人気ブログランキング |

刑法授業補充ブログ

strafrecht.exblog.jp
ブログトップ
2014年 06月 17日

2014年論文式問題

論文式試験問題
2014年論文式試験問題[刑事系科目第1問](配点:100)
以下の事例に基づき、甲、乙及び丙の罪責について、具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲(23歳、女性)は、乙(24歳、男性)と婚姻し、某年3月1日(以下「某年」は省略する。)、乙との間に長男Aを出産し、乙名義で借りたアパートの一室に暮らしていたが、Aを出産してから乙と不仲となった。乙は、甲と離婚しないまま別居することとなり、5月1日、同アパートから出て行った。乙は、その際、甲から、「二度とアパートには来ないで。アパートの鍵は置いていって。」と言われ、同アパートの玄関の鍵を甲に渡したものの、以前に作った合鍵1個を甲に内緒で引き続き所持していた。甲は、乙が出て行った後も名義を変えずに同アパート(以下「甲方」という。)にAと住み続け、自分でその家賃を支払うようになった。甲は、5月中旬頃、丙(30歳、男性)と知り合い、6月1日頃から、甲方において、丙と同棲するようになった。
2 丙は、甲と同棲を開始した後、家賃を除く甲やAとの生活に必要な費用を負担するとともに、育児に協力してAのおむつを交換したり、Aを入浴させるなどしていた。しかし、丙は、Aの連日の夜泣きにより寝不足となったことから、6月20日頃には、Aのことを疎ましく思うようになり、その頃からおむつ交換や入浴などの世話を一切しなくなった。
3 甲は、その後、丙がAのことを疎ましく思っていることに気付き、「このままAがいれば、丙との関係が保てなくなるのではないか。」と不安になり、思い悩んだ末、6月末頃、丙に気付かれないようにAを殺害することを決意した。Aは、容易に入手できる安価な市販の乳児用ミルクに対してはアレルギーがあり、母乳しか飲むことができなかったところ、甲は、「Aに授乳しなければ、数日で死亡するだろう。」と考え、7月1日朝の授乳を最後に、Aに授乳や水分補給(以下「授乳等」という。)を一切しなくなった。
このときまで、甲は、2時間ないし3時間おきにAに授乳し、Aは、順調に成育し、体重や栄養状態は標準的であり、特段の疾患や障害もなかった。通常、Aのような生後4か月の健康な乳児に授乳等を一切しなくなった場合、その時点から、①約24時間を超えると、脱水症状や体力消耗による生命の危険が生じ、②約48時間後までは、授乳等を再開すれば快復するものの、授乳等を再開しなければ生命の危険が次第に高まり、③約48時間を超えると、病院で適切な治療を受けさせない限り救命することが不可能となり、④約72時間を超えると、病院で適切な治療を受けさせても救命することが不可能となるとされている。
なお、甲は、Aを殺害しようとの意図を丙に察知されないように、Aに授乳等を一切しないほかは、Aのおむつ交換、着替え、入浴などは通常どおりに行った。
4 7月2日昼前には、Aに脱水症状や体力消耗による生命の危険が生じた。丙は、その頃、Aが頻繁に泣きながら手足をばたつかせるなどしているのに、甲が全くAに授乳等をしないことに気付き、甲の意図を察知した。しかし、丙は、「Aが死んでしまえば、夜泣きに悩まされずに済む。Aは自分の子でもないし、普通のミルクにはアレルギーがあるから、俺がミルクを与えるわけにもいかない。Aに授乳しないのは甲の責任だから、このままにしておこう。」と考え、このままではAが確実に死亡することになると思いながら、甲に対し、Aに授乳等をするように言うなどの措置は何ら講じず、見て見ぬふりをした。
甲は、丙が何も言わないことから、「丙は、私の意図に気付いていないに違いない。Aが死んでも、何らかの病気で死んだと思うだろう。丙が気付いて何か言ってきたら、Aを殺すことは諦めるしかないが、丙が何か言ってくるまではこのままにしていよう。」と考え、引き続き、Aに授乳等をしなかった。
5 7月3日昼には、Aの脱水症状や体力消耗は深刻なものとなり、病院で適切な治療を受けさせない限り救命することが不可能な状態となった。同日昼過ぎ、丙は、甲が買物に出掛けている間に、Aを溺愛している甲の母親から電話を受け、同日夕方にAの顔を見たいので甲方を訪問したいと言われた。Aは、同日夕方に病院に連れて行って適切な治療を受けさせれば、いまだ救命可能な状態にあったが、丙は、「甲の母親は、Aの衰弱した姿を見れば、必ず病院に連れて行く。そうなれば、Aが助かってしまう。」と考え、甲の母親に対し、甲らと出掛ける予定がないのに、「あいにく、今日は、これからみんなで出掛け、帰りも遅くなるので、またの機会にしてください。」などと嘘をつき、甲の母親は、やむなく、その日の甲方訪問を断念した。
6 7月3日夕方、甲は、目に見えて衰弱してきたAを見てかわいそうになり、Aを殺害するのをやめようと考え、Aへの授乳を再開し、以後、その翌日の昼前までの間、2時間ないし3時間おきにAに授乳した。しかし、Aは、いずれの授乳においても、衰弱のため、僅かしか母乳を飲まなかった。甲は、Aが早く快復するためには病院に連れて行くことが必要であると考えたが、病院から警察に通報されることを恐れ、「授乳を続ければ、少しずつ元気になるだろう。」と考えてAを病院に連れて行かなかった。
7 他方、乙は、知人から、甲が丙と同棲するようになったと聞き、「俺にも親権があるのだから、Aを自分の手で育てたい。」との思いを募らせていた。乙は、7月4日昼、歩いて甲方アパートの近くまで行き、甲方の様子をうかがっていたところ、甲と丙が外出して近所の食堂に入ったのを見た。乙は、甲らが外出している隙に、甲に無断でAを連れ去ろうと考え、持っていた合鍵を使い、玄関のドアを開けて甲方に立ち入り、Aを抱きかかえて甲方から連れ去った。
8 乙は、甲方から約300メートル離れた地点で、タクシーを拾おうと道路端の歩道上に立ち止まり、そこでAの顔を見たところ、Aがひどく衰弱していることに気付いた。乙は、「あいつら何をやっていたんだ。Aを連れ出して良かった。一刻も早くAを病院に連れて行こう。」と考え、走行してきたタクシーに向かって歩道上から手を挙げたところ、同タクシーの運転手が脇見をして乙に気付くのが遅れ、直前で無理に停車しようとしてハンドル及びブレーキ操作を誤った。そのため、同タクシーは、歩道に乗り上げ、Aを抱いていた乙に衝突して乙とAを路上に転倒させた。
9 乙とAは直ちに救急車で病院に搬送され、乙は治療を受けて一命をとりとめたものの、Aは病院到着時には既に死亡していた。司法解剖の結果、Aの死因は、タクシーに衝突されたことで生じた脳挫傷であるが、他方で、Aの衰弱は深刻なものであり、仮に乙が事故に遭うことなくタクシーでAを病院に連れて行き、Aに適切な治療を受けさせたとしても、Aが助かる可能性はなく、1日ないし2日後には、衰弱により確実に死亡していたであろうことが判明した。




