刑法授業補充ブログ

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2016年 04月 28日

刑法演習2(4)

承継的共同正犯について傷害には否定されるとしても、強盗や詐欺などにも適用される余地はないかを検討した。これに関して山口教授の新しい論文を受講者の法科大学院生と一緒に読んで検討した。そこでは暴行については無理だが、脅迫や欺罔については先行行為者の不作為の脅迫や欺罔が継続していると考える余地があり後行者は先行者と共謀があった場合には強盗や詐欺の共同正犯とする余地があるとする見解が主張されているが、その当否について受講者に聞いてみたところ、そのような見解によれば、脅迫により意思を抑圧したのちに中止した場合にその脅迫を解消する義務があるとするとそれをやめる義務にしたがってやめたことになるので任意の中止とは言えなくなるのではないかと問題点の指摘があった。また相手方を暴行により気絶させてしまえば、後行者はその後の行為に関与しても窃盗にしかならないので、暴行の場合と脅迫の場合で結論が異なるのは不均衡だとの異議があった。ついで今年の重判に先日やった最決の原審判決がのっており、そこで引用されていた研修の評釈でより詳しい事実関係が分かったのでそれも紹介した。
【事案の概要】
1 本判決が原判決(名古屋地裁平成26年9月19日,公刊物未登載)の説示するところに若干の補足をしつつ認定した本件の事実関係は.以下のとおりである。
(1)被告人A及び同Bは.本件ビル4階にあるバーXの従業員であり.本件当時同店内で接客等の仕事をしていた。被告人CはかねてXに客として来店したことがあり,本件当日は.被告人Bの誘いを受けXで客として飲食していた。
(2) Vは.本件当日午前4時30分頃,女性2名とともにXを訪れていた客であったが,飲食代金の支払いの際クレジットカードでの決済が思うようにできず.同日午前6時50分頃までの間に. 3回に分けて一部の支払手続をしたが.残額の決済ができなかった。
(3) Vは,そのうちいらだった様子になり,残額の支払いについて話がつかないまま,店の外に出た。被告人A及び同Bは.Vの後を追って店外に出,本件ビル4階エレベーターホールでVに追い付き,同日午前6時50分頃から午前7時10分頃までの間に,被告人AがVの背部を蹴って,3階に至る途中にある階段踊り場付近に転落させ,さらに4階エレベーターホールに連れ戻した上,被告人Bが同ホールにあったスタンド式灰皿にVの頭部を打ち付け,被告人Aが. Vの顔面を拳や灰皿の蓋で殴り、顔面あるいは頭部をつかんで床に打ち付けるなどし.被告人BもVを蹴り、馬乗りになって殴るなどする暴行を加えた(第1暴行)。
(4)午前7時4分頃,被告人Cは.4階エレベーターホールに現れ,Xの従業員Hが被告人A及び同Bを制止しようとしている様子を見ていたが" Hと被告人AがVのそばを離れた直後床に倒れているVの背部付近を1回踏み付け.さらに被告人Bに制止されていったん店内に戻った後も.再度4階エレベーターホールに現れ.被告人A及び同BがVに膝蹴りをし背中を蹴るなどする様子を眺めた後,午前7時15分頃倒れている状態のVの背中を1回蹴る暴行を加えた(原判決は,被告人Cによるこれらの暴行を「中間の暴行」 と呼称する)。(鷦鷯11頁注2によれば本判決は「それ自体は, Vの急性硬膜下血腫の発生等の原因となり得るものではなかったようにうかがえる」としている。)
(5)被告人Aは. Vから運転免許証を取り上げI X店内にVを連れ戻し. Vに飲食代金を支払う旨の示談書に氏名を自書させ. Vの運転免許証のコピーを取った。その後被告人A及び同Bは.それぞれXで仕事を続け.被告人Cも同店内でそのまま飲食を続けた。
(6) Vは.しばらく店内の出入口付近の床に座り込んでいたが.午前7時49分頃突然走って店外に出たため, Hがこれを追い掛けて3階に至る階段の途中で追い付き.取り押さえた。被告人Cは午前7時50分頃電話をするために4階エレベーターホールに行った際Hが逃走しようとするVを追い掛けているのを知り. HがVを取り押さえている現場に行った。被告人Cは.その後の午前7時54分頃までにかけて, Vの頭部顔面を多数回にわたって蹴り付けるなどの暴行を加えた(第2暴行)。
(7)午前7時54分頃通報を受けた警察官が臨場したところ, Vは大きないびきをかき,まぶたや瞳孔に動きがなく,呼びかけても応答がない状態で倒れていた。Vは,午前8時44分頃病院に救急搬送され,開頭手術を施行されたが,翌日午前3時54分頃急性硬膜下血腫に基づく急性脳腫脹のため死亡した。
【決定要旨】「2(1) 第1審判決は,仮に第1暴行で既に被害者の急性硬膜下血腫の傷害が発生していたとしても,第2暴行は,同傷害を更に悪化させたと推認できるから,いずれにしても,被害者の死亡との間に因果関係が認められることとなり,「死亡させた結果について,責任を負うべき者がいなくなる不都合を回避するための特例である同時傷害致死罪の規定(刑法207条)を適用する前提が欠けることになる」と説示して,本件で,同条を適用することはできないとした。
(2) しかし,同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないというべきである。
そして,共犯関係にない二人以上による暴行によって傷害が生じ更に同傷害から死亡の結果が発生したという傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる前記の事実関係が証明された場合には,各行為者は,同条により,自己の関与した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害について責任を負い,更に同傷害を原因として発生した死亡の結果についても責任を負うというべきである(最高裁昭和26年(れ)第797号同年9月20日第一小法廷判決・刑集5巻10号1937頁参照)。このような事実関係が証明された場合においては,本件のようにいずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,別異に解すべき理由はなく,同条の適用は妨げられないというべきである。
以上と同旨の判断を示した上,第1暴行と第2暴行の機会の同一性に関して,その意義等についての適切な理解の下で更なる審理評議を尽くすことを求めて第1審判決を破棄し,事件を第1審に差し戻した原判決は相当である。 」

