人気ブログランキング |

刑法授業補充ブログ

strafrecht.exblog.jp
ブログトップ
2016年 11月 14日

法と環境8:環境倫理学(2)

【最近のニュースから】
*TBSニュース:2016/11/1:P.M2.5(インド)
 *日本の現状→平成26年度 大気汚染状況について(一般環境大気測定局、自動車排出ガス測定局の測定結果報告)
 *環境基準
*温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」きょう発効 NHKニュース:11月4日 4時51分
 *【AFP記者コラム】気候変動、コップの水は「まだ半分」か「もう半分」か2015年12月24日 11:57 発信地:パリ/フランス
  *Bjørn Lomborgの見解→*参考文献:岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』(2016年)279頁以下
  *ファン・イペルセル(Jean-Pascal van Ypersele )教授の見解
  *ピーター・コックス(Peter Cox)の見解

アメリカにおける環境倫理学の歴史
1 歴史的展開(環境倫理学の成立以前)
(1)18世紀(1700年代):啓蒙主義:人間による自然の制服
*18世紀の啓蒙主義(Enlightenment)の時代には,人間の自然への支 配はむしろ称揚されていた。原生自然(wilderness)でさえ,人間によって秩序づけられ,征服,管理 されるべきものと考えられていたため,森林は伐採され,野生生物は大量に殺戮され,多くの種が絶滅していった。
(2)19世紀(1800年代):ロマン主義的自然回帰:超越主義・神秘主義→自然保護運動の誕生
自然保護ということが話題になり,議論の対象となったのは19世紀に なってからである。
*ロマン主義と超越主義 啓蒙主義や産業革命への反動として,自然の全体性,人間と自然との 一体性を説く思潮が,ロマン主義(romanticism, Romantik)の思潮という形で姿を現した。すでに都市化された人たちの失われつつある「自然」を回復しようとす るものであり,アメリカにおいてはRalph Emerson(1803~1882)や Henry Thoreau(1817~1862)の超越主義の思想が生まれた。 超越主義(transcendentalism)とは、有限な存在の中に神的なものの内在を認め、神秘的汎神論の要素をもった考え方のこと。
→Ralph Emersonの自然認識
「自然は魂と対をなすものであり、その部分 部分が魂に対する応答なのである。一方は印章であり、他方は押印されてできる跡である。 自然の美は彼(人間)自身の心の美である。自 然の法則は彼(人間)自身の心の法則だ。」「最も多くのことを知っている人、地下にどんな素敵なもの、役立つものがあるかを知っ ている人、海や川、植物、天界を知っている人、これら魅惑的な事物に近づく方法を知っている人は、豊かで高貴である。」
2 保全・保存論争: 「保全」 (conservation)対「保存」(preservation)
アメリカにおいて森林管理の観点から自然保護にはじめて取り組んだ人物にピンショーがいる。彼の自然保護は「森林(資源)管理」を意味し、基本的に保全であり、「最大多数の最長期間の最大幸福」という考えにもみられるように功利主義にもとづくものであった。これにたいし保存の観点から自然保護運動を推進した人物にジョン・ミューアがいる。 超越主義の影響色濃いミューアは自然に内在的価値を認める立場からヨセミテ渓谷の国立公園化に尽力し、シエラ・クラブの創設者としても知られる。
*森岡正博「自然を保護することと人間を保護すること -「保全」と「保存」の四つの領域」鬼頭秀一編『環境の豊かさをもとめて』昭和堂 1999年5月 30-53頁
アメリカのヨセミテ国立公園のヘッチーヘッチー渓谷に、ダムをつくるかどうかをめぐって、一九〇八年から一九一三年にわたって、大論争が行なわれた。自然保護の父と言われるミュアを代表とする「自然派」は、ダム建設」に反対し、その地域を手つかずのまま残すことをうったえた。これに対して、行政官の立場に立つピンョーらは、ダムを建設してその地域の自然をかしこく管理することこそが自然保護だと主張した。この論争は議会にもちこまれ、その後、政治的決着がはかられて「自然派」は敗北し、ダムが渓谷に建設された。 ミュアが「保存」の立場にたってダム建設に反対し、ピンショーは「保全」の立場にたって建設を推進する。そして、ふたりとも、自分たちの考え方こそが真の「自然保護」なのだと主張する。ほんとうに、象徴的な対立だ。  ピンショーは、森の木材を安定供給できるような形で、自然を管理してゆくことこそが自然保護だと考えている。この考え方は、その後の自然保護運動のひとつの典型的な発想として、受け継がれてゆくことになる。たとえば、一九五七年に改組された国際自然保護連合(IUCN)は、自然保護の目的を、自然の「かしこく合理的な利用」と規定している。「保全」の立場にたつわけである。 これに対して、ミュアは、自然をそのままの形で残してゆくことこそが自然保護だと考える。その背後には、自然のなかに、なにか神聖で宗教的なものを認める思想がある。そして、この考え方は、極端なケースでは、自然に人間の指一本触れさせないというところにまで行きつくであろう。ミュアは、アメリカの民間自然保護団体・シエラクラブの初代会長となり、「保存」に基礎をおく自然保護のもうひとつの流れを生み出した。保全と保存の思想的対立がもっともはっきりするのは、次の問いを突きつけられたときである。
 「自然を守る行為が、人間のためにならないときにでも、自然を守るべきか。」YESと答えるのが保存/NOとするのが保全。

・ヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)
・グレイシャー・ポイントに立つセオドア・ルーズベルト大統領(左)とジョン・ミューア。
・Hetch Hetchy Valley

3 レオポルドの「土地倫理」
Aldo Leopold (1887 – 1948)
アルド・レオポルド(左側)A Sand County Almanac (New York: Oxford, 1949)(新島義昭訳『野生のうたが聞こえる』講談社学術文庫, 1997年)同書に収録されている「土地倫理」(原題は「Land Ethics」)という論文で、「自然は共同体であり、土地倫理は、ヒトという種の役割を土地という共同体の征服者から、平凡な一員、一構成員へと変える」と述べ、人間中心主義を批判した。

4 リン・ホワイトのキリスト教的人間中心主義批判
*Lynn Townsend White Jr. (1907-1987)

5 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』
*レイチェル・ルイーズ・カーソン(Rachel Louise Carson、1907 - 1964)
『沈黙の春』(1962年)
農業(農薬)が自然を破壊する.
環境問題=自然破壊
アメリカ:自然保護
*当時の日本の議論との対比
石牟礼道子『苦界浄土』(1969年)
工業と経済が人間を破壊する.
公害=人間破壊
日本:反公害闘争



*TBSニュース:2016/11/1:P.M2.5(インド)
インドの首都、ニュー・デリーで31日、WHO=世界保健機関が定めた基準値の90倍の濃度のPM2.5が検出されました。白く濁った空気が立ちこめ、道の向こう側はほとんど見えません。ニュー・デリーでは31日、前の日にかけて行われたヒンズー教の祭りの花火の影響で、WHOが定めた基準値の90倍にも上る、1立方メートルあたり900マイクログラムのPM2.5が検出され、心臓や呼吸器に問題がある人やお年寄りは、外出を控えるよう勧告が出されました。ニュー・デリーは、ここ数年、深刻な大気汚染を受けて、汚染物質の排気量が少ないような新しい車に買い替えるよう市民に指示するなど、キャンペーンを行っていました。WHOによると、全世界でおよそ3億人の子どもがWHOの基準の6倍以上の汚染物質を含む空気の中で生活していて、そのうち2億2000万人がインドなど南アジアの子どもだということです。(31日19:39)
*PM2.5【英】Particulate Matter 2.5   [略]PM2.5微小粒子状物質:
大気中に浮遊している2.5μm【マイクロメーター】(1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のことで、従来から環境基準を定めて対策を進めてきた浮遊粒子状物質(SPM:10μm以下の粒子)よりも小さな粒子です。PM2.5は非常に小さいため(髪の毛の太さの1/30程度)、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸系への影響に加え、循環器系への影響が心配されています。 粒子状物質には、物の燃焼などによって直接排出されるものと、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状大気汚染物質が、主として環境大気中での化学反応により粒子化したものとがあります。発生源としては、ボイラー、焼却炉などのばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機等、人為起源のもの、さらには、土壌、海洋、火山等の自然起源のものもあります。これまで取り組んできた大気汚染防止法に基づく工場・事業場等のばい煙発生施設の規制や自動車排出ガス規制などにより、SPMとPM2.5の年間の平均的な濃度は減少傾向にあります。
*平成26年度 大気汚染状況について(一般環境大気測定局、自動車排出ガス測定局の測定結果報告):
微小粒子状物質(PM2.5): 環境基準達成率は、一般局で37.8%、自排局で25.8%(平成25年度 一般局:16.1%、自排局: 13.3%)であり、一般局、自排局ともに改善しました。 PM2.5については、長期基準(年平均値15μg/m3以下)と短期基準(1日平均値35μg/m3以下)の両者を達成した場合に、環境基準を達成したと評価しています。長期基準の達成率は、一般局で60.3%、自排局で44.4%(平成25年度 一般局:44.3%、自排局: 32.0%)であり、平成25年度に比べ改善しました。また、全測定局の年平均値は平成25年度に比べ低下したものの、一般局、自排局ともに横ばいで推移しています。短期基準の達成率は、一般局で40.6%、自排局で28.8%(平成25年度 一般局:16.3%、自排局: 13.3%)であり、平成25年度に比べ改善しました。平成26年度は、平成25年度に比べ、5、6月に短期基準が非達成となった日が増加したものの、7月、8月に光化学スモッグ現象が発生した日が大幅に減少しました。また、平成25年度は2月に風が弱いなどの気象条件により、関東地域を中心に日平均値が高くなった日が多くありましたが、平成26年度は2月に日平均値が高くなる日が大幅に減少しました。これらの要因により、短期基準が非達成となった日が減少したことから、環境基準の達成率が改善したと考えられます。

