2014年 08月 31日
短答式試験問題集 [刑法] 〔第1問〕(配点:2) 正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものは どれか。(解答欄は,[No.1]) 1.甲は,乙が甲所有の自動車を盗むのを目撃し,これを追跡したものの見失い,その翌日,窃 取された場所から約2キロメートル離れた路上で,乙がその自動車から降りて立ち去ったのを 認めた。甲は,乙がすぐに戻って来る様子であったので,直ちにその自動車を運転し,自宅に 戻った。この場合,甲には正当防衛が成立する。 2.甲は,散歩中,仲の悪かった乙から大型犬をけしかけられたので,犬から逃げようとして, 偶然その場を通り掛かった丙を突き飛ばして走り去った。甲の行為により,丙は転倒して全治 約1週間を要する足首捻挫の傷害を負った。この場合,甲には正当防衛が成立する。 3.甲は,乙ら数名の男によって監禁されたが,監禁されて2週間後,たまたま見張りが乙一人 になったので,監禁場所から脱出するため,乙の顔面を1回殴打して乙がひるんだ隙にそこか ら逃げた。この場合,甲には正当防衛が成立する。 4.甲は,深夜,路上で,見知らぬ乙から,ナイフを胸元に突き付けられ現金を要求されたので, ナイフを避けるために乙の胸付近を手で押し,走って逃げ出した。甲の行為により,乙は転倒 して後頭部を路面に打ち付け,全治約1か月間を要する頭部打撲の傷害を負った。この場合, 甲には正当防衛は成立しない。 5.甲は,同居していた乙と言い争いをし,乙から「ぶっ殺すぞ。」と怒鳴られたため,身の危 険を感じて一旦家を出たが,乙と仲直りをしようと考え直し,乙から暴力を振るわれることが あるかもしれないと思いつつ,家に戻って乙に謝罪した。しかし,甲は,乙に数回顔面を殴ら れた上,更に殴り続けられそうになったことから憤激し,とっさに乙の脇腹付近を1回蹴り, 乙に全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負わせた。この場合,甲には正当防衛は成立し ない。 〔第2問〕(配点:2) 偽証罪に関する次の【見解】に従って後記1から5までの【記述】を検討し,誤っているものを 2個選びなさい。(解答欄は,[No.2],[No.3]順不同) 【見解】 A説:偽証罪は,宣誓した証人が客観的事実に反する陳述をした場合に成立する。 B説:偽証罪は,宣誓した証人が自己の記憶に反して陳述をした場合に成立する。 【記述】 1.証人が自己の記憶に反する事実を客観的事実に反すると思いながら陳述したが,それが客観 的事実に合致していた場合,A説によれば,偽証罪は成立しない。 2.上記1の場合,B説によれば,偽証罪は成立しない。 3.証人が客観的事実に反しないと思いながら自己の記憶どおりに陳述したが,それが客観的事 実に合致していない場合,A説によれば,偽証罪が成立する。 4.証人が自己の記憶に反する事実を客観的事実に反すると思いながら陳述し,それが客観的事 実に合致していない場合,A説によっても,B説によっても,偽証罪が成立する。 5.証人が自己の記憶に反する事実を客観的事実に反しないと信じて陳述したが,それが客観的 事実に合致していない場合,A説によれば,偽証罪は成立しない。 〔第3問〕(配点:2) 学生Aと学生Bは,次の【事例】について,後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の ①から⑦の( )内に,後記aからnまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合,( )内に 入るものの組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No.4]) 【事例】 甲は,過去数回,飲酒酩酊の上,正常な運転ができない状態で自動車を運転し,物損事故を起 こして運転免許取消処分を受けていたが,運転免許を再取得しないまま,自動車の運転を続けて いた。 ある日,甲は,自動車を運転して居酒屋に行き,同居酒屋で飲酒し始めたが,仮に酩酊して正 常な運転ができない状態になっても,自動車を運転して帰宅するつもりであった。 