公訴事実・一審・控訴審判決
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by strafrecht_bt | 2016-04-28 11:35 | 刑法演習
2016年 04月 26日

刑法1(刑法総論)第4回講義:因果関係

今回は因果関係を中心に説明したが,前回の法人処罰問題に関連して講義の最初に新聞記事を配布して、「業務上過失致死罪の法人処罰に関する法律(素案)」の制定の是非について議論してみた。その実効性について疑問であるとする意見があった。そのあとで結果の意義について説明し、結果的加重犯の問題点について判例の立場(過失不要説)を議論したが、(既修者の授業でで聞くとほとんどが判例に賛成するのに対して)責任主義に反するので少なくとも過失が必要ではないかという意見が多かった。その後因果関係の判例の流れについて説明し「危険の現実化」基準とその問題点について説明した。講義後、「誘発」の意義や、被害者が医師の指示にしたがわなったという事例で因果関係を認めた判例の妥当性について質問があった。後者の事例については医師も「順調に経過すれば」退院できるという見込みをしめしていることなどを考慮して被告人に有利に認定すれば、被害者の不適切な行為による危殆化があったとみる余地があると思うと答えた。
→前年度の講義

補充と私見
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by strafrecht_bt | 2016-04-26 17:22 | 刑法Ⅰ(総論)
2016年 04月 25日

刑法各論(財産犯)第3回講義:器物損壊罪・窃盗罪(1)

今日は前回の最後に挙げた受精卵の損壊と窃取の事例について議論し、財物の概念の説明を終え、続いて財産上の利益について具体的事例を挙げて説明した。そして今年は毀棄罪を先に説明することにして、毀棄罪の類型を示して建造物損壊罪(260条)、器物損壊罪(261条)を中心にして損壊概念を解説し、特に建造物(公衆トイレ)の落書き事例(最決平成18・1・17、山口・刑法361頁参照)について効用喪失説に基づいても美観が効用に含まれるかどうかは問題で、処罰のためにはドイツ刑法のように特別の規定が必要となるのではないかという見解を示した。また領得罪と毀棄罪の区別問題との関連にも言及した。そのあとで最決昭和61・7・18(山口・刑法285頁注17、288、360頁参照)を例に建造物の「他人性」の意義、民法と刑法の関係について解説した。学部1回生には難しいかもしれないと思ったが講義後、行為時にはまだ詐欺取り消しがなされていなかったのだから、民法上の所有権概念を基準としても他人性を認めてもいいのではないかという鋭い質問があった。以上で毀棄罪の説明を終え、窃盗罪の説明に移り、導入として窃盗罪の保護法益にかかわる窃取されたもの取返し事例をいくつかあげたところで、時間となった。
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by strafrecht_bt | 2016-04-25 17:28 | 刑法Ⅱ(各論)
2016年 04月 21日

刑法演習2(3)