*温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」きょう発効 NHKニュース:11月4日 4時51分
地球温暖化対策を進める国際的な枠組み「パリ協定」が日本時間4日午後発効します。発展途上国を含む、すべての国が、それぞれ目標を立てて温室効果ガスの削減に取り組む、この枠組みにどれだけ実効性を持たせることができるのか、今後、各国の姿勢が問われることになります。パリ協定は去年、世界190以上の国と地域が参加して、フランスで開かれた国連の会議「COP21」で採択された、温室効果ガスの削減に取り組む新しい国際的な枠組みです。協定では締約国が55か国以上になり、その国々の温室効果ガスの排出量が世界全体の55%以上に達すると30日後に発効すると定めていますが、先月5日にこの2つの条件が満たされ、国連があるニューヨークの時間4日午前0時(日本時間4日午後1時)協定が発効します。協定は、世界全体の温室効果ガスの排出量をできるだけ早く減少に転じさせ、今世紀後半には実質的にゼロにすることを目指していて、各国が5年ごとに削減目標を提出し、対策を進めることが義務づけられています。先進国だけに削減義務を課した以前の京都議定書とは違い、パリ協定は発展途上国を含むすべての国が参加しますが、各国がそれぞれ、みずから目標を設定して取り組むことから、地球温暖化を抑えるうえでどれだけ実効性を持たせることができるのか、今後、各国の姿勢が問われることになります。
今月7日からは北アフリカのモロッコでCOP22が開かれ、各国の削減目標をどのように検証し、確実な削減につなげるのかなど、具体的なルール作りを話し合うことになっています。会議に合わせて、パリ協定の締約国による第1回の会合も開かれる予定ですが、日本は協定の締結が遅れたため、今回はオブザーバーとしての参加となります。

【用語】環境基準:
環境基本法16条1項は、環境基準について、「政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と規定する。「維持されることが望ましい」という表現ゆえに、法的拘束力を持つものではないとされている。環境基準は、あくまで環境上の条件に関して定められるものであり、遵守義務を持つ主体がいないために、基準値超過状態でも「違反」を観念することができない。(北村・134頁、226頁、269頁、280頁、353頁、385頁)

