としては,やむを得ない程度を越えたものであったといわざるを得ない。」
②最決平成20・5・20刑集62巻6号1786頁:自招侵害
【参考文献】松原芳博『刑法総論」(第2版・2017年)
【解説】
1.問題となる行為
A:①最初の殴打行為、②車からの振り落とし行為
B:③車で車を発進させ、転倒させて打撲傷を与えた行為
・構成要件:①暴行罪(208)・③傷害罪(204)/自動車運転過失致傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5)*・②殺人未遂罪(199、203)/傷害罪
*自動車運転致死傷行為処罰法5条(過失運転致死傷)「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁銅又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」
・違法性:正当防衛
・責任:過剰防衛
2.暴行罪関連論点
*暴行概念:接触の要否
*暴行と傷害の関係:208条→204条
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは」という文言の意義
・暴行による傷害(結果的加重犯も含む)
・暴行によらない傷害:例:無言電話でPTSDを発症させる行為
3.殺意
*殺人罪と傷害致死罪:殺意の認定
4.正当防衛
*正当防衛/過剰防衛の限界
第36条(正当防衛)
①急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
②防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
*正当防衛と過剰防衛の限界:「やむを得ずにした」の意義
「相当性」:①緩やかな均衡性(松原165頁:相当性)、②必要最小限度性(松原164頁:必要性):但し退避義務はなし→行為基準説=事前判断説(井田)/結果基準説=事後判断説(松原168頁):私見=前説が妥当
*京都地判平成15・12・5交換物未登載
*自招侵害(松原170頁):最決平成20・5・20刑集62巻6号1786頁
要件:①原因行為としての不正な暴行、②原因行為と(相手方の)不正な侵害の時間的・場所的一連・一体性、③原因と不正の侵害との均衡
→本件では、まず甲の先行行為は正当防衛として適法であり、①を欠く。また、AがBの加勢を得て追尾してくることは、当初の暴行時には予期しえない反撃といえ、②または③を満たさないであろう。
5.過剰防衛(松原173頁以下)
・責任減少説(通説)
・違法減少説(町野)
・併用説(違法・責任減少説)
・重畳的併用説
・択一的併用説(松原174頁)
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イスタンブール条約
http://strafrecht.exblog.jp/26500987/
2017-03-14T15:41:00+09:00
2017-03-14T19:41:01+09:00
2017-03-14T15:41:10+09:00
strafrecht_bt
刑法Ⅱ(各論)
1.締約国は、故意に行なわれる次の行為が犯罪とされることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
a. 同意に基づかず、他の者の身体に対し、いずれかの身体部位または物をもって膣、肛門または口への性的性質の挿入行為を行なうこと。
b. 人に対し、同意に基づかない他の性的性質の行為を行なうこと。
c. 他の者をして、同意に基づかない性的性質の行為を第三者と行なわせること。
2.同意は、自由意思の結果として、自発的に与えられなければならない。当該自由意思は、関連する状況の文脈において評価される。
3.締約国は、1の規定が、国内法で認められた従前のまたは現在の配偶者またはパートナーに対して行なわれた行為にも適用されることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
関連論文:今井雅子「欧州評議会『イスタンブール条約』 (特集 女性差別撤廃委員会とジェンダーに基づく暴力)」国際女性 : 年報 (29), 84-88, 2015-12
Das reformierte Sexualstrafrecht –Ein Überblick über die vorgenommenen Änderungen
女性への暴力撲滅に尽力するEU女性に対する暴力は、伝統、宗教、政治的状況以外に、男女間での経済力の差、権利の違いを理由に起きる。EU では、ドメスティックバイオレンス(DV)、性的暴力、性的嫌がらせのほか、強制結婚、人身売買、性器切除、名誉関連の暴力も女性に対する暴力と定義付けている。被害を受けるのは当事者だけではない、その家族、友人、近親者、ひいては社会全体の発展を蝕むがゆえに、EUは女性に対する暴力撲滅に尽力してきた。© European Union, 1995-2016
2012年のEU指令では、性差に基づいた暴力、性的暴力、DV被害者の擁護と支援、被害者の最低限の権利を定めている。2014年に発効した欧州評議会の条約(イスタンブール条約)は、女性に対する暴力およびDVの予防と撲滅に関する協定で、女性に対する精神的暴力、ハラスメント、身体的暴力、性的暴力、性的嫌がらせに対する法的拘束力をもち、予防、被害者の擁護と加害者の告訴に関する最低限の基準を定めたものだ。また、2015年1月11日に発効したEU加盟国内における暴力の被害者保護では、EU加盟国内では、暴力の被害者はどこの国に移動しても同じレベルの庇護を受けることができるようになった。2014年、EU基本権機関(European Union Agency for Fundamental Rights、FRA)が4万2,000人の女性を対象としたアンケートの調査結果「Violence against women: an EU-wide survey」によると、15歳以上の女性のうち10人に1人は性的暴力、20人に1人はレイプの被害を受けたことがある。また5人に1人は身体的あるいは性的暴力を現在のパートナー、あるいは過去のパートナーから受けたことがあり、10人に1人は15歳以下のときに幼児愛(ペドフィリー)の被害に遭っている。しかし、現在のパートナーによる暴力を警察に届け出るのは、被害者のわずか14%。他人から受けた暴力を届け出るのも13%に留まっている。このように告訴する女性が少なく正確な統計をとることができないことが、女性に対する暴力の特徴の一つであるが、同時に、統計結果の短絡的な理解にも注意すべきである。たとえば、フィンランド、スウェーデン、デンマークでの女性に対する暴力件数は統計上多いが、男女平等が進んでいるがゆえに被害届けを出すことをためらわない女性の率が比較的多いことも考慮に入れるべきであろう。また、被害者が身を守るための司法システムに関する情報が市民の間に行き渡っていないことも、女性に対する暴力の特徴のひとつである。そのため、欧州委員会は「権利、平等、市民権2014年—2020年」というプログラムを立ち上げ、4億3,900万ユーロを拠出し、女性と女子に対する暴力に対する市民の意識を高めるためのキャンペーン、性器切除や名誉犯罪、強制結婚に対する予防運動をしている。
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