今回はこれまでの復習で傷害罪全体のまとめとして傷害罪の承継的共同正犯、同時傷害の特則、昨年度にやった胎児性致死傷の問題を取り上げ、また同時傷害の特則については憲法・刑事訴訟法の問題についても少し詳しく議論し、関連問題として刑法230条の2についても説明した。次に財産犯の問題に入り、承継的共同正犯は、強盗罪や詐欺罪などでも問題になることを説明し、具体的な事例として『事例から刑法を考える』⓪問(小林)を小テストして実際に書かせてみたところで時間が来たので、次回はその解説と、昨年度の二項強盗に関する問題の事例として「夜の帝王」『刑法事例演習教材』46問を課題として出しておいた。なお前記承継的共同正犯に関する問題を予習してきた学生が『事例から考える刑法』2頁には基礎的な簡単な問題だと書いてあるが、結構難しかったと言っていた。
*地位の取得と2項犯罪
1)債権者の殺害 ①取得の確実性→〇
        (②不確実   →×)
2)被相続人の殺害:処分行為×? →×
3)経営者の殺害:不確実     →×
4)キャッシュカード+暗証番号 →〇
*これも①②に分けるべきでは?(その際口座に残金がなかった場合はどうか)
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by strafrecht_bt | 2016-04-21 15:55 | 刑法演習
2016年 04月 19日

刑法1(刑法総論)第3回講義:犯罪の主体・実行行為(特に間接正犯)

今日も体調はいまいちだったが、何とか前回の罪刑法定主義の復習をふまえて間接正犯の説明までを終えるできた。まず、刑法基本原則では前回説明した①罪刑法定主義以外に②責任主義と法益保護主義(山口)があげられているが、③については、現在では倫理(道徳)の保護を正面から刑法の原則に掲げるものはないが、刑法の目的は規範妥当の保護であるという主張もあり、法益保護だけで現行法をすべて説明できるかという問題があり、それを基本原則として採用するかどうかについては留保した。それに対して②は基本原則であり、運命責任(エディプス王の事例など)、結果責任、無過失責任は刑法では排除されることを説明し、法人の刑事責任についても無過失責任説はこの原則に反するものであるが、判例の過失推定説にも問題があることを指摘した。次に刑法における犯罪の概念について通説の「①構成要件に該当し②違法で、③責任のある(有責な)行為」という定義を具体的な事例を挙げて説明し、その際間接正犯のところでも出てくるので刑事未成年制度(刑法41条)について説明した。構成要件概念については、後の講義の順序との関係で、故意・過失の位置づけについて議論し、山口説のように故意・過失を専ら責任に位置付け、199条と210条に共通の構成要件を想定する見解の是非について意見を求めたところ、構成要件段階で故意犯と過失犯を分けるべきだとする意見がほとんどであった。その後、犯罪の主体と客体としての「者」「人」の意義についてそれに法人が含まれるかどうかについて英米(「フォード・ピント事件」)や最近の大陸法(フランス・ドイツ)における状況を含め説明し、日本の両罰規定について公害罪法4条の規定を例として説明した。水俣病や原発事故などの例を挙げ、法人を直接処罰したほうが良いのではないかという問題提起をしたが、あまり積極的な意見は見られなかった。その後実行行為の説明に移り、(以前は共犯のところで説明していた)今回は間接正犯の説明をコアカリキュラムや山口・刑法の記述の順序にしたがいここで説明したところで時間となった。講義後、判例では道具理論がとられているが、その基準を「意思を抑圧するなどして介在者を完全に支配している場合」に間接正犯を認めると書いてもよいかという質問があったので、確かに意思の抑圧事例では「支配」してといえるが、その他の事例、例えばコントロールドデリバリーの事例などで事情を知っている介在者などは完全に支配されているのでは言えないのではないかと思われるので、そのような場合にも間接正犯を認めるのであれば、「支配」という表現は使わないほうが良いのではないかと答えた。
前年度の講義

私見
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by strafrecht_bt | 2016-04-19 12:19 | 刑法Ⅰ(総論)
2016年 04月 18日

