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カテゴリ:刑法演習( 23 )


2017年 04月 09日

最判平成11・10・26民集53巻7号1313頁 

平成11年10月26日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
裁判種別  判決
民集53巻7号1313頁
[判示事項]  名誉毀損の行為者が刑事第一審の判決を資料として事実を適示した場合と右事実を真実と信ずるについての相当の理由
[裁判要旨]  名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
参照法条  民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項

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by strafrecht_bt | 2017-04-09 13:32 | 刑法演習
2017年 04月 08日

最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁

最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁
【判示事項】  
一 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損において行為者が右事実を真実と信ずるにつき相当の理由がある場合の不法行為の成否
二 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別
三 特定の者について新聞報道等により犯罪の嫌疑の存在が広く知れ渡っていたこととその者が当該犯罪を行ったと公表した者において右のように信ずるについての相当の理由
【裁判要旨】
 一 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあって、表明に係る内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない場合に、行為者において右意見等の前提としている事実の重要な部分を真実と信ずるにつき相当の理由があるときは、その故意又は過失は否定される。
二 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事が、意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合にも、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や記事の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは、右記事は、右事項についての事実の摘示を含むものというべきである。
三 特定の者が犯罪を犯したとの嫌疑が新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない。
【参照法条】  民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項


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by strafrecht_bt | 2017-04-08 14:45 | 刑法演習
2017年 04月 04日

判決文と答案

判決

「主文」  被告人を懲役4年6月に処する。

未決勾留日数のうち120日をその刑に算入する。

「理由」

(罪となるべき事実)

被告人は,Aと共謀の上,

第1〔平成29年1月18日付け起訴状記載の公訴事実第1〕

平成27年6月21日頃,愛知県田原市a町bc番地B駐車場において,同所に駐車中のC所有の普通乗用自動車1台(時価約2万円相当)を「窃取」した。

第2〔平成28年11月2日付け起訴状記載の公訴事実〕

平成27年12月31日頃,愛知県新城市d字ef番g所在の廃屋において,D(当時71歳)の死体を同所トイレ便槽内に運び入れ,同死体に木片等をかぶせて覆い隠し,もって死体を「遺棄」した。

第3〔平成28年12月21日付け起訴状記載の公訴事実〕

別表記載のとおり,平成28年1月5日午後零時2分頃から同年3月8日午前10時31分頃までの間,前後9回にわたり,愛知県豊橋市h町字ij番地kEF店ほか6か所において,各所に設置された現金自動預払機に,不正に入手したG信用金庫H支店発行のD名義のキャッシュカード1枚を挿入して同機を作動させ,株式会社I銀行お客さまサービス部長Jほか5名管理の現金合計17万6000円を引き出して「窃取」した。

第4〔平成29年1月18日付け起訴状記載の公訴事実第2〕

平成28年3月10日頃,愛知県豊川市l町mn番地o株式会社K駐車場において,同所に駐車中のL管理の普通貨物自動車1台(時価約60万円相当)を「窃取」した。

第5〔平成28年9月9日付け起訴状記載の公訴事実第1〕

平成28年7月20日午後5時38分頃,愛知県田原市p町qr番地Mにおいて,同所に設置されたさい銭箱等からN会会長O管理の現金約200円を窃取した。

第6〔平成28年9月30日付け起訴状記載の公訴事実〕

平成28年7月23日頃,愛知県田原市s町tu番地v株式会社Pクラブハウス従業員通用口前付近において,同所に駐車中の同社取締役社長Q管理の普通貨物自動車1台(時価約20万円相当)を「窃取」した。

第7〔平成28年9月9日付け起訴状記載の公訴事実第2〕

平成28年7月30日午後8時59分頃,愛知県田原市p町qr番地Mにおいて,同所に設置されたさい銭箱を手で持ち上げてひっくり返すなどし,同さい銭箱内から前記O管理の現金を「窃取」しようとしたが,現金が入っていなかったため,その目的を遂げなかった。

(法令の適用)