甲は,同居酒屋で日本酒1升を飲み,酩酊して是非善悪の識別能力及びその識別に従って行動 を制御する能力を失った状態で,帰宅するために自動車の運転を開始した。しかし,甲は,飲酒 酩酊により正常な運転ができなかったため,自車を歩道上に乗り上げさせて歩行中の乙を跳ね飛 ばし,乙を死亡させた。 【会話】 学生A.この事例は,構成要件としては,(①)罪に当てはまりそうだけど,甲は,運転開始時, 是非善悪の識別能力及びその識別に従って行動を制御する能力を失った状態だね。 学生B.そうすると,運転開始時に甲は(②)がなかったことになるから,甲は不可罰になるの だろうか。 学生A.甲が(②)に影響が出ない程度に飲酒して,正常な運転が困難な状態で自動車を運転し ていたら(①)罪が成立するのに,この事例が不可罰になるなんて納得できないな。 学生B.こういう場合に,甲の可罰性を根拠付ける理論として,(③)があったね。 学生A.確か「直接結果を惹起した行為の際には(②)がなくても,その原因となった行為の際 に完全な(②)があれば,完全な責任が問いうる。」という理論だったよね。 学生B.この理論の根拠は何だろう。 学生A.(④)を維持しつつ,構成要件該当事実を原因行為まで遡及させる立場と,(④)の例外 を認め,責任だけを原因行為時に遡及させる立場があるよね。 学生B.(②)を欠いた自分を道具として利用すると捉え,(⑤)と同様に考える見解は,前者の 立場に分類されるね。 学生A.だけど,甲が乙を自動車ではねた時点で甲自身が道具といえるか問題となる場合とし て,甲が(⑥)だった場合があるね。 学生B.確かに,道具といえるか問題があるね。判例は,(⑥)の場合,(③)の理論を(⑦)よ ね。 【語句群】 a.業務上過失致死b.危険運転致死c.責任能力d.行為能力 e.原因において違法な行為f.原因において自由な行為 g.行為と責任の同時存在の原則h.罪刑法定主義i.共謀共同正犯 j.間接正犯k.心神喪失l.心神耗弱m.適用している n.適用していない 1.①a ②c ③e ④g ⑤j ⑥l ⑦m 2.①a ②d ③f ④g ⑤i ⑥l ⑦n 3.①b ②c ③f ④g ⑤j ⑥l ⑦m 4.①b ②c ③f ④h ⑤i ⑥k ⑦n 5.①b ②d ③e ④g ⑤j ⑥k ⑦m 〔第4問〕(配点:2) 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。(解答 欄は,[No.5],[No.6]順不同) 1.甲は,乙から商品を購入する際,偽造通貨を真正な通貨のように装って乙に代金として交付 した。甲には詐欺罪と偽造通貨行使罪が成立し,両罪は観念的競合となる。 2.甲は,自動販売機に投入して飲料水と釣銭を不正に得る目的で,外国硬貨の周囲を削って5 00円硬貨と同じ大きさにした。甲には通貨偽造罪が成立する。 3.甲は,警察官から道路交通法違反(無免許運転)の疑いで取調べを受けた際,交通事件原票 中の供述書欄に,あらかじめ承諾を得ていた実兄乙の名義で署名指印した。甲には有印私文書 偽造罪が成立する。 4.甲は,当選金を得る目的で,外れた宝くじの番号を当選番号に改ざんした。甲には有印私文 書変造罪が成立する。 5.甲は,運転中に警察官に免許証の提示を求められたときに提示するつもりで,偽造された自 動車運転免許証を携帯して自動車の運転を開始した。甲には偽造公文書行使罪は成立しない。 ★〔第5問〕(配点:3) 業務上の占有者による横領行為に非占有者が加功した場合の罪責について,教授及び学生が次の 【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内に後記アからキまでの【発 言】から適切な語句を入れた場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちのどれか。(解 答欄は,[No.7]) 【会話】 教授.