刑法各論(財産犯)第2回講義:財産犯総論

今日は前回出した電気窃盗と情報窃盗の事例を学生にあてて議論し、罪刑法定主義を復習した後、財産犯の体系について図をつかって説く明し、具体例を出しながら各類型を説明した。個別財産に対する罪では、机の上に置いてある本を無断で持って行ったが、相当対価を置いて行ったという事例と、いわゆるつめ「専断的」両替の事例を学生に聞いてみたが、ともに窃盗罪が成立するとの回答があったので、後者については実質的に相手方の財産的権利を侵害しているかどうか問題があることを指摘しておいた。そして次に客体による区別では刑法246条の2の特殊性を具体的事例を挙げて説明したあと、財物と財産的利益の意義を説明し、財物概念で先にあげた有体性以外の要件を説明し、人間の受精卵の財物性を学生に具体例を挙げて聞いている途中で時間が来たので、その事例を宿題として講義を終えた。
次回は器物損壊罪と窃盗罪(1)を扱う予定である。

財産犯の認知件数
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by strafrecht_bt | 2016-04-18 13:01 | 刑法Ⅱ(各論)
2016年 04月 16日

「奪取罪」の概念について

短答2015〔第10問〕(配点:2) 次の【記述】中の①から⑨までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは, 後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№17])
【記 述】 強盗罪における強取とは,相手方の反抗を①(a.困難にする・b.抑圧する)に足りる程度 の暴行・脅迫を加え,相手方の②(c.意思に反し・d.瑕疵ある意思に基づき),相手方の占 有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転することをいう。強取と③(e.窃盗罪における 窃取・f.恐喝罪における喝取)との区別は,実行行為としての暴行・脅迫の有無であり,強取 と④(g.窃盗罪における窃取・h.恐喝罪における喝取)との区別は,相手方の反抗を①(a. 困難にする・b.抑圧する)に足りる程度の暴行・脅迫であるか否か,つまり,暴行・脅迫の程 度である。それゆえ,恐喝罪は,⑤(i.委託物横領罪・j.詐欺罪)と同様,相手方の⑥(k. 意思に反し・l.瑕疵ある意思に基づき),財物を交付させる犯罪である。そして,強盗罪や⑦ (m.窃盗罪・n.恐喝罪)のように,相手方の②(c.意思に反し・d.瑕疵ある意思に基づ き),相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転する犯罪を⑧(o.奪取罪・p. 交付罪)と呼び,恐喝罪や⑤(i.委託物横領罪・j.詐欺罪)のように,相手方の⑥(k.意 思に反し・l.瑕疵ある意思に基づき),相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に 移転する犯罪を⑨(q.奪取罪・r.交付罪)と呼んで区別することができる。
1.①a ②c ③e ④h ⑤j ⑥k ⑦n ⑧p ⑨q
2.①b ②c ③e ④h ⑤j ⑥l ⑦m ⑧p ⑨q
3.①a ②d ③f ④g ⑤i ⑥l ⑦n ⑧p ⑨q
4.①b ②d ③f ④g ⑤i ⑥k ⑦m ⑧o ⑨r
5.①b ②c ③e ④h ⑤j ⑥l ⑦m ⑧o ⑨r
この問題に対して松浦晋二郎氏はそのブログで通常教科書では、領得罪のうち直接領得罪の占有移転型のものを奪取罪と呼び、それを盗取罪/交付罪(下図参照)に分類するのが通常であるとされているので、これは出題ミスではないかとの指摘をしている。確かに最近の教科書でもそのような分類をしているものが多い(例えば、山中敬一『刑法各論(第3版)』(2015)252頁、松原芳博『刑法各論』(2016)166頁)。
 奪取罪・盗取罪 ・窃盗罪
         ・強盗罪
    ・交付罪 ・詐欺罪
         ・恐喝罪
しかし、(このような分類をする教科書を使っている受験生には気の毒な事であるが)このような分類法には問題があると私は思う。そもそも「奪取」という概念はドイツのWegnahmeの訳語として日本の刑法学に導入されたものだと考えられるが、Wegnahmeやその動詞形のwegnehmenは「取り去る」とか「取りあげる」(独和大辞典)という意味であって被害者の意思に基づく交付をそれに含めるのは妥当ではないように思える。したがって奪取罪という概念を使うならば、上記短答問題のように盗取罪の同義語として用いる方が妥当であり、盗取罪と交付罪の上位概念としては移転罪(山口厚『刑法(第3版)』276頁)とした方がよい(但し2項犯罪を含めて分類すると利益の移転とは何かという別の問題が生じてくるが、この点については別の機会に触れたい)と思う。
 移転罪・盗取罪 ・窃盗罪
    (奪取罪)・強盗罪
    ・交付罪 ・詐欺罪
         ・恐喝罪 
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by strafrecht_bt | 2016-04-16 12:44 | 刑法Ⅱ(各論)
2016年 04月 14日

刑法演習2(2)