【参考文献】角田雄彦(司会)・照沼亮介・緑大輔「司法試験問題の検討2014・刑事刑科目試験問題」法セ715号24頁以下
第1 甲の罪責
1 甲が7月1日の朝から3日の夕方まで授乳しなかった点について(不作為による殺人罪)
(1)作為義務
通説・判例
シヤクテイパット事件(最決平17・7・4刑集59巻6号403頁)
形式的3分説(法律・法律行為・先行行為)ー>法律(民法上の親権者の監護義務)=肯定(私見ではこれは制度的義務)
先行行為による危険の創出+保護の引受け=肯定(照沼)
作為容易性・可能性ー>救命可能性があったか
(2)甲の故意、殺意について
甲は7月1日朝の段階で、危険であることを認識しつつ授乳をやめているので、この時点で殺意が肯定できる(照沼)
(3)実行の着手
7月2日昼前の時点で生命に対する危険を生じさせているので、遅くともこの段階では実行の着手を肯定できる(照沼)
(4)中止未遂(43条但書):3日の夕方に殺意を放棄して授乳を再開している
中止行為
任意性
十分な中止行為と評価できるものがないので、中止犯の成立は否定される(照沼)
2 死亡結果との因果関係
後述のように丙/タクシー運転手の行為が介入している点
授乳の懈怠という行為の持つ危険性が、タクシー事故による死亡という結果に現実化しているとはいえないので未遂となる(結論同旨:照沼)。