1 罰条

(1) 判示第1,第4ないし第6の各行為

いずれも刑法235条,60条

(2) 判示第2の行為

刑法190条,60条

(3) 判示第3の各行為

いずれも刑法235条,60条

(4) 判示第7の行為

刑法243条,235条,60条

2 刑種の選択

判示第1,第3ないし第7の各行為につき,いずれも懲役刑を選択

3 併合罪

刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)

4 未決勾留日数の算入

刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

1 事案の概要【以下略】



答案例
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by strafrecht_bt | 2017-04-04 18:10 | 刑法演習
2017年 03月 27日

科目別事前ガイダンス:刑法演習(2)

【問題】以下の事例に基づき、甲の罪責について、具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
(問題文略ーテキスト参照)
【解答例】第1 ベンチに置かれたAの財布を持ち去った行為
 【結論】甲には、以下のように、占有離脱物横領罪と窃盗未遂罪が成立する(罪数関係は後述)。
 1.客観的構成要件該当性:窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)との区別-占有の有無
(1)甲は、客観的にはA所有の「財物」である財布を領得しているが、Aになお占有が残っていたがどうかにより窃盗罪(235条)と占有離脱物横領罪(254条)の区別が問題となる。
(2)占有の有無の判断基準  
 ア 窃盗罪に「占有」とは財物に対する事実上の支配をいい、物の支配態様は多様であることから、占有の事実と占有の意思に照らして、社会通念に従って決するほかないが、具体的には、①財物自体の特性、②場所的状況、③時間的場所的間隔等から考えることになり、占有の意思は補充的に考慮する。特に、③については、置き忘れに気付いた時点や、取りに戻った時点ではなく、領得行為時が基準となる
 イ 本件では、②財布という遺失しやすい小物であること、②スーパーマーケット内のベンチという誰でも立ち入れる場所であること、③領得行為時との時間的間隔が2分程度しかなく、極めて近接した時点で領得行為がなされているが、場所的にみると、この時点ではすでにAは6階のベンチから地下1階まで移動しており、置き忘れに気づきさえすれば直ちに取り戻すことが可能な状態にあったとは言えないことから見て、Aの占有は否定される。
(2)占有の移転
置き忘れがあった場合でも、なお当該場所の管理権や場所的状況に照らして占有が他者に認められることがあり、Bの管理者やDに占有の移転があったどうかが問題となる。
ア スーパーマーケットBの現場管理者の占有
この場合、B店内は、誰でも立入れる場所であり、遺失物に対する特別の管理措置が取られていたということをうかがわせる事情もないので、Bへの占有移転は否定される。
イ D子の占有
 Dは、現場で見ていただけで、一度も財布の占有を確保しておらず、排他的支配を及ぼしたとは言えない以上、Dへの占有移転も否定される。
(3)従って、甲の行為は、客観的には窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪の構成要件に該当する。
2.主観的構成要件該当性:抽象的事実の錯誤
(1)窃盗の故意
 甲は本件財布がCのものと誤信しているが、そうであればCの占有が及んでいる物を取得する認識があるため、窃盗罪の故意が認められる
(2)抽象的事実の錯誤
 ア 主観的には窃盗罪の認識で、客観的に占有離脱物横領罪の結果を生ぜしめた場合、客観面に符合する故意を認めることができるのかが問題になる。実質的な符合は、両罪の①行為態様及び②保護法益の類似性を考慮して判断される。
 イ 両罪は、①行為態様では、他者に財物を不法に取得する点で共通し、②保護法益では、占有と所有権で異なるとも思えるが、窃盗罪が占有を保護しているのは、究極的には本権を保護するためであるから、共通性を肯定でき、軽い占有離脱物横領の範囲で実質的な重なり合いを認めることができる。
(3)主観面に対応する犯罪(窃盗未遂罪)の成否-実行の着手
 ア 法益侵害の危険性の有無で判断するが、その判断は行為時に一般人が認識しえた事情+行為者が認識していた客観的事情を基礎に、一般人の観点から行う(具体的危険説)。
 イ 本件のような場合には、D子のようにずっと観察していた場合はともかく、その場に居合わせた一般人からは、Cに占有があるかのごとく見えるので、具体的危険性が肯定され、窃盗未遂罪も成立する。
第2 A名義のクレジットカードを呈示して、売上伝票にAと署名し商品を購入した行為(他人名義のクレジッドカードの不正使用)
【結論】甲には、以下のように、詐欺罪(246条1項)並びに私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条)が成立する(罪数関係は後述)。
1.詐欺罪の成否
 甲は、あたかもAであるかのように偽って(欺罔行為)、クレジットカード取引において名義人以外の者との取引を禁じられている加盟店を錯誤に陥れ、当該錯誤に基づいて財物を交付している点で、個別財産の損失があるほか、規約に反した取引を行えば立替払いを受けられないリスクがあり、この点で、真正名義人と取引を行うという被害者の達成できなかった目的は経済的に評価して実質的損害を肯定することができる。したがって、加盟店に対する、商品を客体とした、1項詐欺罪が成立する。
2.売上伝票への記載・交付
甲は、「行使の目的で」、他人であるAの署名を使用して「権利、義務若しくは事実証明に関する文書」である売上伝票を偽造(作成名義を冒用)し、それを交付し「行使」しているのので、私文書偽造罪及び同行使罪が成立する。
第3 罪数関係
【結論】甲には、以下のように、①窃盗未遂罪、②私文書偽造罪、③同行使罪及び④詐欺罪が成立し、②③④は牽連犯(54条1項後段)となり、それらと①は併合罪(45条)となる。
1 上記第1の行為については、①占有離脱物横領罪と②窃盗未遂罪が成立するが、①はより重い②に吸収される(包括一罪)。
2 上記第2の行為については、①私文書偽造罪と②同行使罪が牽連犯となり、これらが③詐欺罪と牽連犯となる。