本日は、まず同時傷害の特則の続きで前回紹介した新判例(平成28・3・24)との関連で傷害致死罪(205条)への207条への適用可能性について議論した。受講生は判例(最判昭和26年9月20日)の結論は、205条の基本犯は204条だから205条への適用は問題ないと答えたので、それなら殺人罪(199条)も必ずまず傷害結果が生じてそれから死亡に至るので、殺人罪には傷害罪が含まれているので、199条にも207条の適用が可能になってしまうのではないかと反論したら、殺人についても傷害によらない殺人というのがありうるのではないかと答えたので、それはどのような場合かと聞いたところ、脳死説をとったうえで脳を器質的に変化させずにその機能だけを不可逆的に停止させる装置を装着して殺害するという例を挙げてきた。しかし脳の作用を停止させるには、(デカルトの二元論のような想定をして松果体から魂を吸い出すといった現在の科学と両立しない考え方を採らない限り)なんらかの脳の生理的な作用に障害を生じさせることによるしかないのであり、脳死説によっても傷害によらない殺人はふかのうではないだろうか。次に207条のような挙証責任転換規定の合憲性の問題について議論した上で、福島原発事故問題の関係再び問題となっている公害罪罪法の汚染水などの排出問題に触れ、同法の因果関係推定基準の合憲性などにも触れた(光藤・刑事訴訟法II〔2013年〕124頁参照)。その後、前述の新判例の結論を確認したうえで、共犯関係からの離脱と207条の適用に関する『刑法事例演習教材』の35問を検討したところで時間となったので、次回の最初にこれまでやったことの復習の小テストを行うことを予告して授業を終えた。

207条の刑事訴訟的性格と合憲性
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by strafrecht_bt | 2016-04-14 14:48 | 刑法演習
2016年 04月 13日

刑法1(刑法総論)第2回講義:罪刑法定主義

今日は体調が悪く調子が良くなかったが、何とか前回の刑罰論の復習をふまえて罪刑法定主義の説明を全部終えることができた。まず、ドイツでは、刑法1条が罪刑法定主義の規定で基本法でも明文で規定されているのに対し、日本の場合はどうかということを質問し、憲法上の根拠規定を確認した。では特に解釈論との関係では判例の不利益的変更の問題について議論したが、その背景となる英米法における判例法主義やコモンロー上の犯罪などについても少し説明した。結論的には日本法においては判例の不遡及的変更をみとめることは難しく、問題の解決は違法性の意識の可能性の欠如による免責によるべきという説(山口・刑法13頁)について意見をもとめたが、反応はあまりよくなく、未修者には少し難しい問題だったかもしれない。類推禁止との関連では、通常、類推解釈ではなく、拡張解釈の例とされている「電気窃盗」の大審院判決(山口・刑法11頁以下)も一種の類推ではないか、245条を注意規定と解するのは「みなす」の語義から見て罪刑法定主義からみて問題はないかということを議論を行ったうえ、① 「甲は、携帯の電池が切れたので、近所のコンビニに行き、雑誌を立ち読みしながら店員に無断で、足元にあったコンセントに接続し充電した。」②「乙は、同じコンビニで雑誌のグルメ情報をスマホで撮影した。」という問題を議論した。有体物説の方が妥当で、情報は窃盗罪の客体には含まれないという意見が多く、また情報は管理可能でも、移転せず複製されるだけなので可動性がないから大判の基準でも「物」とは言えないのでないかなどの意見があった。講義後の質問で①でも立ち読みしたことも管理可能性説によれば窃盗になるのか、その場合情報を正確に覚えていなくても成立するのかという質問があった。
【レジュメ】罪刑法定主義(山口8以下)
【文献】松宮孝明「罪刑法定主義と刑法の解釈」増田豊「罪刑法定主義の現在-特にボン基本法体制下における正統化の試みについて-」法律論叢57巻3号115頁以下
1.法律主義の意義(山口9以下):罰則は法律で定めなければならないとの法律主義の意義を理解し、命令への罰則の委任の限界及び条例における罰則制定の可否について、その概要を説明することができる。
【参照条文】憲法31条(「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」芦部235)、39条(「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」)、73条6号( 「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
・・・六  この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」)
【判例】猿払事件(判例刑法2)(芦部272)、徳島公安条例事件(判例刑法4)(芦部198)
過料などの行政処分はともかく、刑罰を科される行為が都道府県等によって異なるのは妥当か?
(外国の例)アメリカ:州ごとに刑法は全く異なる。連邦刑法は特定の分野に限定 
ドイツ:連邦制を採るが,各ラントは罰則制定権を持たない。
********
第1章 刑法の基礎理論
第2節 罪刑法定主義(山口8以下)
【授業内容】
2.類推解釈の禁止(山口11以下):刑法で類推解釈が許されないことの趣旨を理解し、類推解釈と拡張解釈の限界について、具体的事例に即して説明することができる。
【判例】①電気窃盗事件(判例刑法10)ガソリンカー事件(判例刑法11)、
②明文なき未遂犯処罰(最判平成8年2月8日刑集50巻2号221頁(鳥獣捕獲))、
③明文なき過失犯処罰(判例刑法222、223、過失の項目でも後述)
(問)類推解釈と拡張解釈の「論理の違い」(山口11)を説明しなさい。
【文献】増田(可能な語義)
【時間外学習項目】
3.遡及処罰の禁止(山口12以下:事後法の禁止)
*公訴時効の廃止(山口13)
4.明確性の原則(山口14以下):罰則が広すぎるため、又は、あいまい不明確であるために違憲無効とされる理由とその要件
(評価)「合憲性に関する判例の具体的な基準はそれほど厳格だとはいえない」(山口16)
*実体的デュープロセスの理論
5.内容の適正さ(山口16以下)
(1)無害な行為を処罰する罰則
(2)過度に広範な処罰規定
6. 罪刑の均衡(山口18)
【判例】尊属殺違憲判決(最判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁
前年度の講義。

