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2016年 12月 05日

 所有権移転登記等電磁的公正証書原本不実記録罪が成立しないとされた事例

最判 平成28年12月5日:平成26(あ)1197
 電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件
(最高裁判所第一小法廷) 破棄自判
【事実】 (1) 暴力団員であるBは,平成23年夏頃から,茨城県内に松葉会の会合で使える会館を造ろうと考え,不動産仲介業を営むCに対し,土地探し等を依頼していた。
(2) Bは,茨城県暴力団排除条例(以下「本件条例」という。)により自らは不動産業者と取引することができないと考え,取得する土地及び建物の名義人となってもらえる者を探していたところ,知人から紹介を受けて,被告人に対し名義を貸してくれるよう依頼をし,被告人はこれを承諾した。そこで,被告人,B及びCは,協議の上,本件各土地の売買契約において被告人又は被告人が代表取締役を務めるA社が買受名義人となり,被告人又はA社名義で本件各土地の登記を申請することとした。
(3) 本件各土地の取得等に必要な交渉,手続は,主にC及び同人から指示を受けた者が行ったが,本件売主らとの間の売買契約(以下「本件各売買契約」又は「本件各売買」という。)の締結に当たっては,被告人もA社の代表取締役として,これに立ち会い,売買契約書等の作成を行ったほか,その場で売買代金全額を支払った。本件各売買契約はA社名義で行われ,Bのためにすることは一切表示されず,本件売主らは,契約の相手方がA社であると認識していた。なお,本件売主らは,Bとは一切面識がなかった。
(4) 本件各土地について,本件公訴事実第1及び第2のとおり,本件各売買を原因とする本件売主らからA社への所有権移転登記等(以下「本件各登記」という。)がされたほか,本件建物について,本件公訴事実第3及び第4のとおり,所有者を被告人とする表題登記及び所有権保存登記がされた。
(5) 本件各土地及び本件建物の取得代金,登記費用など合計約1億2000万円の費用は全て,Bが出えんした。

【原審】 東京高判平成26年6月19日:平成25(う)1962
(1) 被告人とBとの間において,真実は暴力団員であるBが土地の所有権を取得するにもかかわらず,本件条例の適用を潜脱する意図の下にBの存在を秘匿して,A社を買受名義人として偽装する旨の合意が成立した。
(2) 被告人は,本件各土地に関する契約の際こそ立ち会っているが,契約に至るまでの間の必要な交渉,手続等は,Bの意向に沿う形で,主にC等が行っており,被告人は一切関与しなかったから,その実態は買受名義人を偽装した名義貸しである。
(3) そうすると,本件各土地の所有権は,本件売主らからA社が買主となって本件各売買契約を締結した時に,被告人とBとの間の名義貸しの合意によって,本件売主らからA社の名を借りたBに直接移転したものと認めるべきである。したがって,A社名義の本件各登記の申請は虚偽の申立てであり,当該登記は不実の記録である。





【裁判要旨】 土地について売買契約を登記原因とする所有権移転登記等の申請をして当該登記等をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪が成立しないとされた事例
【判旨】 しかし,本件事実関係によれば,本件各売買契約における買主の名義はいずれもA社であり,被告人がA社の代表者として,本件売主らの面前で,売買契約書等を作成し,代金全額を支払っている。また,被告人がBのために本件各売買契約を締結する旨の顕名は一切なく,本件売主らはA社が買主であると認識していた。そうすると,本件各売買契約の当事者は,本件売主らとA社であり,本件各売買契約により本件各土地の所有権は,本件売主らからA社に移転したものと認めるのが相当である。
原判決は,被告人とBとの間の合意の存在を重視するが,本件各売買契約における本件売主らの認識等を踏まえれば,上記合意の存在によって上記の認定が左右されるものではない。
また,本件事実関係の下では,民法が採用する顕名主義の例外を認めるなどの構成によって本件各土地の所有権がBへ直接移転したということもできない。
以上によれば,本件各土地の所有権が本件各売買を原因としてA社に移転したことなどを内容とする本件各登記は,当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映したものであるから,これに係る申請が虚偽の申立てであるとはいえず,また,当該登記が不実の記録であるともいえない。

by strafrecht_bt | 2016-12-05 16:50 | 刑法Ⅱ(各論)


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