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2017年 07月 18日

予備試験論文問題(2017・平29)

[刑 法]
以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲(40歳,男性)は,公務員ではない医師であり,A私立大学附属病院(以下「A病院」と いう。)の内科部長を務めていたところ,V(35歳,女性)と交際していた。Vの心臓には特 異な疾患があり,そのことについて,甲とVは知っていたが,通常の診察では判明し得ないもの であった。
2 甲は,Vの浪費癖に嫌気がさし,某年8月上旬頃から,Vに別れ話を持ち掛けていたが,Vか ら頑なに拒否されたため,Vを殺害するしかないと考えた。甲は,Vがワイン好きで,気に入っ たワインであれば,2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲 み切ることを知っていたことから,劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考え た。
甲は,同月22日,Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を 購入し,同月23日,甲の自宅において,同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,同瓶を梱包し た上,自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。劇薬X の致死量(以下「致死量」とは,それ以上の量を体内に摂取すると,人の生命に危険を及ぼす量 をいう。)は10ミリリットルであるが,甲は,劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いして いたところ,Vを確実に殺害するため,8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。そ のため,甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが, 心臓に特異な疾患があるVが,その全量を数時間以内で摂取した場合,死亡する危険があった。 なお,劇薬Xは,体内に摂取してから半日後に効果が現れ,ワインに混入してもワインの味や臭 いに変化を生じさせないものであった。
同月25日,宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,V宅が留守であったため,V宅の 郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,Vは,同連絡票に気付かず,同瓶を受 け取ることはなかった。
3 同月26日午後1時,Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。公務員ではない医師であり, A病院の内科に勤務する乙(30歳,男性)は,Vを診察し,熱中症と診断した。乙からVの治 療方針について相談を受けた甲は,Vが生きていることを知り,Vに劇薬Yを注射してVを殺害 しようと考えた。甲は,劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,Vの心臓には特異な疾患 があるため,Vに致死量の半分に相当する3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,Vが死亡する 危険があることを知っていたが,Vを確実に殺害するため,6ミリリットルの劇薬YをVに注射 しようと考えた。そして,甲は,乙のA病院への就職を世話したことがあり,乙が甲に恩義を感 じていることを知っていたことから,乙であれば,甲の指示に忠実に従うと思い,乙に対し,劇 薬Yを熱中症の治療に効果のあるB薬と偽って渡し,Vに注射させようと考えた。
甲は,同日午後1時30分,乙に対し,「VにB薬を6ミリリットル注射してください。私は これから出掛けるので,後は任せます。」と指示し,6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡 した。乙は,甲に「分かりました。」と答えた。乙は,甲が出掛けた後,甲から渡された容器を 見て,同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,甲の指示に従い,同容器の中身を確認せ ずにVに注射することにした。
乙は,同日午後1時40分,A病院において,甲から渡された容器内の劇薬YをVの左腕に注 射したが,Vが痛がったため,3ミリリットルを注射したところで注射をやめた。乙がVに注射 した劇薬Yの量は,それだけでは致死量に達していなかったが,Vは,心臓に特異な疾患があっ たため,劇薬Yの影響により心臓発作を起こし,同日午後1時45分,急性心不全により死亡し
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た。乙は,Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,内科部長である甲の指示に従って熱中症 の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,甲から渡された容器に薬剤名の記載がないこ とに気付いたにもかかわらず,その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,V の死の結果について刑事上の過失があった。
4 乙は,A病院において,Vの死亡を確認し,その後の検査の結果,Vに劇薬Yを注射したこと が原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,Vの死亡 について,Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。 乙は,A病院への就職の際,甲の世話になっていたことから,Vに注射した自分はともかく,甲 には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,専ら甲のために,Vの親族らがVの死亡届に添付 してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた。
乙は,同月27日午後1時,A病院において,死亡診断書用紙に,Vが熱中症に基づく多臓器 不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,同 日,同死亡診断書をVの母親Dに渡した。Dは,同月28日,同死亡診断書記載の死因が虚偽で あることを知らずに,同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した。


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by strafrecht_bt | 2017-07-18 23:30 | 司法試験予備試験
2017年 07月 04日

刑法1(13)