保険会社の保険料集金担当従業員である甲が,同社の従業員ではない知人乙と共謀の上, 集金した保険料を横領した事例のように,業務上の占有者に非占有者が加功した場合のそれ ぞれの罪責について,共犯と身分の観点から,どのようなことが問題になりますか。 学生.業務上横領罪の成否に関して,同罪は,単純横領罪との関係では(①)であり,他方,非 占有者との関係では(②)となりますから,特に乙に対して,何罪が成立するのかが問題に なります。 教授.判例ではこの事例はどのような結論になりますか。 学生.判例は,(③)としています。 教授.判例の立場に対しては,どのような批判がなされていますか。 学生.非身分者について罪名と科刑の分離を認めるのは妥当でないという批判がなされています。 教授.この点を克服するための考え方としては,どのようなものがありますか。 学生.刑法第65条第1項は違法身分について規定し,同条第2項は責任身分について規定して いると考え,業務上横領罪については,(④)と捉えた上で,この事例では(⑤)とする見 解などがあります。 【発言】 ア.占有の受託者という身分があることによって犯罪行為になる構成的身分犯 イ.業務者という身分があることによって刑が加重・減軽される加減的身分犯 ウ.占有の受託者たる身分は責任身分,業務者たる身分は違法身分 エ.占有の受託者たる身分は違法身分,業務者たる身分は責任身分 オ.刑法第65条第1項により甲には業務上横領罪が,同条第2項により乙には単純横領罪がそ れぞれ成立し,甲及び乙は単純横領罪の範囲で共犯となる カ.刑法第65条第1項により甲及び乙は業務上横領罪の共犯となり,同条第2項により乙に対 しては単純横領罪の刑を科す キ.刑法第65条第1項により甲及び乙は単純横領罪の共犯となり,更に同条第2項により甲に ついては業務上横領罪が成立する 1.①ア②イ③カ④ウ⑤オ 2.①ア②イ③キ④ウ⑤オ 3.①イ②ア③オ④エ⑤カ 4.①イ②ア③カ④エ⑤キ 5.①イ②ア③キ④ウ⑤カ 〔第6問〕(配点:2) 次の1から5までの各事例における甲の罪責について判例の立場に従って検討し,乙に対する詐 欺罪(刑法第246条)が甲に成立しないものを2個選びなさい。(解答欄は,[No.8],[No.9] 順不同) 1.甲は,乙とトランプ賭博を行った際,乙の手札の内容が分かるよう不正な細工を施したトラ ンプカードを用いて乙を負けさせ,乙に100万円の支払債務を負担させた。 2.甲は,15歳の乙がふだんから多額の現金を持ち歩いているのを知っていたことから,同人 の知識や思慮が足りないことに乗じて現金を手に入れようと考え,乙に対し,借りた現金を返 す意思もないのに返す意思があるように装って10万円の借金を申し込み,これを誤信した乙 から現金10万円の交付を受けた。 3.甲は,乙宅の金品を手に入れようと考え,乙宅で乙と歓談中,「火事だ。」と嘘を言い,乙が その旨誤信して外に逃げた隙に乙宅から現金を持ち去った。 4.甲は,パチンコ店において,通常の方法によってパチンコ台で遊技しているように装って同 店従業員乙の目を欺き,特殊な器具を使ってパチンコ台を誤作動させてパチンコ玉を排出させ, その占有を取得した。 5.甲は,乙に対し,乙の居宅は耐震補強工事をしないと地震の際に危険である旨嘘を言い,そ の旨乙を誤信させて必要のない工事契約を締結させたが,乙には資金がなかったことから,乙 が甲の妻丙が経営する家具店から家具を購入したように仮装して,その購入代金について乙と 信販会社との間で立替払契約を締結させ,これに基づき,同信販会社から丙名義の預金口座に 工事代金相当額の振込みを受けた。 〔第7問〕(配点:3) 両罰規定に関する次の【見解】A説ないしC説に従って,後記【罰則】の適用に関する後記1か ら5までの【記述】を検討し,誤っているものを2個選びなさい。(解答欄は,[No.10],[No.11] 順不同) 【見解】 A説:両罰規定は,法人が無過失であっても代表者や従業者の責任が法人に転嫁されることを政 策的に認めたものである。 B説:法人の代表者の違反行為は法人の違反行為であり,法人の従業者の違反行為については, 法人の代表者の当該従業者に対する選任監督上の過失が推定され,過失責任に基づき法人が 処罰される。 