【人物】Bjørn Lomborg (born January 6, 1965) :
a Danish author and adjunct professor at the Copenhagen Business School as well as President of the Copenhagen Consensus Center.著書:①The Skeptical Environmentalist: Measuring the Real State of the World 『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』 山形浩生訳、文藝春秋、2003年/②How to Spend $50 Billion to Make the World a Better Place 『五〇〇億ドルでできること』 小林紀子訳、バジリコ、2008年/③Cool It! 『地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す』 山形浩生訳、ソフトバンククリエイティブ、2008年
*Jean-Pascal van Ypersele de Strihou (born 1957, in Brussels) :
a Belgian Professor of Climatology and Environmental Sciences at the Université catholique de Louvain (UCL), in Louvain-la-Neuve (Belgium).
*Ralph Waldo Emerson(1803~1882):
アメ リカの思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイスト。18歳でハーバード大学を卒業し21歳までボストンで教鞭をとる。その後ハーバード神学校に入学し、伝道資格を取得し、牧師になる。ボストン郊外のコンコードに住み、文学評論で自然に対する精神的/宗教的な関係について理想主義を唱えた。
*Henry David Thoreau(1817- 1862):
アメリカ合衆国の作家・思想家・詩人・博物学者。マサチューセッツ州コンコード市出身。ハーバード大学卒業後、家業の鉛筆製造業、教師、測量の仕事などにも従事したが、生涯を通じて定職につかず、やがて学生時代に熟読した『自然』の著者で超絶主義者(英語版)のラルフ・ワルド・エマーソンらと親交を結んだ。自費出版した処女作『コンコード川とメリマック川の一週間』(1849年)は、若くしてこの世を去った兄とのボート旅行をまとめた随想で、当時の社会には全く受け入れられなかった。ウォールデン池畔の森の中に丸太小屋を建て、自給自足の生活を2年2ヶ月間送る。代表作『ウォールデン 森の生活』(1854年)は、その記録をまとめたものであり、その思想は後の時代の詩人や作家に大きな影響を与えた。1855年頃から体調を崩し、その後も野外での活動を継続したが、1861年12月頃から体調が悪化し、1862年5月6日、結核の為コンコードで44歳で死去した。コンコードのスリーピー・ホロー墓地に一家と共に埋葬されている。自身の没後に『メインの森』(1864年)や『コッド岬』(1865年)などの旅行記や、自然誌エッセー、日記、書簡集等、数多くの作品が出版されている。ソローの作品は、人間と自然との関係をテーマにしたものが多く、自然文学、今で言うネイチャーライティングの系譜に位置づけられる。多くの著作に現在の生態学に通じる考え方が表明されており、アメリカにおける環境保護運動の先駆者としての評価も確立している。日本においてもアウトドア愛好家などに信奉者が多い。ソローは奴隷制度とメキシコ戦争に抗議するため、人頭税の支払いを拒否して投獄されたことがあり、その様子は「市民的不服従」としてマハトマ・ガンディーのインド独立運動やキング牧師の市民権運動などに思想的影響を与えた。また、現代アメリカにおいて一部の保守主義者の間ではティーパーティー運動の思想的な先駆者であると見做され、良心的納税拒否の点から信奉する者もおり、多くの名言を残した。
*Gifford Pinchot(1865- 1946)
 ギフォード・ピンショーは、アメリカ合衆国の森林管理官、共和党の政治家。1905年から1910年まで農務省の国有林管理部門の最初の長官を勤めた。1923年から1927年までペンシルベニア州の第28代知事(1931年から1935年に2期目)。彼はまた、進歩党に短期間参加、再び1931年から1935年に共和党のメンバーだった。アメリカ合衆国における、「保全」(conservation)、「賢明な利用」(wise use)にもとづいた森林管理・開発の改良者としてピンショーは広く知られている。ピンショーの主要な貢献は、森林や他の天然資源を、人類にとって最大の利益をもたらすように科学的に制御し、管理することの重要性を提唱した。彼はこれを「人間のサービスのためにもたらすことができる森林から生産する技術」と呼び、保全倫理の用語造語を天然資源に適用させた。 ピンショーの主な貢献として、科学的な林業を推進し、それが人類に最大の利益となるであろうとし、森林やその他の天然資源の制御され、収益性の使用を強調するのにリーダーシップを発揮した。
*John Muir(1838- 1914):
ジョン・ミューアは、ナチュラリストの草分け。作家で植物学者、地質学にも精通し、シエラネバダ山脈の地形が氷河作用に深く関わっている事を発見した。また西部開拓の嵐が吹き荒れていた頃、ゴールドラッシュで人口が急増した西海岸の人々が、豊かな森に豊富な水をたたえたこの地に目を付け開発しようと、森林伐採・ダム建設を計画する中、真っ向から異議を唱えシエラネバダの大自然を命懸けで守り続けた人物であり、『自然保護の父』と言われた。ヨセミテ渓谷から端を発する「ジョン・ミューア・トレイル」は彼の業績を記念し造り上げた遊歩道である。第26代大統領セオドア・ルーズベルトはミューアの情熱に心を動かされ、今に繋がる国立公園の理念を確立させていった。また、ミューアは「自然の保護は、自然を知るところから始まる」思いから、多くの人を森に誘い出し、自然教室を開くなど、その素晴らしさを体験させて、「自然と人間との共生」を説いた。

by strafrecht_bt | 2016-11-14 14:08 | 環境刑法


<< 法と環境9:環境倫理学(3)      無期懲役の終身刑化 >>