私見
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by strafrecht_bt | 2016-04-13 00:34 | 刑法Ⅰ(総論)
2016年 04月 11日

刑法各論(財産犯)第1回講義:刑法入門・罪刑法定主義と財産犯

今日から学部の刑法各論の講義が始まった。私の勤務校では、1年生の最初の刑法の講義は各論から初めてしかも財産犯を先にやるという講義の順序になっているが、最初の時間は刑法総論の刑罰罰論と罪刑法定主義、犯罪論の体系などについて財産犯の事例を例にして説明することにしている。最初にそもそもなぜ法や国家があるのかについてホッブズの自然状態論を説明して、自然状態では例えば生きるために他人から食べ物を奪いとっも、それは一種の自然権の行使であり、強盗罪(236条1項)で処罰されることはないという例から初めて、国家による法・刑罰の必要性を説明したあと、刑罰目的論の説明に入り、応報刑の説明では、同害報復(タリオ原則)というとき殺人には死刑というのはわかるが、財産犯の刑が懲役刑中心となっているのは、おかしくないか、一般予防目的を重視するならば、日本で最も認知件数が多い犯罪である窃盗にすべて死刑を科せばよいことにならないか、窃盗には再犯・累犯が多いが、それを防ぐためには特別予防的にどのような刑を科すのが妥当かなどの問いを前の方の学生に聞いてみた。そのうえで現在ではいわゆる結合説的な考え方が有力であるが、それが理論的に整合的かという問題にも触れ、刑法理論との関係でそれぞれの刑罰論の背後にある人間観、特に意思自由論と決定論の対立に触れ、最近の脳科学的決定論についてもリベットの実験などを紹介して、リベット自身はかならずしも自由意志を否定するわけでないが、この実験結果に基づいて意思自由を否定する論者も多く、再び(非両立的)決定論に基づく特別予防論(ペレブームなど)も主張されるようになっていて、必ずしも新旧学派の論争は決着しわけではないことにも触れた。そのあとで罪刑法定主義の概略を説明したうえで、財産犯に関係する事例として電気窃盗・情報窃盗に関する事例をあげたところで時間が来たので、先ほど挙げた事例を宿題として、その検討は次回に回すことした。講義後の質問がいくつかあり、単なる内容の確認や勉強の仕方といった質問以外に、テロ対策と特別予防論の関係や、国家刑罰権と親族相盗例の関係などの良い質問もあった。
全体の講義計画
1 刑法入門
2 財産犯と罪刑法定主義
3 財産犯総論
4 器物損壊罪
5 窃盗罪(1)
6 窃盗罪(2)
7 強盗罪(1)
8 強盗罪(2)
9 強盗罪(3)
10 恐喝罪
11 詐欺罪(1)
12 詐欺罪(2)
13 詐欺罪(3)
14 横領罪
15 背任罪・財産犯と経済刑法の関係
京藤「財産犯から経済刑法へ」

リベットの実験
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by strafrecht_bt | 2016-04-11 12:56 | 刑法Ⅱ(各論)