C説:法人の代表者の違反行為は法人の違反行為であり,法人の従業者の違反行為については, 法人の代表者の当該従業者に対する選任監督上の過失が擬制され,過失責任に基づき法人が 処罰される。 【罰則】 出入国管理及び難民認定法第73条の2第1項 次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し, 又はこれを併科する。 一事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた者 二(以下略) 同法第76条の2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業 務に関して第73条の2(中略)の罪(中略)を犯したときは,行為者を罰するほか,その法 人又は人に対しても,各本条の罰金刑を科する。 【記述】 1.A説によれば,甲社代表取締役乙が,自社の事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせ た場合,甲社に出入国管理及び難民認定法違反の罪(同法第73条の2第1項,第76条の2, 以下「不法就労助長罪」という。)が成立する。 2.A説によれば,甲社従業者丙が,自社の事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた場 合,甲社に不法就労助長罪が成立する。 3.B説によれば,甲社代表取締役乙が,自社の事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせ た場合,甲社の乙に対する選任監督上の過失がないことが立証されない限り,甲社に不法就労 助長罪が成立する。 4.B説によれば,甲社従業者丙が,自社の事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた場 合,甲社代表取締役乙の丙に対する選任監督上の過失がないことが立証されない限り,甲社に 不法就労助長罪が成立する。 5.C説によれば,甲社従業者丙が,自社の事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた場 合,甲社代表取締役乙の丙に対する選任監督上の過失がないことが立証されない限り,甲社に 不法就労助長罪が成立する。 〔第8問〕(配点:2) 公務執行妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを 2個選びなさい。(解答欄は,[No.12],[No.13]順不同) 1.甲は,警察官乙から職務質問を受けた際,乙に対して暴行を加えて傷害を負わせた。甲に乙 に対する公務執行妨害罪が成立する場合,同罪と傷害罪は観念的競合となる。 2.甲は,飲食店Aで無銭飲食した後,A店店員の通報を受けて同店に臨場した制服の警察官乙 の姿を認めるや,乙から事情聴取を受ける前に,その場から逃走する目的で乙を1回殴り,乙 がひるんだ隙に同店から逃げた。甲には公務執行妨害罪は成立しない。 3.甲は,パトロールカーに乗って警ら中の警察官乙を認めるや,以前乙によって逮捕されたこ とを恨んでいたので,乙の乗っていたパトロールカーに石を投げ付けて同車のフロントガラス に命中させ,同ガラスにひび割れを生じさせた。甲には,器物損壊罪が成立するが,公務執行 妨害罪は成立しない。 4.甲は,窃盗を行って制服の警察官乙に追跡されている途中で,乙に暴行を加えて傷害を負わ せた。甲に乙に対する事後強盗致傷罪が成立する場合,公務執行妨害罪は,事後強盗致傷罪に 吸収される。 5.甲は,警察官乙により,逮捕状を示されて逮捕されそうになった際,逮捕を免れるため,乙 に暴行を加えて抵抗したものの,結局,その場で,前記逮捕状により逮捕された。甲には公務 執行妨害罪が成立する。 〔第9問〕(配点:2) 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。(解答欄 は,[No.14]) 1.甲は,昼間の電車内において,多数の乗客が見ている状態で,恋人の乙が着ていたコートの 前を広げさせてその陰部を露出させた場面を写真撮影した。