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刑法授業補充ブログ

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2016年 04月 16日

「奪取罪」の概念について

短答2015〔第10問〕(配点:2) 次の【記述】中の①から⑨までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは, 後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№17])
【記 述】 強盗罪における強取とは,相手方の反抗を①(a.困難にする・b.抑圧する)に足りる程度 の暴行・脅迫を加え,相手方の②(c.意思に反し・d.瑕疵ある意思に基づき),相手方の占 有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転することをいう。強取と③(e.窃盗罪における 窃取・f.恐喝罪における喝取)との区別は,実行行為としての暴行・脅迫の有無であり,強取 と④(g.窃盗罪における窃取・h.恐喝罪における喝取)との区別は,相手方の反抗を①(a. 困難にする・b.抑圧する)に足りる程度の暴行・脅迫であるか否か,つまり,暴行・脅迫の程 度である。それゆえ,恐喝罪は,⑤(i.委託物横領罪・j.詐欺罪)と同様,相手方の⑥(k. 意思に反し・l.瑕疵ある意思に基づき),財物を交付させる犯罪である。そして,強盗罪や⑦ (m.窃盗罪・n.恐喝罪)のように,相手方の②(c.意思に反し・d.瑕疵ある意思に基づ き),相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転する犯罪を⑧(o.奪取罪・p. 交付罪)と呼び,恐喝罪や⑤(i.委託物横領罪・j.詐欺罪)のように,相手方の⑥(k.意 思に反し・l.瑕疵ある意思に基づき),相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に 移転する犯罪を⑨(q.奪取罪・r.交付罪)と呼んで区別することができる。
1.①a ②c ③e ④h ⑤j ⑥k ⑦n ⑧p ⑨q
2.①b ②c ③e ④h ⑤j ⑥l ⑦m ⑧p ⑨q
3.①a ②d ③f ④g ⑤i ⑥l ⑦n ⑧p ⑨q
4.①b ②d ③f ④g ⑤i ⑥k ⑦m ⑧o ⑨r
5.①b ②c ③e ④h ⑤j ⑥l ⑦m ⑧o ⑨r
この問題に対して松浦晋二郎氏はそのブログで通常教科書では、領得罪のうち直接領得罪の占有移転型のものを奪取罪と呼び、それを盗取罪/交付罪(下図参照)に分類するのが通常であるとされているので、これは出題ミスではないかとの指摘をしている。確かに最近の教科書でもそのような分類をしているものが多い(例えば、山中敬一『刑法各論(第3版)』(2015)252頁、松原芳博『刑法各論』(2016)166頁)。
 奪取罪・盗取罪 ・窃盗罪
         ・強盗罪
    ・交付罪 ・詐欺罪
         ・恐喝罪
しかし、(このような分類をする教科書を使っている受験生には気の毒な事であるが)このような分類法には問題があると私は思う。そもそも「奪取」という概念はドイツのWegnahmeの訳語として日本の刑法学に導入されたものだと考えられるが、Wegnahmeやその動詞形のwegnehmenは「取り去る」とか「取りあげる」(独和大辞典)という意味であって被害者の意思に基づく交付をそれに含めるのは妥当ではないように思える。したがって奪取罪という概念を使うならば、上記短答問題のように盗取罪の同義語として用いる方が妥当であり、盗取罪と交付罪の上位概念としては移転罪(山口厚『刑法(第3版)』276頁)とした方がよい(但し2項犯罪を含めて分類すると利益の移転とは何かという別の問題が生じてくるが、この点については別の機会に触れたい)と思う。
 移転罪・盗取罪 ・窃盗罪
    (奪取罪)・強盗罪
    ・交付罪 ・詐欺罪
         ・恐喝罪 

by strafrecht_bt | 2016-04-16 12:44 | 刑法Ⅱ(各論)


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