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by strafrecht_bt | 2017-03-27 19:15 | 刑法演習
2017年 03月 23日

科目別事前ガイダンス:刑法演習(1)

【第1問】以下の事例に基づき甲の罪責について、具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。但し「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」5条[過失運転致死傷]の罪は含む。)。(70分)
(問題文略ーテキスト参照)
【解答例】第1 Aに対する罪責
1 Aの顔面を手拳で軽く1回殴打した行為
【結論】甲は、以下に述べるように、暴行罪(刑法[以下略]208条)の構成要件に該当するが、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されるので処罰されない。
(1)暴行罪の構成要件該当性
 上記行為は、Aの身体に向けられた有形力の行使である「暴行」にあたり、暴行罪の構成要件に該当する。
(2)正当防衛の成否:特に「やむを得ずにした行為」の要件
 しかし、それはAが甲の車の窓から手を入れてきて、甲の胸ぐらを掴もうとした暴行(「急迫不正の侵害」)に対して、「自己を防衛するため」の行為であり、酔っ払った36歳の男性であるAの執拗な攻撃を避けるためには、顔面を手拳で軽く1回殴打した程度であれば、防衛手段として必要最小限であるといえるので、「やむを得ずにした」ものと評価できよう。
2 ボンネット上のAを振り落とし、加療2週間を要する傷害を負わせた行為
【結論】甲には、以下に述べるように、殺人未遂罪(199条、203条)が成立するが、過剰防衛(36条2項)となり任意的に減免されうる。
(1)殺人罪の構成要件該当性
 ア.殺人罪の実行行為性は、生命侵害の現実的危険性がある場合に認められるが、高速度で走行する車から転落すれば相当の衝撃を受け、頭部などの急所を強打すれば死亡する危険性が高いことや、仮に転落の衝撃により死亡しなくとも、車道上に転落すれば他の車に轢かれ、なお死亡する危険性があることに照らせば、肯定できる。
 イ.故意(殺意)
 甲は当然上記①の事実を認識していたと考えられるにもかかわらず、Aを振り落とすべく、時速70キロの高速度で、急ブレーキや蛇行運転を繰り返す等、Aの生命に特段配慮した走行を行っていたとはいえないことからすれば、死んでも構わないと考えていたものと言え、未必的な故意を認めることができる。
(2)正当防衛・過剰防衛の成否
 ア.Aは上記1における行為後もなお甲に対する攻撃意思を持ってボンネットに乗った他者であり、「急迫不正の侵害」はなお継続していると言え、問題文からは甲が積極的加害意思と持っているという事情はうかがわれれず、振り落とし行為はもっぱら「防衛のため」に行われたものと言える。
 イ.なお、この侵害は、甲の上記1の行為による自招侵害ではないかが問題となるが、1で述べたようにその行為は正当防衛によるものなので、全体として一連の違法行為となるわけではなく、正当防衛権はそれによって制限されない。
 ウ.しかし、この行為は、高速度で振り落とさずとも、代替手段として、低速度での運転が可能であり、車道上にBが転落することがないよう,急ブレーキや蛇行運転を控え,より安全な場所に走行して他人に助けを求めるなど,Bの生命身体等の安全にいささかでも配慮した行動が可能であったと認められることからみて、防衛手段としての最小限度性を欠き「やむを得ずにした行為」の程度を超えたものとして、「過剰防衛」となり、違法性は阻却されず、殺人未遂罪が成立するが、過剰防衛による責任減少が認められ、任意的減免が可能となる。