同写真撮影について乙があらかじ め甲に対して承諾していた場合,公然わいせつ罪の違法性が阻却され,甲には同罪の共同正犯 は成立しない。 2.甲は,重病で苦しんでいる妻乙に同情して,同人の首を絞めて窒息死させた。乙の殺害につ いて乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,いずれの構成要件にも該当せ ず,犯罪は成立しない。 3.甲は,乙が保険金をだまし取るのに協力する目的で,乙の右手の親指を包丁で切断した。親 指の切断について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,傷害罪の構成要 件に該当せず,同罪は成立しない。 4.甲は,11歳の乙の陰部を指で弄ぶなどのわいせつな行為を行った。わいせつな行為をする ことについて乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,強制わいせつ罪の構 成要件に該当せず,同罪は成立しない。 5.甲は,妊娠している妻乙と話し合った上,薬物を使用して堕胎させた。堕胎について乙があ らかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,不同意堕胎罪の構成要件に該当せず,同 罪は成立しない。 ★〔第10問〕(配点:2) 毀棄罪及び損壊罪の「毀棄」,「損壊」に関する次の【見解】に従って後記アからオまでの【記述】 を検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No.15]) 【見解】 A説:「毀棄」,「損壊」とは,対象物の全部又は一部を物理的に破壊,毀損することである。 B説:「毀棄」,「損壊」とは,対象物を物理的に破壊,毀損することに限らず,対象物の効用を 害する一切の行為を含む。 【記述】 ア.A説は,例えば飲食店の食器に放尿する行為は,食器を破壊することと同視されるというこ とを論拠の一つとする。 イ.A説によると,建物の美観・外観を汚損するにとどまるビラ貼り行為は,「損壊」に当たら ないことになる。 ウ.B説によれば,毀棄罪又は損壊罪の成否に,原状回復の難易も考慮されることになる。 エ.A説からは,B説に対して,B説に立ちつつ窃盗罪に不法領得の意思が必要とすると,隠匿 目的で他人の物の占有を取得する行為を処罰できなくなるという批判が可能である。 オ.B説からは,信書隠匿罪について,隠匿は「毀棄」,「損壊」の一形態ではないが,信書の隠 匿により,名宛人がその情報に接することが阻害されるために特に設けられたものであるとい うことが可能である。 1.アイ 2.アオ 3.イウ 4.ウエ 5.エオ 〔第11問〕(配点:2) 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。(解 答欄は,[No.16],[No.17]順不同) 1.甲は,乙が第三者から盗んできた物を,盗品かもしれないと認識していたが,値段が安いの でそれでも構わないと思って有償で譲り受けた。この場合,甲には盗品等有償譲受け罪は成立 しない。 ★2.甲は,殺意をもって乙の首を絞め,乙が気絶したのを見て既に窒息死したものと誤信し,乙 を海に投げ込んだところ,乙は海中で溺死した。この場合,甲には殺人罪が成立する。 3.甲は,自己が経営する店において,わいせつな映像を録画したDVDを販売したが,あらか じめ同DVDの映像を再生してその内容を認識していたものの,この程度ではわいせつ図画に 当たらないと考えていた。この場合,甲にはわいせつ図画販売罪が成立しない。 ★4.甲は,パチンコ店の従業員乙が運搬していた同店の売上金の入ったかばんを強取するため, 乙の後方から,乙の頭部を狙い,殺意をもってけん銃の弾丸を発射したところ,同弾丸は乙の 肩を貫通した上,甲が認識していなかった通行人丙の腹部に命中し,乙と丙にそれぞれ傷害を 負わせた。この場合,甲には,乙に対する強盗殺人未遂罪,丙に対する強盗殺人未遂罪がそれ ぞれ成立し,両罪は観念的競合となる。 