2012年 06月 09日
〔第18問〕(配点:3) 次の【事例及び裁判所の判断】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているもの はどれか。(解答欄は,[No36]) 【事例及び裁判所の判断】 被告人ら複数名が,被害者に対し,マンションの居室内において,長時間にわたって激しい暴 行を加えたところ,被害者が,隙を見て同居室から逃走した上,被告人らに極度の恐怖感を抱き, その追跡から逃れるため,逃走を開始してから約10分後,上記マンションから約800メート ル離れた高速道路内に進入し,疾走してきた自動車に衝突されて死亡したという傷害致死被告事 件において,裁判所は,「被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは,危険な行為で はあるが,被害者は,被告人らの激しい暴行を受けて極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過 程で,とっさにそのような行動を選択したものと認められ,その行動が,被告人らの暴行から逃 れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえない。そうすると,被害者が高速道路 に進入して死亡したのは,被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから,被告人 らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係は肯定することができる。」旨の判断を示した。 【記 述】 1.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,高速道路内に進入する以外に被害者にと って容易にとり得る他の安全な逃走経路があり,そのことを被害者が認識していたにもかかわ らず,あえて被害者が高速道路に進入した場合には,因果関係を否定する判断に結び付きやす いといえる。 2.この裁判所の考え方は,被告人らの行為の危険性が現実化したか否かという観点から,逃走 した被害者の行動が,被告人らの暴行による心理的・物理的な影響に基づくか否かを検討する ことによって,因果関係の存否を判断しているものと評価することも可能である。 3.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,被告人らが被害者に加えた暴行が短時間 かつ軽微なもので,被害者も強い恐怖感を抱かなかった場合には,因果関係を否定する判断に 結び付きやすいといえる。 4.この裁判所の考え方は,被告人らの行為と被害者の死亡の結果との間に事実的なつながり(条 件関係)が存在することを前提にした上で,被告人らの行為の後に被害者による危険な逃走行 為が介在した場合における因果関係の存否を判断していると評価することも可能である。 5.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,被害者が暴行を受けたマンションの居室 から逃げ出し,同マンションに面した一般道路に慌てて飛び出したところ,自動車に衝突され て死亡したという場合であれば,因果関係を否定する判断に結び付きやすいといえる。
by strafrecht_bt
| 2012-06-09 23:13
| 司法試験
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