第2 乙の罪責:乙が甲方に立ち入って、かつAを連れ去った点の評価
1 住居侵入
乙は戸籍上Aの父親ではあっても、関係が破綻している/居住の実態が失われている事案
強盗目的の場合に住居侵入に当たるとした判例(最一小判昭23・11・2刑集2巻12号164*頁)
乙は住居権者である甲の明示的な要請に背き、無断で作成してあった合鍵を用いて留守中に立ち入っており、さらに略取が目的であったことなどから、「侵入」該当性が肯定される(照沼)
2 未成年者略取:乙によるAの連れ去りについて
【判例】
①最決平15・3・18刑集57巻3号371頁〔98〕:親権者による国外移送略取罪
②最決平17・12・6刑集59巻10号1901頁〔92〕:共同親権者による父による拐取
(1)未遂か既遂か
・実行の着手:拐取罪においては、手段行為(欺罔や暴行など)を開始したとき
・既遂時期:被害者を自己または第三者の実力的支配内に移したときに既遂となる。
*既遂時期の判断基準
当初から自動車に乗せて連れ去る意図であった場合:自動車に乗せて発進させた段階で実力的支配下に置いたー>既遂
判例(名古屋高判平9・6・5判時1610号146頁、山形地判平24・7・12LEX/DB25482584等)は、被害者に逃走されてしまい拉致自体に成功していない行為は未遂とし、これに対して、自動車内に被害者を収容して走行を開始した行為については既遂として区別している(照沼)。
乙はAをタクシーに乗せる前に事故に巻き込まれているし、仮にタクシーに乗せたとしても、その時点以降からは正当防衛それ以前の段階、すなわち甲方から約300m離れた地点まで歩いてきた時点で、Aを実力支配下に置いたと評価できるかどうかが問題になるー>判例理論を前提としても、未遂・既遂、両方の解答があり得る(照沼)
(2)実質的違法阻却の可否:親権者同士による子の奪い合いというケース
平成17年決定における実質的違法阻却の枠組みを用いて、本問では違法阻却が可能かどうか
結論的には困難(照沼)
(3)正当防衛の成否
客観的にAの生命は甲や丙による急迫不正の侵害に直面していた
最終的に乙がAの状態を認識してタクシーに乗せようとしていた時点では、侵害を認識して対応しようとする意思が発生し、相当な手段を用いているため、正当防衛が成立する(照沼)
それ以前の、甲方からAを無断で連れ出して300m離れた地点に行くまでの段階では、そうした危険を認識せず、客観的には相当な行為を行っていたと思われるため、いわゆる偶然防衛の取扱いが問題となる(照沼)
仮に構成要件的に未遂にとどまった場合、いわゆる未遂説からはどういう結論が出てくるのかが問題
判例:既遂説

第3 丙の罪責
丙について、(1)Aを放置した点、(2)母親の訪問を断念させた点
(1)については、まず丙に作為義務を課せるかどうか、丙が甲と同棲するようになり、生後間もないAの養育を開始した段階で、生命に対する保護の引受けおよび排他的支配を肯定することは可能(照沼)
ー>そうだとしたら正犯となるのでは(私見では、乙には、同棲を始めたことやいったんは世話を引き受けたが途中から行わなくなり、甲だけに世話を委ねる状況にしたことなどの先行行為による組織化管轄に基づく保障人的地位が認められ、甲の制度的管轄による保障人的地位との関係では同時正犯となる)?
故意:甲の意図を察知し、Aの状況を十分に認識していたことから殺意を肯定できる(照沼)
共同正犯としての正犯意思の有無
スワツト事件(最決平15・5・1刑集57巻5号507頁)以降は、双方向的な意思連絡が存在しないと共同正犯の成立は認められないー>本問では、丙と甲の間にそのような関係は認めらないし、客観的に果たした役割も甲と同等とはいえないので、幇助犯にとどまる(照沼)
ー>しかし特に排他的支配を認めるのであればこの時点では正犯となるのではないか?
(2)については、作為によってAの生命に対する危険を増加させているが、(1)と同様に、甲が不在であり、この間の事情を認識していないので、意思連絡は認められず、片面的幇助とどまる(照沼)
ー>私見:いわゆる「救助的因果経過の遮断」の問題であり、母親はもし訪問していれば、ほぼ確実にAを病院に連れて行ったと考えられるし、正犯意思も認められ、作為の単独正犯を認めてもよいのではないか(但し。乙の行為の介入により因果関係が否定されるので殺人未遂)

第4 罪数関係
1 甲:Aに対する不作為による殺人未遂罪
2 乙:(1)住居侵入罪、(2)未成年者略取罪ー>牽連犯の関係に立つ
3 丙:(1)甲の殺人未遂罪に対する不作為の幇助、(2)作為による幇助ー>両者は異なる事情を契機として別途行われている:併合罪(照沼)
*私見:(1)(不作為による)殺人未遂罪の単独正犯、(2)(作為による)殺人未遂罪の単独正犯ー>同一被害者の殺害に向けた連続した行為なので法条競合ないしは包括一罪
もちろん通説は、組織化管轄/制度的管轄を区別していないので、おそらく照沼説で書いた方が無難だとおもいますが、その場合でも包括一罪とすべきではないでしょうか?

by strafrecht_bt | 2014-06-17 12:39 | 司法試験


<< 2014〔第1問〕(配点:2)刑罰論      2014年〔第5問〕「過失」 >>