5.甲は,乙に対して丙に暴行するよう教唆したところ,乙が丙の頭部を1回殴り,その結果, 丙が転倒して地面に頭部を打ち付け,脳挫傷により死亡した。この場合,甲には傷害致死罪の 教唆犯が成立する。 ★〔第12問〕(配点:3) 強盗殺人罪に関する次の【見解】A説ないしC説に従って後記【事例】ⅠないしⅢにおける甲の 罪責を検討し,後記1から5までの【記述】のうち,正しいものを2個選びなさい。(解答欄は,[No. 18],[No.19]順不同) 【見解】 強盗殺人罪が成立するためには, A説:殺人行為が強盗の機会に行われなければならないとする。 B説:殺人行為が強盗の手段でなければならないとする。 C説:殺人行為が強盗の手段である場合に限らず,事後強盗(刑法第238条)類似の状況にお ける殺人行為も含むとする。 【事例】 Ⅰ.甲は,強盗の目的で,乙に対し,持っていたナイフを突き付け,「金を出せ。出さなかった ら殺す。」などと申し向け,反抗を抑圧された乙から現金を奪い取った後,逃走しようとした が,乙に追跡され,犯行現場から約10メートル逃げたところで,捕まらないようにするため, 殺意をもって乙の胸部を刃物で突き刺し,乙を即死させた。 Ⅱ.甲は,乙所有の自動車1台を窃取し,犯行翌日,同車を犯行場所から約10キロメートル離 れた場所で駐車させ,用事を済ませた後,同車に戻ってきたところを乙に発見され,同車を放 置して逃走した。甲は,乙に追跡されたので,捕まらないようにするため,殺意をもって乙の 胸部を刃物で突き刺し,乙を即死させた。 Ⅲ.甲は,乙方において,乙をロープで縛り上げた上,乙所有の現金を奪い取った後,乙方から 逃走しようとしたが,乙方玄関先において,たまたま乙方を訪問した丙と鉢合わせとなり,丙 が悲鳴を上げたことから,犯行の発覚を恐れ,殺意をもって丙の胸部を刃物で突き刺し,丙を 即死させた。 【記述】 1.A説によれば,事例Ⅰでは強盗殺人罪が成立する。 2.A説によれば,事例Ⅲでは強盗殺人罪は成立しない。 3.B説によれば,事例Ⅱでは強盗殺人罪は成立しない。 4.B説によれば,事例Ⅲでは強盗殺人罪が成立する。 5.C説によれば,事例Ⅱでは強盗殺人罪が成立する。 〔第13問〕(配点:3) 次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合 には2を選びなさい。(解答欄は,アからオの順に[No.20]から[No.24]) ア.甲は,乙を毒殺する目的で毒入り菓子をお歳暮として郵送するため,郵便局の窓口でその菓 子を包んだ小包の郵送を申し込んだが,誤って実際には存在しない住所を宛先として記載した ために同小包はどこにも配達されずに甲宅に送り返された。この場合,甲には殺人未遂罪が成 立する。[No.20] ★イ.甲は,自己が居住する建物に付した火災保険の保険金を保険会社からだまし取る目的で同建 物に放火したが,保険金を請求するに至らなかった。この場合,甲には詐欺未遂罪は成立しな い。[No.21] ★ウ.甲は,乙の住居内に侵入し,タンスの引き出しを開けるなどして金目の物を探したが,見付 けることができないうちに乙に発見された。甲は,逮捕を免れるため,乙に対して包丁を示し て脅迫し,屋外に逃走したが,通報により駆けつけた警察官に現場付近で逮捕された。この場 合,甲には事後強盗未遂罪が成立する。[No.22] エ.甲は,勾留状の執行により拘禁されている未決の被告人であったところ,逃走の目的で拘禁 場の換気孔の周辺の壁部分を削り取って損壊したが,いまだ脱出可能な穴を開けるに至らず, 逃走行為自体に及ばないうちに検挙された。この場合,甲には加重逃走未遂罪は成立しない。 [No.23] オ.甲は,他人が居住する建物に放火することを企て,30分後に発火して導火材を経て同建物 に火が燃え移るように設定した時限発火装置を同建物に設置したが,設定した時刻が到来する 前に発覚して同装置の発火に至らなかった。この場合,甲には現住建造物等放火未遂罪は成立 しない。[No.24]
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