2017.07.04(火)1時限(13):共犯の従属性:行為共同説と犯罪共同説
【復習問題】 2017〔第19問〕(配点:2)学生A,B及びCは,次の【事例】における甲の罪責について,後記【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は, [№34])
【事例】甲は,乙がVに対して暴行を加えていたところに通り掛かり,乙との間で共謀を遂げた上,乙と一緒にVに対して暴行を加えた。Vは,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行を加えられた際に1個の傷害を負ったが,Vの傷害が,甲の共謀加担前の乙の暴行により生じたのか,甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じたのかは,証拠上不明であった。
【会話】学生A.私は,共犯は自己の行為と因果関係を有する結果についてのみ責任を負うという見解に立ち,後行者は,共謀加担前の先行者の暴行により生じた傷害結果には因果性を及ぼし得ないと考えます。事例の場合,甲には①(a.暴行罪・b.傷害罪)の共同正犯が成立すると考えます。事例とは異なり,Vの傷害が甲の共謀加担後の甲又は乙の暴行により生じ
たことが証拠上明らかな場合,甲には傷害罪の共同正犯が②(c.成立する・d.成立しない)と考えます。
学生B.A君の見解に対しては,甲に対する傷害罪の成立範囲が③(e.狭く・f.広く)なり過ぎるとの批判が可能ですね。
学生C.私は,事例の場合には,同時傷害の特例としての刑法第207条が適用され,甲は,Vの傷害結果について責任を負うと考えます。その理由の一つとして,仮に甲が乙と意思の連絡なく,Vに暴行を加えた場合に比べ,事例における甲が④(g.不利・h.有利)に扱われることになるのは不均衡であると考えられることが挙げられます。
学生B.乙には,甲の共謀加担前後にわたる一連の暴行の際にVに生じた傷害結果についての傷害罪が成立するのであり,傷害結果について責任を負う者が誰もいなくなるわけではないということは,C君の⑤(i.見解に対する批判・j.見解の根拠)となり得ますね。
1.①a ②c ③e ④h ⑤i/2.①b ②d ③f ④g ⑤j/3.①a ②c ③f ④g ⑤j/4.①b ②c ③e ④h ⑤i/5.①a ②c ③e ④g ⑤j

【確認問題】共犯の従属性には、①(  )従属性、②(  )従属性及び③(   )従属性の3つの問題がある。教唆の未遂は①の従属性に、行為共同説/犯罪共同説は③の従属性に関連した問題である。

【短答問題】2017年〔第15問〕(配点:2)次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。(解答欄は,[№26])
1.甲が乙に対し,深夜の公園で待ち伏せしてAから金品を喝取するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,深夜の公園でAを待ち伏せしたが,偶然通り掛かったBをAと誤認してBから金品を喝取した。乙は,人違いに気付き,引き続きAを待ち伏せして,通り掛かったAから金品を喝取しようとしてAを脅迫したが,Aに逃げられてしまい金品を喝取することができなかった。甲にはAに対する恐喝未遂罪の教唆犯のみが成立する。
2.甲が乙に対し,Aをナイフで脅してAから金品を強取するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,Aをナイフで脅したが,その最中に殺意を抱き,Aの腹部をナイフで刺してAに傷害を負わせ,Aから金品を強取したものの,Aを殺害するには至らなかった。甲には強盗罪の教唆犯が成立するにとどまる。
3.甲が乙に対し,留守宅であるA方に侵入して金品を窃取するように教唆したところ,乙は,その旨決意したが,B方をA方と誤認してB方に侵入し,その場にいたBから金品を強取した。
甲にはB方への住居侵入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯が成立する。
4.甲が乙に対し,現住建造物であるA家屋に放火するように教唆したところ,乙は,その旨決意し,A家屋に延焼させる目的で,A家屋に隣接した現住建造物であるB家屋に放火したが,B家屋のみを焼損し,A家屋には燃え移らなかった。甲にはA家屋に対する現住建造物等放火未遂罪の教唆犯のみが成立する。
5.甲は,土建業者AがB市発注予定の土木工事を請け負うためB市役所土木係員乙に現金を供与しようと考えていることを知り,乙に対し,Aに工事予定価格を教える見返りとしてAから現金を受け取り,Aに工事予定価格を教えるように教唆したところ,乙は,その旨決意し,Aとの間で,Aに工事予定価格を教える旨約束して,Aから現金100万円を受け取ったが,その後,工事予定価格を教えなかった。甲には加重収賄罪の教唆犯が成立する。

【論文問題】甲は,自己の取引先であるA会社の倉庫には何も保管されていないことを知っていたにもかかわらず,乙の度胸を試そうと思い,何も知らない乙に対し,「夜中に,A会社の 倉庫に入って,中を探して金目の物を盗み出してこい。」と唆した。乙は,甲に唆されたとおり,深夜,その倉庫の中に侵入し,倉庫内を探したところ,A会社がたまたま当夜 に限って保管していた同社所有の絵画を見付けたので,これを手に持って倉庫を出て、逃亡した。


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by strafrecht_bt | 2017-07-04 09:00 | 刑法Ⅰ(総論)