第2 Bに対する罪責:自己の乗車する車を発進させ、Bを転倒させ、打撲傷を与えた行為
【結論】Bに対しては、以下に述べるように、傷害罪(204条)の構成要件に該当するが、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されるので処罰されない。
1 傷害罪(204条)の成否
 (1)暴行罪(208条)の成否
 まず上記行為は、Bの身体に直接接触はしていないが、身体的接触が無い場合でも、傷害の危険性のある有形力の行使であり、その認識・認容は認められるので、故意の「暴行」に当たる。
 (2)傷害結果の発生
 傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯を含むので、上記暴行行為により、Bに生じた打撲傷という「健康状態の不利益な変更」である「傷害」の結果が生じているので、甲がたとえこの結果を認識していなくとも、傷害罪が成立する。
 (3)正当防衛の成否
 しかし、BはAと共同して甲に対する急迫不正の侵害を行なおうとして甲に向かってきていると考えられるので、上記行為は自己を「防衛するため」に「やむを得ない行為」といえ、正当防衛が成立する。



【解説】
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by strafrecht_bt | 2017-03-23 21:12 | 刑法演習
2016年 06月 09日

刑法演習2(8)(9)(10)

しばらくブログを書くのを怠っていたが、今回まとめて書いておく。(8)では窃盗と詐欺の区別等
にかんする 「キング・オブ・アフリカ」『刑法事例演習教材』18問、(9)では盗品関与罪の諸問題と不法原因給付と横領罪等にかんする 「一石三鳥」『刑法事例演習教材』36問、今日の(10)ではクレジットカードの不正使用等に関する 「JBC48」『刑法事例演習教材』43問を取り扱った。今日の授業では、補充として窃盗罪/電子計算機使用詐欺罪/詐欺罪の客体と公文書偽造/私文書偽造罪/電磁的記録不正作出罪と有形偽造/無形偽造の関係を表にして説明し、立法的問題点も指摘した。次回は文書の不正取得・振り込め詐欺等に関する 「母さん、僕だよ」『刑法事例演習教材』47問をやることにした。

授業日程
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by strafrecht_bt | 2016-06-09 14:50 | 刑法演習
2016年 05月 19日

刑法演習2(7)

今日は、今年の司法試験の論文問題が発表されたので、学生の希望で、その問題の解説に予定を変更した。これまで授業で取り上げた共犯関係からの離脱、強盗罪の承継的共同正犯、暗証番号の聞き出しと2項強盗罪などを組み合わせた問題が出たので受講生は驚いていた(短答では同時傷害の特則もでた)。学生の意見では、甲の離脱は認めず、丙には強盗の承継的共同正犯を認めたいとのことであったが、その結論を判例の立場で整合的に説明できるかどうか疑問ではないだろうか。
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by strafrecht_bt | 2016-05-19 13:13 | 刑法演習
2016年 05月 14日

刑法演習2(5)(6)

今週は振替授業で木曜と土曜の2回も授業があった。刑法演習は一応演習問題に答案をあらかじめ書いてくるか、少なくとも答案構成を書いてきて、授業後に答案化するように指導しているので、2日しか開いていないと、予習と復習を両方する時間がなかったというので、結局木曜日に検討した事例問題(「夜の帝王」『刑法事例演習』45問)の検討と、法学セミナーの今月号に掲載された207条の最高裁決定の評釈を検討するのに2回分を使ってしまった。本来予定した事例問題(「キング・オブ・アフリカ」『刑法事例演習』18問)は来週回しになってしまった。来週からは1回に2問づつやることにしてかならず、問題構成をLMSに事前提出するように指示した。
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by strafrecht_bt | 2016-05-14 19:03 | 刑法演習
2016年 04月 28日

刑法演習2(4)

承継的共同正犯について傷害には否定されるとしても、強盗や詐欺などにも適用される余地はないかを検討した。これに関して山口教授の新しい論文を受講者の法科大学院生と一緒に読んで検討した。そこでは暴行については無理だが、脅迫や欺罔については先行行為者の不作為の脅迫や欺罔が継続していると考える余地があり後行者は先行者と共謀があった場合には強盗や詐欺の共同正犯とする余地があるとする見解が主張されているが、その当否について受講者に聞いてみたところ、そのような見解によれば、脅迫により意思を抑圧したのちに中止した場合にその脅迫を解消する義務があるとするとそれをやめる義務にしたがってやめたことになるので任意の中止とは言えなくなるのではないかと問題点の指摘があった。また相手方を暴行により気絶させてしまえば、後行者はその後の行為に関与しても窃盗にしかならないので、暴行の場合と脅迫の場合で結論が異なるのは不均衡だとの異議があった。ついで今年の重判に先日やった最決の原審判決がのっており、そこで引用されていた研修の評釈でより詳しい事実関係が分かったのでそれも紹介した。
【事案の概要】
1 本判決が原判決(名古屋地裁平成26年9月19日,公刊物未登載)の説示するところに若干の補足をしつつ認定した本件の事実関係は.以下のとおりである。
(1)被告人A及び同Bは.本件ビル4階にあるバーXの従業員であり.本件当時同店内で接客等の仕事をしていた。被告人CはかねてXに客として来店したことがあり,本件当日は.被告人Bの誘いを受けXで客として飲食していた。
(2) Vは.本件当日午前4時30分頃,女性2名とともにXを訪れていた客であったが,飲食代金の支払いの際クレジットカードでの決済が思うようにできず.同日午前6時50分頃までの間に. 3回に分けて一部の支払手続をしたが.残額の決済ができなかった。
(3) Vは,そのうちいらだった様子になり,残額の支払いについて話がつかないまま,店の外に出た。被告人A及び同Bは.Vの後を追って店外に出,本件ビル4階エレベーターホールでVに追い付き,同日午前6時50分頃から午前7時10分頃までの間に,被告人AがVの背部を蹴って,3階に至る途中にある階段踊り場付近に転落させ,さらに4階エレベーターホールに連れ戻した上,被告人Bが同ホールにあったスタンド式灰皿にVの頭部を打ち付け,被告人Aが. Vの顔面を拳や灰皿の蓋で殴り、顔面あるいは頭部をつかんで床に打ち付けるなどし.被告人BもVを蹴り、馬乗りになって殴るなどする暴行を加えた(第1暴行)。
(4)午前7時4分頃,被告人Cは.4階エレベーターホールに現れ,Xの従業員Hが被告人A及び同Bを制止しようとしている様子を見ていたが" Hと被告人AがVのそばを離れた直後床に倒れているVの背部付近を1回踏み付け.さらに被告人Bに制止されていったん店内に戻った後も.再度4階エレベーターホールに現れ.被告人A及び同BがVに膝蹴りをし背中を蹴るなどする様子を眺めた後,午前7時15分頃倒れている状態のVの背中を1回蹴る暴行を加えた(原判決は,被告人Cによるこれらの暴行を「中間の暴行」 と呼称する)。(鷦鷯11頁注2によれば本判決は「それ自体は, Vの急性硬膜下血腫の発生等の原因となり得るものではなかったようにうかがえる」としている。)
(5)被告人Aは. Vから運転免許証を取り上げI X店内にVを連れ戻し. Vに飲食代金を支払う旨の示談書に氏名を自書させ. Vの運転免許証のコピーを取った。その後被告人A及び同Bは.それぞれXで仕事を続け.被告人Cも同店内でそのまま飲食を続けた。
(6) Vは.しばらく店内の出入口付近の床に座り込んでいたが.午前7時49分頃突然走って店外に出たため, Hがこれを追い掛けて3階に至る階段の途中で追い付き.取り押さえた。被告人Cは午前7時50分頃電話をするために4階エレベーターホールに行った際Hが逃走しようとするVを追い掛けているのを知り. HがVを取り押さえている現場に行った。被告人Cは.その後の午前7時54分頃までにかけて, Vの頭部顔面を多数回にわたって蹴り付けるなどの暴行を加えた(第2暴行)。
(7)午前7時54分頃通報を受けた警察官が臨場したところ, Vは大きないびきをかき,まぶたや瞳孔に動きがなく,呼びかけても応答がない状態で倒れていた。Vは,午前8時44分頃病院に救急搬送され,開頭手術を施行されたが,翌日午前3時54分頃急性硬膜下血腫に基づく急性脳腫脹のため死亡した。
【決定要旨】「2(1) 第1審判決は,仮に第1暴行で既に被害者の急性硬膜下血腫の傷害が発生していたとしても,第2暴行は,同傷害を更に悪化させたと推認できるから,いずれにしても,被害者の死亡との間に因果関係が認められることとなり,「死亡させた結果について,責任を負うべき者がいなくなる不都合を回避するための特例である同時傷害致死罪の規定(刑法207条)を適用する前提が欠けることになる」と説示して,本件で,同条を適用することはできないとした。
(2) しかし,同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないというべきである。
そして,共犯関係にない二人以上による暴行によって傷害が生じ更に同傷害から死亡の結果が発生したという傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる前記の事実関係が証明された場合には,各行為者は,同条により,自己の関与した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害について責任を負い,更に同傷害を原因として発生した死亡の結果についても責任を負うというべきである(最高裁昭和26年(れ)第797号同年9月20日第一小法廷判決・刑集5巻10号1937頁参照)。このような事実関係が証明された場合においては,本件のようにいずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,別異に解すべき理由はなく,同条の適用は妨げられないというべきである。
以上と同旨の判断を示した上,第1暴行と第2暴行の機会の同一性に関して,その意義等についての適切な理解の下で更なる審理評議を尽くすことを求めて第1審判決を破棄し,事件を第1審に差し戻した原判決は相当である。 」

公訴事実・一審・控訴審判決
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by strafrecht_bt | 2016-04-28 11:35 | 刑法演習
2016年 04月 21日

刑法演習2(3)

今回はこれまでの復習で傷害罪全体のまとめとして傷害罪の承継的共同正犯、同時傷害の特則、昨年度にやった胎児性致死傷の問題を取り上げ、また同時傷害の特則については憲法・刑事訴訟法の問題についても少し詳しく議論し、関連問題として刑法230条の2についても説明した。次に財産犯の問題に入り、承継的共同正犯は、強盗罪や詐欺罪などでも問題になることを説明し、具体的な事例として『事例から刑法を考える』⓪問(小林)を小テストして実際に書かせてみたところで時間が来たので、次回はその解説と、昨年度の二項強盗に関する問題の事例として「夜の帝王」『刑法事例演習教材』46問を課題として出しておいた。なお前記承継的共同正犯に関する問題を予習してきた学生が『事例から考える刑法』2頁には基礎的な簡単な問題だと書いてあるが、結構難しかったと言っていた。
*地位の取得と2項犯罪
1)債権者の殺害 ①取得の確実性→〇
        (②不確実   →×)
2)被相続人の殺害:処分行為×? →×
3)経営者の殺害:不確実     →×
4)キャッシュカード+暗証番号 →〇
*これも①②に分けるべきでは?(その際口座に残金がなかった場合はどうか)
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by strafrecht_bt | 2016-04-21 15:55 | 刑法演習